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メルの生い立ちと父親の影響

その昔(といっても1980~1990年代の話ですが……)メル・ギブソンといえば、子だくさん(なんと8人!)で愛妻家、人当たりも抜群で、まさに理想の男性像のようにいわれていました。1995年には、自ら監督・主演を手掛けた『ブレイブハート』でアカデミー賞監督賞を受賞し、この時期のメルはまさに順風満帆。公私共に最高潮な時代だったといっても過言ではないでしょう。しかし、実はそのときからすでにメルの中には暗雲が立ち込めつつあったのです……。

ギブソン家は、メルが12歳のときにオーストラリアへ移住しました。彼の父親がテレビの人気クイズ番組『ジェパディー!』で優勝し大金を獲得したのがきっかけ、というユニークな理由からだったのですが、このメルのお父さんハットン氏はメルが有名になってからというもの、事あるごとに顔を出しては問題発言をし、映画業界のみならず社会的にあきれられ、時には関係団体から大いにたたかれるという困った人でした。

ハットン氏は敬虔(けいけん)なカトリック教徒らしく、それをかさに着たさまざまな差別発言をしており、ゲイの人たちに対する差別発言はもとより、第2次世界大戦中に起きたナチス・ドイツ軍のユダヤ人大虐殺を「ユダヤ人たちによる架空のストーリーである」と正気とは思えない発言をし、ユダヤ系団体のみならず社会全体から大変な非難を受けました。

このような父親の偏った考え方に触れながら育ったメルもまた、残念なことに、父親の考え方を受け継いでしまったようなのです……。そして、それはメルが年を取るにつれ、彼の中で醜い頭をもたげだし、やがてはメルの転落のきっかけまでも作ってしまったのです。

「世界のヒーロー」から「DV男」へ……転落への道のり

『ブレイブハート』のころのメルは、公私共にまさに「英雄」といった感じで光り輝いていました。それが変わり始めたのは、メルが製作・監督・脚本を手掛けた問題作『パッション』(2004)のころからといえるでしょう。自らの資産2,500万ドル(約22億5,000万円・1ドル90円計算)を注ぎ込み、1992年ころからリサーチを始めて約12年がかりで製作したこの映画は、キリストが十字架にかけられる前後に焦点を絞ったストーリーで、興行収入の面ではヒットを記録しましたが、ユダヤ人の多い映画業界、ならびにユダヤ系の多い大都市の評判はかなりネガティブで、「この映画には私情が大いに混入しており、ユダヤ人に対する敵意が感じられる」という酷評が飛び交いました。

一方、ちょうどこのころ、メルの自宅があるロサンゼルス近郊のマリブという海辺の街に、カトリック教会を建てて毎日ミサに通っているというニュースが話題になりました。何やらカルトがかってきたメルの様子に「一体メルはどうなっちゃったんだ!?」と思ったのはわたしだけではなかったはずです。

この後、それまでメルの十八番だった娯楽大作出演には完ぺきに背を向けて、自らが監修・監督をする独立製作の映画に力を注ぎ始め、マヤ文明の崩壊を扱った血生臭いドラマ『アポカリプト』の制作を始めたのでした。そして皮肉なことにメルのキャリアも、一時は栄華を極めていたマヤ文明が無残に崩壊していったように、ますます悪化の一途をたどっていったのです。

メル転落劇の第1幕となったのは2006年7月28日の飲酒運転事件です。マリブのバーで、しこたま飲んで酔っ払い運転をしたメルは、その場でお縄ちょうだいとなったのですが、この後の言動が事態をさらに悪化させました。彼は、逮捕した警官に向かって「お前はユダヤ人か?」と聞き、警官がそうだと答えると、「世界の争いはすべておまえらユダヤ人たちのせいだ」とののしったというのです。このほかにもメルの悪口雑言をつづった調書が翌朝のニュースでメルの犯罪者顔写真と共に大々的に取り上げられ大変な話題になりました。メルはこの後、公的に2度謝罪しましたが、いうまでもなく覆水盆に返らず……な事態となったのです。

新しいガールフレンドに対するDVと証拠テープ

このころからメルのアルコール依存症、女性問題、そして数々の人種差別的態度ばかりが取りざたされるようになっていきます。そして2009年、ついに29年間連れ添ったロビン夫人がメルとの離婚届を提出します。一説によると、メルとロビン夫人はすでに2006年ころから別居を始めており、離婚は時間の問題だったようです。

しかし離婚が成立した直後、メルはロシア人ピアニストのオクサナという女性との交際が発覚。おまけに彼女は妊娠中だと報道されます。そして2009年10月、メルとオクサナの間に娘のルチアちゃんが生まれますが、その幸せは長続きせず2010年の4月には終わりを迎えます。この一連の騒動だけでも、多くの女性ファンは彼に失望した……といっても過言ではないでしょう。

ただ、ここで終われば、良くも悪くもハリウッドによくあるお話という程度だったのですが、さらなる問題に発展してしまうのです。それは、メルとオクサナが別れた理由の一つに、メルの暴力があったというもの。なんでも、生まれたばかりのルチアちゃんを抱いていたオクサナを口論の最中に殴りつけたというのです。

この一件を裏付けるべく、先日オクサナを罵(ば)倒するメルの声が録音された留守録テープがインターネットで暴露されました。これはメルの暴力におびえ、ケガまでさせられた彼女が、メルを後で訴えるときの証拠として提示するため内緒で録音して故意に公開したものといわれていますが、いずれにせよネット上でメルの悪口雑言がすべて聞けるようになっており、余りのひどさにアメリカ中があぜんとしました。ちなみにわたしもこのテープの一部を聞いたのですが、メルがオクサナに、「裏庭にあるおまえのお気に入りのバラ園に殺して埋めてやる。そんなことオレにとっては簡単なことなのがわからないのか?」と叫んでいる声が今でも耳に残っています……(コワすぎる!)。

このテープが公開された日に、メルと長年契約していたタレント・エージェンシーであるウィリアム・モリス社が彼との契約を打ち切り、解雇しました。こんな犯罪人のようなクライアントを抱えているのはイメージダウンだということと、このような状況のメルにはもう仕事を取ってくる力はなく商業的価値もないという判断なようです。

元妻のロビンは、メルが家庭内暴力に走ったことはなかったと法的に証言していますが、もしそれが本当だとしたら、アルコール依存症ならびに重度のそううつ病を患っているというメルの精神状態が懸念されます。理由は何であれ、オクサナの録音テープが公開された後、警察が家庭内暴力の罪でメルに対する調査を正式に開始したといいます。一体これからメルがどうなってしまうのか心配ですが、いずれにせよ早いところ人間として立ち直ってほしいものです!
(取材・文 アケミ・トスト/Akemi Tosto)

About Addie

高校留学以来ロサンゼルスに在住し、CMやハリウッド映画の製作助手を経て現在に至る。アカデミー賞のレポートや全米ボックスオフィス考など、Yahoo! Japan、シネマトゥデイなどの媒体で執筆中。全米映画協会(MPAA)公認のフォト・ジャーナリスト。

引っ越し屋に愛する50インチ液晶テレビを壊されてキレまくってますッ。訴訟じゃぁああ!!

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