シネマトゥデイ

妻夫木聡、松山ケンイチ
『マイ・バック・ページ』
自分を信じないと、どんなこととも向き合えない
『マイ・バック・ページ』妻夫木聡、松山ケンイチ 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:尾藤能暢

映画『天然コケッコー』などで知られる山下敦弘監督が、文筆家の川本三郎のノンフィクションを映画化した『マイ・バック・ページ』。1960年代後半の学生運動と、その中で起きた衝撃の事実を描いた本作で、理想に燃える週刊誌編集記者の沢田を演じたのは、映画『悪人』の妻夫木聡。そして若き活動家の梅山を、多彩な作品で実力を発揮する松山ケンイチが演じている。今回が初共演となる2人が、お互いの印象や作品への熱い思いを明かした。

■命懸けで理想を追い求めた男たちの物語

Q:骨太な社会派ドラマであると同時に、男たちの人間ドラマとしても秀逸な作品ですね。お二人は完成した作品をどうご覧になりましたか?

妻夫木:最初に台本を読んだときは、60年代から70年代の時代に翻弄(ほんろう)された人々の話だから、時代性をもっとリアルに描くのかなと思っていたんですけど、その時代の男たちがどう生きたのかという部分をしっかり映し出していましたよね。感動だけでなく、映画を観たことで自問自答をするような作品になったのではないかと思います。

松山:男が理想に挑戦する物語なので、僕自身も引き込まれたし、ずっと残っていく映画だと思いました。挫折を経て人は成長していくという普遍的な部分が、本当にうまく表現されているなと思いましたね。もちろん、時代性の面白さというのもあるのですが、それ以上に、挫折しても前に進んでいく男たちのエネルギーを感じました。

Q:それぞれの信じる道を突き進んでいった沢田と梅山という役に、共感する部分も多かったのでしょうか?

妻夫木:沢田が何かを求めて突っ走っていった姿というのは、僕自身が役者というものに対して突っ走っているところと重なる部分はありますけど、やはり時代が違うので、やっていることの大きさも命の懸け方も違うと思うんです。今の僕らは、どこかで守られているように感じてしまうけど、沢田はそういったものを投げ捨てて走っていたというか・・・・・・。言葉ではうまく言えないのですが、じゃあ、今の僕に「そこまでの覚悟はないのか?」と聞かれたら、あるつもりです。ただ、精神的な部分で根底にあるものが違うような気がするんですよね。

松山:僕が演じた梅山は、革命を起こすという目標に真剣に向かっているうちに、理想と現実とのギャップがわからなくなっていたように思うんです。革命のために自分自身を置き去りにして、時には人のいい青年になったり、理想に燃えるヒーローになっていたり、いろんな人物像を無意識に演じてしまっていたような気がします。だから、もしも自分が梅山の精神状態に陥っていたら、正直イヤだなと思いました。周りからインプットされた理論や行動が評価されたとしても、それが本当の自分の言葉でなかったら意味がない。そんなことを考えさせられた役でした。

■「また一緒にやりたい」とは、最高の褒め言葉!

Q:沢田と梅山は文学や音楽を通して打ち解けていきましたが、お二人も共通の話題で盛り上がることはありましたか?

妻夫木:あんまりなかったような気がするなあ・・・・・・別に仲が悪かったわけじゃないんだけど(笑)、特に芝居について熱く語るわけでもなかったしね。

松山:演技論なんて、現場でする話じゃないですからね(笑)。

妻夫木:僕は、演技論を語るのはあまり好きじゃないんですよ。なんかこっぱずかしくなっちゃって(笑)。「最近、なんかいい映画観た?」とか、普通の話をしたくらいでしたね。

Q:でも、今回の初共演でお互いの距離が縮まったのではないですか?

妻夫木:それはありますね。松ケンの人間としていいところを知った気がして面白かったです。それがわかった上で、また次の作品で一緒にやれたら、すごく面白いものができそうだなと思っています。

松山:「また一緒にやりたい」というのは、僕にとって最高の褒め言葉なので、すごく光栄です。僕は、「これを機に友達になる」というのは違うような気がするんです。役者として現場で過ごして、また一緒に同じ現場に立ちたいと言ってもらえるほうがいい。僕自身も、今回、妻夫木さんの芝居を間近で見させていただいて、本当にスゴイと感じましたし、また別の作品で共演させてもらえたらうれしいです。

妻夫木:松ケンはいろんなところにアンテナを張って、常に耳を傾けて感性を磨いているんですよ。僕にはない独特の感性を持ったやつなので、一緒に芝居をしていてすごく刺激になったし、それに感化されて僕自身の芝居も変わっていった部分もあって、本当にいい俳優だなと改めて思いました。

■激動の時代を駆け抜けた人々の思い

Q:山下監督は「沢田の涙」に思い入れがあったそうですね。涙する妻夫木さんの表情が素晴らしかったです。

妻夫木:あれは一発撮りだったんです。テストのときも涙は見せずに、「こんな感じでやります」と言っただけで、本番一発で撮ることができました。山下監督があのシーンを最後に撮ってくれたので、沢田の5年間の月日を僕自身の気持ちとして現場に持っていけたし、あの場面に至るまでに監督や脚本家の向井(康介)さんと沢田の心の動きをみっちり話し合っていたから、みんなが同じゴールに向かって走っていけたんでしょうね。現場の空気も含めて、スタッフがいい環境をつくり上げてくれたので、僕は沢田としてそこにいるだけで自然に思いがあふれたのだと思います。

Q:松山さんは、本作と同時代を描いた映画『ノルウェイの森』にも出演され、まったく異なるキャラクターを見事に演じ分けていますが、二つの作品が芝居に影響したことはありましたか?

松山:まったく別物だと考えてはいましたけど、学生運動をする側と、その逆側を演じることは、自分にとって面白い試みでした。立場によって全然違うんだなということがわかりましたし、二つの役を通じて、60年代という時代が本当に特殊だったのだかもしれないと感じました。みんなが大きな壁に立ち向かうことによって、その壁が崩れると信じていた時代というか、今にはない大事なものを持っていた時代だったような気がします。

■2人が役者として信じるものとは?

Q:信念を貫こうとした本作の沢田と梅山のように、お二人にも役者として信じているものがありますか?

妻夫木:まずは自分を信じることですね。自分を信じないと、どんなこととも向き合えないような気がしているんです。だからこそ、自分自身を知るということが大切だと思っているんですけどね。自分を信じるって難しいことだけど、そうありたいと願っています。

松山:僕が映画にかかわる上で重要なことなのですが、題材やキャラクターの面白さで観る人の心を動かしていく映画は、学校では教えてくれない生活の中での知恵や、人間らしい感性をたくさん与えてくれるものだと思うんです。その映画の持っているパワーを信じていきたいです。

Q:今回の映画からも、強烈なパワーを感じました!

2人:ありがとうございます。

妻夫木:この映画の時代の若者たちは、今の僕たち以上に自分の言動への責任感や前に突き進む力があったような気がしていて、「今の人も、もっと自分の意思を持って立ち上がっていいのでは?」と感じました。見えない何かを追い求めていった男たちの情熱が、少しでも観る人に伝わるといいなと思っています。

役者としての個性もキャリアもまったく異なる妻夫木と松山だが、取材時に感じた2人の共通点は「誠実さとひたむきさ」だ。真摯(しんし)に役と向き合い、誠心誠意芝居に打ち込み、お互いの存在を認め合っている彼らだからこそ、こんなにも胸を揺さぶる人間ドラマが生まれたのだろう。沢田の情感豊かな表情と、梅山の不思議な存在感が心に残る『マイ・バック・ページ』。激動の時代の中で彼らが信じたものとは、一体何だったのだろうか? その答えは、映画を観たあなた自身に見つけてもらいたい。

(C) 2011映画『マイ・バック・ページ』製作委員会

映画『マイ・バック・ページ』は5月28日より全国公開

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