シネマトゥデイ

シネマトゥデイ
松たか子
『大鹿村騒動記』
身一つで芝居はできるという、自分を持っていたい
『大鹿村騒動記』松たか子 単独インタビュー

取材・文:鴇田崇 写真:吉岡希鼓斗

長野県の山村に300年以上も伝わる大鹿歌舞伎を題材に、阪本順治監督と原田芳雄が本格タッグを組み、娯楽の原点を追求する群像喜劇『大鹿村騒動記』。原田演じる村歌舞伎のスターを中心に上演を邪魔する騒動の数々を軽妙に描く本作に、女優の松たか子が村役場職員の美江役で参加。歌舞伎役者・松本幸四郎を父に持つ彼女が、大鹿歌舞伎に触れた感想や、思いも寄らぬ出来事で人生が変わる美江の印象、芸能本来の原点に立ち返らせてくれた村歌舞伎の底力などについて語った。

■これだけの豪華キャスト、出ない理由がない!!

Q:大鹿歌舞伎が実際にあるものだということは、映画出演前からご存じでしたか?

村歌舞伎自体はいろいろな場所にあることをなんとなくは知ってはいましたが、大鹿村のそれは知らなかったですね。早く観てみたくて、撮影の前に秋の公演を観に行きました。村の人たちが一生懸命に演じていて、お客さんの掛け声やおひねりが役者たちの集中を止めるかのごとくバンバン飛び交っているのですが、役者さんたちはそれにまったく動じないまま(笑)、けいこしてきたことを表現している。とても純粋で素晴らしかったです。

Q:ご自身にとってなじみが深い歌舞伎が題材であることも出演の決め手になりましたか?

いえ。わたしは今回歌舞伎を演じる役割の人間ではなかったので、そこへの気負いは持たないようにしていましたし、実際に大鹿歌舞伎を観て、本来(歌舞伎というもの)はこうだとか、そういうことではないとも思いました。皆さんが頑張って続けている村歌舞伎に対して本来の所作がどうとか言い始めると、原型が崩れてしまうのではないかと。原田さんたちもそれを理解されていて、村の様式でやると決められていました。

Q:日本映画界を象徴する豪華俳優が集いましたが、どのような意気込みで臨みましたか?

声を掛けていただいたときに、役とかは関係なく、どんな映画になるだろうという気持ちだけで参加しました(笑)。原田さん、大楠道代さん、豪華な皆さんが顔をそろえる現場はなかなかないので、何でもいいから参加したいと思いました。撮影が始まれば皆さんとても生き生きしていて、カメラが回っていないときの会話も面白く、撮影中はずっと笑っていましたね。

■あいさつまで粋!! 大鹿村の不思議な魅力とは!?

Q:長年にわたって受け継がれる村歌舞伎には芸能本来の魅力があふれ出ている気がしました。

本来の大歌舞伎は芸を洗練させて型に落とし込み、人前で披露するものでしょうけれど、村歌舞伎はそういうことではなく、村に暮らしている人たちが一生懸命におけいこをして、皆で楽しみながら演じています。もちろん本来の歌舞伎にもそういう要素はあると思いますが、それがビビッドに伝わる条件が、村歌舞伎の距離感にはあるなあと思いました。きっと村の人たちが舞台に立つときのとてもピュアな思いと、本来歌舞伎が持っている怪しげな猥雑(わいざつ)さみたいなものが混然一体となって渦巻いているからなのでしょうね。

Q:2週間という撮影期間は、大鹿村の人々と一体化するために十分な時間でしたか?

村の一員になれることが居心地良くて、自然でいられました。わたしが滞在していた場所は、ロケ地よりもさらに橋を一個所渡った場所にある、奥地のペンションでした。ご主人とも仲良くさせていただいて、山下達郎さんのCDがほぼそろっている(笑)。そういうことでも会話が弾みました。ただ、いればいるほど落ち着くけれど、彼らの生活をどこかでざわざわとさせてしまっている気もして、ちょっと複雑な気分でした。

Q:阪本監督の言葉を借りれば、フィクションを成立させる磁場があるような場所だそうですね。

そうですね。ただ、また訪れてみたい場所だなと思いながらも、頻繁(ひんぱん)に行ってお騒がせしてしまうことにちょっと抵抗を覚えるような、何か大切なものがあるということを感じさせる不思議な場所でしたね。そこへ行くまでも、とても大変で、ダムの横の道を40分ほど進むんです。トラックとたくさん擦れ違うのですが、相手が道を譲ってくれるときに、そのあいさつの仕方が皆かっこよくて(笑)。東京で普通に道を譲られることも少ないので余計にそう見えるのか、運ちゃんの手つきがしゃれている。そこにドキッとしちゃうわけですよ(笑)。運ちゃんも全然悪くないぞって、妄想が広がる。そんな人たちが出入りする村でしたね(笑)。

■女性として一歩前に踏み出す勇気と刺激をもらった

Q:美江は、東京に出て行った男と煮え切らない関係が続く、村役場の女性です。

彼女については、わたしが複雑に背景を決めることはやめようと思っていました。彼女には、大楠さん演じる貴子さんと出会ったことで、ほんのちょっとだけ変化が起こります。昔村を出て行った貴子さんが戻ってきて、なんとなく興味本位で見ていたはずなのに、それがいつしかちょっとした尊敬の念に変わっている。一歩も踏み出せない自分と比べ同じ女性として惹(ひ)かれたのかなあと思いますね。

Q:その心情に、ご自身の個人的な思いが重なっていくようなことはありましたか?

わたし自身が大楠さんを一人の女性として見たときに、美江と同じように興味を持って惹(ひ)かれているような気がしましたし、役柄と同じような距離感で大楠さんを見つめていたところもあるように思いました。美江はなかなか決断できずに村の中にとどまっている人だったので、本当に小さな一歩でしたが、彼女なりに成長したはず。そんな彼女を演じることで、わたし自身も同じ女性として刺激をもらったようなところはありましたね。

Q:一平(佐藤浩市)と美江との関係は、以前共演された『THE 有頂天ホテル』を連想させましたね。

そうですね(笑)。一平さんと美江さんは『THE 有頂天ホテル』の2人と少し似たような距離感の役柄同士で、近い所にいるなあとは思っていました。最初、原田さんが鹿の世話をしていて、佐藤さんがバスの運転手をしているなんて、そんな村はない、あり得ないだろう! と思いましたが(笑)、でも一歩村に入れば東京とは違う空間だったので、大鹿村の住人としてはありかもって思えたら次第に面白くなってきて(笑)。おかげで佐藤さんとのやりとりも楽しめましたね。

■体一つあれば芝居はできる!! 芸能本来の魅力・本質を再確認

Q:この作品に出会うと出会わないとでは、今後の俳優としての活動がまったく違いそうですね。

それはあったと思いますね。大鹿村では、衣装やかつら、装置、すべてを手分けして保存していて、わたしたちの場合は全部自分で管理しなくてはいけないことって普通はないけれど、もしそういう立場になったとしても、できるようでいたい。身一つあればお芝居はできるじゃないかという自分を持っていたいなと思いました。何でも用意されていることが当たり前になっていちゃいけないなと、村の人たちが支え合っている姿を見て、それは強く思いましたね。

Q:純粋で素朴、自由な大鹿村歌舞伎に触れたことで身軽になったところもありそうですね。

はい。そのことはすごく感じました。皆さんが一生懸命に演じて、とても生き生きとお芝居をしている。それはわたしも変わらずに目指したい姿勢で、とてもいいものを見させていただきました。この映画は心温まる人情話ですが、想像以上のハチャメチャぶりが楽しめると思いますし、それすら自然に見えるパワーがあります。特に原田さんが体を張っていますし、ここまでストレスのない映画も珍しいです。本当の意味でいろいろな世代の人が楽しめる人情話になったと思いますので、ぜひお楽しみいただければと思います。

大鹿歌舞伎という日常の生活や感情に根差した、粗削りだがピュアな情熱が投影された村歌舞伎に触れたことで、芸能本来が持っている魔力のような魅力を再確認するとともに、自身の演技についてのスタンスに対しても思いを改めたという松。原田や松ら第一線で活躍するプロの俳優たちに影響を与え、人生における娯楽の重要性や必要性について改めて考えさせられるような大鹿歌舞伎をめぐる珍騒動に、巻き込まれてみてはいかがだろうか。

(C) 2011「大鹿村騒動記」製作委員会

映画『大鹿村騒動記』は7月16日より全国公開

[PR]

この記事を共有する

映画アクセスランキング
  • Loading...
»もっとランキングを見る«
スポンサード リンク
スポンサード リンク