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今週のクローズアップ 鬼才?異才?どこまで行く園子温監督

 映画『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』など観客の度肝を抜かせるような作品を次々と生み出し続ける園子温監督。彼の作品といえばどれも過激なものばかりだが、それ以上に驚かされるのが、出演している俳優たちの「怪演」。先日、映画『ヒミズ』が第68回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、主演の染谷将太二階堂ふみがマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞したのも記憶に新しい。そしていよいよ公開を迎える最新作『恋の罪』では、3人の女たちが身も心もむきだしの迫真の演技を披露している。この役者の魅力を引き出す力は、園監督の手腕にほかならない。そこで監督の作品を振り返ってみるとともに、各作品で「怪物的」な変身を遂げている俳優たちに迫ってみた。
『愛のむきだし』で今や日本を代表する演技派女優へ。満島ひかり

 映画『スマグラー おまえの未来を運べ』『一命』など、今年も公開作がめじろ押しで、いまや日本を代表する演技派女優としてその名が知られている満島ひかり。その彼女のまさに原点ともいわれる作品が、園監督が手掛けた『愛のむきだし』だ。

 本作は、園監督が実話をベースに書き下ろしており、主人公のユウ(西島隆弘)の、“園流”のいちずな純愛物語が展開する。公開当時、237分という異例の長さが話題にもなったが、ベルリン国際映画祭では、フォーラム部門正式招待作品としてオープニングを飾り、カリガリ映画賞と国際批評家連盟賞のダブル受賞という快挙を果たした。

 主人公のユウが恋をする少女、ヨーコにふんした満島。チンピラ相手に飛びげりで返すほどケンカが強く、男勝りなキャラクターだ。その殺気立つオーラには、公開時誰もが圧倒されただろう。しかし、役づくりは命懸けというほど過酷なものだったらしく、撮影中は園監督に何度も罵声(ばせい)を浴びせられたそうだ。記者会見の場では「毎日ギリギリの状態で、すごくつらかったんですけど、生まれて初めて心から生きている実感がしました」と半泣きで語っていたという満島。しかし、園監督によるスパルタ教育も実を結び「もはや狂気とも呼べる領域に達した満島の芝居にすべてが圧倒された」と監督を言わしめ、世界でも彼女の演技は認められた。ちなみに満島は本作でモントリオール・ファンタジア国際映画祭の最優秀女優賞をはじめ、ヨコハマ映画祭、毎日映画コンクールなど、その他多くの新人賞を受賞、キネマ旬報賞では助演女優賞を獲得。この作品なくして満島ひかりは存在しない!? まさに彼女にとって転機ともいえる作品だったことは間違いないだろう。

 

園子温監督
Getty Image

恐るべし怪演!『冷たい熱帯魚』でんでん×吹越満

 続いて園監督が放ったのは、埼玉の愛犬家連続殺人事件や監督自身が被害に遭った詐欺事件などをベースに生まれた映画『冷たい熱帯魚』

 本作は、家庭不和を抱えつつ、小さな熱帯魚店を営む主人公(吹越満)が、ある日、人当たりが良く面倒見のいい同業者の村田(でんでん)と知り合うことで、やがて猟奇殺人事件に巻き込まれていく様子を描いたエロスとバイオレンスが満載な、R18+指定のブラック・エンターテインメントだ。

 『愛のむきだし』では、フレッシュな顔ぶれが目立ったが、今回はオヤジ映画を作りたかったという園監督のキャスティングに。「有名俳優をキャスティングする状況だと、面白い俳優が育たないと思うんですよね。いい俳優なら、これまで脇役をやられていた方でも使うべきだというポリシーがあるんですよね」とインタビューで力強く語っていた園監督。そこで選ばれたのが、主人公を演じた吹越満、そして猟奇殺人事件の主犯のでんでんといった日本映画の屋台骨を支えるいぶし銀俳優たちだ。

 主人公の社本を演じた吹越は、夫や父親としての威厳もなく、でんでん演じる村田の口車に乗り、次第に殺人事件に巻き込まれてしまうという気弱な中年男役。しかし人間の狂気を目の当たりにして、次第に彼も狂気の渦にのまれていくさまを演じ切ったのは、さすが名脇役。対するでんでんも映画『ダークナイト』のジョーカーもびっくりの悪魔のようなキャラクターを演じ、神楽坂恵ふんする若妻を張り倒したり、邪魔になった人物をバラバラに解体して殺害……。しかもそれをあの七福神のような笑顔でやるのだから、震撼(しんかん)させられる。彼ら以外にこの役を演じられる人がいるのか? そう感じさせてしまうような役者の演技が引き立つ、まさに園監督の狙い通りともいえる作品に仕上がっている。

 

数々の賞を受賞した衝撃作『冷たい熱帯魚』
ブルーレイ(税込み:5,985円)&DVD(税込み:4,935円)は発売中(発売元:日活株式会社、販売元:株式会社ハピネット)
(c)NIKKATSU

女って怖い!『恋の罪』水野美紀×冨樫真×神楽坂恵

 そして前作『冷たい熱帯魚』から約1年。第64回カンヌ国際映画祭・監督週間部門でワールドプレミア上映もされた最新作『恋の罪』がいよいよ公開される。

 本作は、1990年代に渋谷区円山町のラブホテル街で実際に起きたエリートOL殺人事件をモチーフに制作された作品。事件に絡んだ3人の女性たちの数奇な運命を、サスペンス仕立てに描く。

 人間の内面にある狂気や執着など、人が表面にあまり出したくない感情をえぐり、登場人物を非常に「人間らしく」描いてきた園監督が、今回テーマにしたのが「女の業」。三者三様の女の表と裏、そして生きざまがSEXや狂気、生と死、家族を通して壮絶に描き出されている。主人公の女刑事・和子にふんしたのは、水野美紀。もともと園監督のファンだったという彼女が、今回初のフルヌードに挑戦(!)仕事と幸せな家庭があるにもかかわらず、愛人との関係を断てない女性を、大胆かつリアルな演技で演じ切り、新境地を開拓している。

 しかし本作で最もドロドロとした女の業を体現してみせたのは、本作の事件の重要人物を演じた冨樫真神楽坂恵の二人だ。冨樫演じる美津子は、昼は大学のエリート助教授で、夜は渋谷のホテル街を歩き回る娼婦(しょうふ)という二つの顔を持つ女。毎日快楽におぼれて夜の渋谷を歩き回る様子は痛々しくも、女性の「渇き」を見事体現している。「くそババア!」や「わたしのとこまで堕(お)ちてこい!」とたんかを切るシーンは圧巻。その二面性をぜひ劇場で楽しんでもらいたい。

 そしてもう一人重要な人物を演じたのが、『冷たい熱帯魚』にも出演した、園作品のミューズといえる神楽坂恵。その彼女が、今回挑戦したのが本作の事件の鍵を握る人物、いずみだ。亭主関白な有名小説家の夫に献身的に尽くし、何不自由ない暮らしを送りながらも、刺激のない日常に「渇き」を覚え、次第に性を解放していくという難しい役どころだ。このいずみという役は、監督が神楽坂をイメージしてつくられたキャラクターだったそう。それだけに監督が求めるものは大きかったようで、神楽坂はこの役を演じられなかったら女優をやめようと思うほど追い詰められたという。しかし本作の舞台あいさつでは「監督に泣かされてまで頑張ったかいがあった」と吹っ切れたように語っていたそう。そんな彼女は、先日園監督と婚約を発表! 本作で女優としても女としても大きく成長をしたのは確かだ。監督の次回作『ヒミズ』にも出演するようで、またどんな表情をみせてくれるか注目したい。

 「女性ならではの、社会、家庭、性の抑圧が中心となる映画にしようとした。日本における、女性特有の抑圧と解放の物語です」と本作について語っていた園監督。物語の果ては一体どこなのか。女たちの迫真の演技合戦は、ぜひ劇場で確認してほしい。

映画『恋の罪』は11月12日よりテアトル新宿ほか全国公開

水野美紀が新境地を開拓!?

冨樫真と神楽坂恵の変ぼうぶりにも注目!
(C) 2011「恋の罪」製作委員会
文・構成:シネマトゥデイ編集部山本ゆみ

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