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長谷川京子
『七夜待』
生きづらいかもしれないですけど、本当に感じないと前に進めない
	『七夜待』長谷川京子 単独インタビュー

取材・文:福住佐知子 写真:田中紀子

『萌の朱雀』や『殯(もがり)の森』など、心に響く作品を作り続ける河瀬直美監督の最新作『七夜待』で、監督に“感じて演じる女優”といわしめた、新しい自分探しの旅にでるヒロイン、彩子を演じた長谷川京子に映画に懸ける思いを語ってもらった。

■やりたい! やらなきゃいけない! という思い

Q:本作は台本がなく、一枚のメモに書かれたことを頼りにアドリブで演じていくという斬新な撮影方法で撮られていますが、出演依頼が来たときの感想は?

最初は撮影方法については知らされていなかったのですが、監督の以前に撮られた作品は拝見していたので、監督は台本があったとしても台本どおりには撮らない方なんだろうという感触はすごくありました。直美さん(河瀬監督)が撮られた作品の質がすごく好きで、そういう作品に出たいって思っていたんです。感情が豊かで、白と黒ではないグレーの部分、細かい感情のひだの部分を繊細(せんさい)に撮っていらっしゃる直美さんの作品に参加したいというか、やらないといけないって思ったんですね。お話をいただいた以上、これもご縁で、絶対にそこは経験したいと思いました。

Q:出演の決め手になったのは?

今後ほかの仕事で現場に戻ったとしても、白と黒をはっきり表現してくださいといわれても、直美さんの現場を知っていると自分の中での演じ方というものが違うと思ったんです。自分の仕事を含め、最近の物というのはすごくわかりやすくなっていますが、人間の心の底ってそうじゃないんだという思いがありましたね。「やりたい!」というのが一番で、「やらなきゃいけない!」という思いも同時にありました。

Q:河瀬監督とはどの時点でお会いになったのでしょうか? どんな印象を持たれましたか?

お話をいただいて、1週間ぐらいしてお会いしました。子どもが何の先入観もなく自分を見てくるような、まっすぐな目をした方だと思いました。そこが怖いというよりは自分というものがごまかせないと思いましたね。きちんと腹を割って付き合わないと納得しないだろうって思わせるような、とても無垢(むく)な目をしてらっしゃいました。

Q:アドリブで演じることに、戸惑いや不安はありませんでしたか?

面白いんですよね。現場に入った時点で何を仕掛けてくれているのかわからなくて、逆に楽しみでしょうがなかったです。今までは役があって、セリフがあって、その中で表現してきたのに、まったくそれがない中で何を表現すればいいんだろうと思いました。このままでいいのか、何か動いた方がいいのかとか、何もしないことへの不安感というのもあったし、セリフを発したことがOKなのかどうかもわからなかったです。いろんなことがすべて良かったのか、悪かったのかわからないという不安感はありました。

■ちょっとヤケ? ハードな撮影現場

Q:河瀬監督はあなたのことを“感じて演じる女優”とおっしゃっていますが、そのことについてどう思われますか?

そう言っていただけると、非常にうれしいですが、感じることしかできないということもありますね(笑)。自分が本当に感じないと前に進めないというのは、すごく生きづらいかもしれないですけど、そうでしかないというのもありますね。

Q:小さな共演者のトイが、あなたにしがみつくようにして一緒に眠るシーンがかわいかったです。

すごく懐いてくれて、くっついてきましたね(笑)。でもあの年ごろの男の子って、意外とテレ屋で、何かの拍子に彼が急に女を意識しだして離れるようになっちゃったときがあったんですね。

Q:ほとんどすっぴんで演じられていて、素のあなたを見せていただきました。泥の中にはまるシーンもありましたね。撮影中に何か困ったことはありませんでしたか?

泥のどぶの中に入るシーンは、正直困りましたね(苦笑)。熱帯雨林のタイではいろんな動植物がすべて大きいんですよ。ビックサイズの虫がいっぱいいる中で、ドブの中にどんな虫がいるのかわからないわけです。「大丈夫なの? 誰か、先に入ってくれているんでしょうね?」って辺りを見回したのですが、どのスタッフの足もきれいなわけですよ(笑)。「誰も入ってないのに、わたしが一番に入るの?」っていう怒りと、ちょっとヤケになって入りましたね(笑)。

■30代になって楽しくてしょうがない

Q:異国の文化や人々に出会うことはお好きですか? どんなことを求めて旅に出るのでしょうか?

わたしが旅に求めるもの……。もちろん、環境を変えるってことがすごく大きいことですが、自分のことを誰も知らない地に行って、冒険したいという気持ちもあるし、単純に建造物や日本にはない習慣みたいなものに触れる楽しみもありますね。でも自分の中で一番大事にしていることは、自分の足で歩くことなんです。どこの国でもいいんですよ。自分の足で歩いたってことの実感と、自信みたいなものを求めにいっている気がします。

Q:疲れたり、落ち込んだりしたとき、あなたはどんな方法でリフレッシュしていますか?

その疲れの種類にもよりますが、そういうものに自分は柔軟に対応していると思います。例えば外国に行ったり、環境を変えたり、人に話すようにしたり、一度自分の中に溜まった毒素を抜く方法や手段を考えますね。でもその方法はひとつじゃないですね。

Q:本作で、どんな自分を見てほしいですか?

彩子も演じたわたしも30代を迎えた女性なんですね。モヤモヤとした不安感を抱くような時期を作品の中の彩子も自分も過ごした時期ってあったと思うんです。でも今は何かすごく肩の力が抜けてきて、これからの30代というものがすごく楽しみだし、今も楽しくてしょうがないんです。20代のときってそれが見いだせなかったんですよ。何かに固執して話しちゃいけないようなものがあったり、何かにしがみついている自分がいたりしたんですが、一度それを手放してしまうとすごく楽になっちゃったんですね。手放すものの中には、頑張らなくていいものだったりとか、着飾らなくていいことだったりいろんな要素があるんです。そういったものに共感していただけるとうれしいですし、この作品を観ることが、日々忙しい生活を送っている多くの方たちの息抜きになってくれたらうれしいです。

河瀬監督のおひざ元の奈良から、異国の地であるタイに舞台が移され描かれた本作は、日常を切り取ったような演出で、ゆる~い不思議な世界観でタイの魅力を存分に描いている。自分探しの旅に出た30歳の彩子を感情豊かに存在感タップリに演じた長谷川は、人のあるままの姿を、自然体で演じ、新しい長谷川京子を我々に見せてくれた。多くの感情を表現できる瞳の持ち主である長谷川の今後に注目したい。

『七夜待』は11月1日よりシネマライズ、新宿武蔵野館ほかにて全国公開

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