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木村多江
『ゼロの焦点』
愛を求めるよりも、愛を与える人になりたい
『ゼロの焦点』木村多江 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:尾藤能暢

広末涼子、中谷美紀、木村多江という3人の実力派女優を迎え、松本清張生誕100年記念として映画化された社会派ミステリーの名作『ゼロの焦点』。昭和30年代の北陸を舞台に、時代の波に翻弄(ほんろう)される女たちの生きざまを描いた本作で、謎の連続殺人事件のキーを握る女性・久子を熱演した木村多江が、作品に対する思いや撮影時のエピソード、さらに女性観について、じっくりと語ってくれた。

■松本清張作品は、弱い人を描いた人間ドラマ

Q:本作は松本清張生誕100周年記念作品ですが、完成した映画をどうご覧になりましたか?

わたしはミステリーというよりも、人間ドラマとして観ました。松本清張作品は、弱い人について描かれていることが多くて、悪いことをしてしまった人物にも悲しい動機があるんですよね。本作にも、人が生きていく上での悲しみやはかなさ、強さや弱さなど、人間のいろんな感情が描かれていると思います。

Q:木村さんが演じた久子も、悲しいほど純粋な女性でしたね。

久子を演じるのは本当に難しかったです。人っていつまでも純粋無垢(むく)ではいられないじゃないですか。世渡りをしていく中で、身を守るためにいろんなものが付着していくはずなのに、無垢(むく)なままでいられるのってすごいことですよね。そんな人は周りにいないし、もちろん自分も違いますし、どういう人なのだろう? と悩みました。ただ、激動の時代を必死に生きている女性なので、その本質的な部分をしっかり描きたいと思いました。

Q:久子の柔らかな金沢弁も印象に残りました。撮影前にかなり練習されたのではないですか?

金沢弁のCDを何度も聴いて練習しました。後は、東京で暮らしていたこともある設定だったので、標準語をどれくらい入れていくのか、犬童一心監督と相談しながらやらせてもらいました。映画の金沢弁はすごく優しい雰囲気ですけど、実際はもっと強烈みたいですよ。

■思い出しただけで胸が切なくなるシーンとは?

Q:今回は中谷美紀さん演じる社長夫人・佐知子とのシーンが中心でしたが、共演されていかがでしたか?

美紀ちゃんとは何度も共演していて、とても尊敬できる女優さんです。久子は佐知子のことが大好きという設定だったので、お芝居というよりも、わたし自身が大好きな美紀ちゃんに話し掛けているような感じでしたね。現場で美紀ちゃんを愛おしく思いながら演技をすると、彼女もそれを返してくれて、お互いにすごく共鳴し合えたような気がします。

Q:特に印象に残っているシーンはありますか?

美紀ちゃんと小学校の教室で歌をうたうシーンは、演技として記憶に残っているのではなく、まるで本当にあった出来事のようでした。自分のアルバムを開いてみたら、そこにあるような感覚というか……。今も思い出しただけで胸が切なくなります。

Q:ヒロインの禎子を演じた広末涼子さんにはどんな印象を持ちました?

広末さんとお芝居をするのは初めてだったんですけど、すごく朗らかな方で、待ち時間はガールズトークで盛り上がっていました。一緒にいると楽しくて、おしゃべりが尽きなかったですね。今回はほんの少ししか共演するシーンがなかったので、今度はもっとご一緒できたらうれしいです。

■女性同士のドロドロには興味がない!?

Q:本作には女性同士の濃厚なドラマが描かれていますが、木村さんご自身は女性同士のトラブルに巻き込まれたことはありますか?

12年間ずっと女子校だったんですけど、トイレも一緒! みたいな関係が苦手で、みんなの輪の中に入ることができなかったんですよ。わたしは下町生まれなので、何事も潔いことが大事なんです。「グジグジ言ってんじゃねえ!」みたいな(笑)。だから、女性ならではのドロドロした部分には興味がないんです。たとえ女の人に裏切られたとしても、こちらから相手に何かをすることはないですね。その経験はお芝居に使わせてもらいます(笑)。

Q:逆に、女性同士だからわかり合えることもありますよね。

そうですね。女友達にはいつも支えてもらっています。男性の友達とは全然違う、本当の家族のような関係になれますよね。でも、あんまり異性だからとか同性だからとか、意識していないような気がします。

Q:木村さんはとても女らしいイメージがありますが、実際はちょっと男っぽいのですね。

みんな、わたしが何でもキッチリできると思うみたいなんですよね。お裁縫が上手にできそう! とか(笑)。でも、本当は何にもできなくて、ドンくさいって言われるタイプなんです。でも、実際とは違うイメージで見ていただけるのは、俳優としてうれしいことなんですけどね。

■大切なのは愛を与えることをいとわないこと

Q:北陸の美しい景観も本作の見どころですが、滞在していかがでしたか?

日本海側って寂しいイメージがあったんですけど、晴れると全然そんなことないんですよね。今回の作品は、犬童監督が色をすごく大切にされていて、北陸ならではの色合いが感じられると思います。あとは、お魚がおいしかったことが印象に残っています。特にノドグロがおいしかったです(笑)。

Q:激動の時代を生きた本作の女性たちから、学んだことはありますか?

わたしが演じた久子は、とにかく現状を守ることに必死で、欲しいものもなくて……でも、自分が不幸だとは思っていないんです。今は物質には恵まれているけど、心は貧しい時代かも知れません。だから、久子のように小さな幸せを大切にして、愛情を与えることをいとわないことが、現代にも必要なんじゃないでしょうか。わたし自身も、愛を求めるより、愛を与える人になりたいです。

Q:最後に、木村さんからこの作品の見どころを伝えてください。

時代に翻弄(ほんろう)されていく3人の女性の人間ドラマと、色にこだわった映像美を楽しんでいただけたらと思います。そして、『ゼロの焦点』で描かれた過去があるからこそ、今の時代があるのだということを、タイムスリップ感覚で味わっていただきたいです。

本作のテーマカラーでもある赤のドレスを大胆に着こなしつつ、「赤を身に着けると気性が荒くなっちゃうので、普段は着ないようにしているんです」とテレくさそうに笑う木村。犬童監督から「悲しみを表現できる女優」と絶賛された彼女だが、素顔は意外なほど朗らかで、おおらかな包容力を感じさせる女性だ。そんな木村ふんする久子のイノセントなほほ笑みと、女たちの壮絶な生きざまが胸に迫る『ゼロの焦点』は、今を生きる女性にこそ観てほしい作品だ。

映画『ゼロの焦点』は全国東宝系にて公開中

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