シネマトゥデイ

メリル・ストリープ
『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』
理解し合える伴侶がいるのは素晴らしいこと
映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』メリル・ストリープ 単独インタビュー

取材・文:南樹里 写真:斉藤美春

映画『マンマ・ミーア!』の女流監督フィリダ・ロイドと主演のメリル・ストリープが再タッグを組んだ映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』は、イギリス初の女性首相の心象を描いた作品。男性優位の最たる場所である英国政界の頂点を極めた女性が、軽い認知症となり隠遁(いんとん)して栄枯盛衰を振り返るという過程を、アメリカ人のメリルが熱演しアカデミー賞主演女優賞を獲得した。3度目のオスカーを授与されたばかりのメリルが来日し、撮影の日々と自身の人生や夫婦愛をオープンに語った。

■験(げん)担ぎ?サッチャー元首相の愛用品を身につけて

Q:アカデミー賞受賞おめでとうございます! しかし、その裏には大変な苦労があったことと思います。

ありがとう! 今だから言えるけど、撮影前、夫に「この役は演じられそうにない」なんて泣き言を漏らしたこともあったの。撮影期間は約9週間。その前に予定していた2週間のリハーサルで、「1週間は独りきりで過ごしたい」と監督にお願いしたんだけど、撮影の初日と2日目は本当に難しいシーンで、大変だったわ。

Q:サッチャーさんは、バッグや靴にこだわったことでも有名です。撮影中、役づくりのために彼女が愛したフェラガモの靴やスミレの香水を身につけたこともあったのでしょうか?

フェラガモは、幸運を呼ぶといわれているので、わたしも験(げん)を担いで、アカデミー賞の授賞式でフェラガモの靴を履いたわ。本当に幸運を呼ぶのね(笑)。それと香水は、すごく香りが強いペンハリガンの「ブルーベル」をつけたの。撮影中は毎日つけたけど、周りが「メリルが来た!」とわかるようになって面白かったわ。サッチャーさんは、党首になっても女性らしさを失わなかったことがすてきよね。それにこびたり涙したりという女の武器を人前で出さなかったのも魅力だと思うわ。

Q:香りは画面に映りませんが、完ぺき主義なあなたらしいですね。それに徹底したリサーチもなさるそうですが、今回リサーチしたことで新たな発見はありましたか?

いやだわ、完ぺき主義だなんて(笑)。でも仕方ない、サッチャーさんと同じで世間が抱くわたしの印象なのよね。今回、新たな発見は多かったわ。でもリサーチはあくまでも演技の下地。参考になったのは、サッチャーさんを知る多くの方にお話を伺えたことね。例えば、彼女が訪米したときの攻めの外交手腕のお話を、レーガン政権で副大統領を務めたブッシュ氏の関係者のご子息から聞くことができたの。

■印象が変わった!現役時代のサッチャーの講演

Q:ご本人に会われたことはあるのですか?

お会いしたとは言えないのだけれど、お話を聞いたことならあるわ。2001年にサッチャーさんの講演会がノースウエスタン大学であったので、娘のメイミーと聞いたの。予定では、1時間講演をして、そのあとに30分間の質疑応答を設けると聞いていたけど、質疑応答に割り当て時間の3倍、1時間半を費やしていたわ。

Q:その講演内容や様子を覚えていますか?

テーマは政治手腕と世界におけるアメリカの役割だった。巧みな話術が印象的だったし、彼女の集中力が増していくのが見ていてわかった。それに、すごくきれいでびっくりしたの。アメリカではみんな彼女のことをやぼったい人だと思っていたから。

Q:サッチャーさんに対する見方が変わりそうですね。

知れば知るほど変わったわ。政治家としての彼女には早くから注目していたの。みんな女性がリーダーになったことに興奮していた。政策はあまり好評ではなかったけど、あれだけの功績を残し影響力を及ぼし、物事を処理してきた事実は本当にすごいこと。心理的、肉体的、精神的エネルギーは驚くべきものよ。首相官邸に10年半いたことにも本当に頭が下がるわ。

Q:しかも、当時は女性の自由が制限されていたでしょうね。

そうね、わたしが通った大学でも60人のクラスに女性は1人だったし、1970年代に女性がなれる職業は少なかった。編集者になれても女性誌。ましてや会社の社長や起業なんてありえなかったわ。

■サッチャーになり切った2種類の声色とメイクの秘密

Q:ボイスコーチはつけなかったそうですね?

どうしたらボイスコーチとうまくやれるかわからなくて。映画『ダンシング・アット・ルーナッサ(原題) / Dancing at Lughnasa』でコーチについてもらったけど。わたしが何でも気になっちゃう性質だから、コーチがセットでため息でもつこうものなら、動揺してしまって。演じるときは雑念を払って、その瞬間を生きる人でありたいの。だから今回は自分でやったわ。

Q:具体的には?

彼女のインタビューをひたすら聴いた。難しかったのは2種類の声色、議員時代と党首就任後の声の体得と使い分けね。劇中で描かれるように、彼女はコーチをつけてスピーチに説得力を持たせた。トレーニング前は(声を再現して)軽やかで明るいけど、(声を再現して)急にこんなに威厳が出ているの。

Q:声色もそうですが、第84回アカデミー賞メイクアップ賞を受賞したメイクにも圧倒されました。老けメイクで出掛けたときは、ファンやパパラッチもあなただと気付かなかったそうですね?

監督から聞いたのね(笑)。ええ、事実よ。

■サッチャーとデニス メリルとドナルド 知られざる夫婦のきずな

Q:本作は、サッチャーさんを支えた夫デニスさんの存在が、実に大きかったことを物語っていますね。

二人(サッチャーとデニス)を知る人たちの話から二人の愛の深さを知ったわ。彼女は政治にすべてをささげていたこともあって、心を許せる同性の友人が一人もいなかったそうなの。それに男性社会の職場では孤立していた。これは想像だけど、デニスさんが夫であり親友であり仲間でありといった役割をしていたのかもしれないわね。でも、人生においてそういう理解し合える伴侶がいるのはとても素晴らしいことだし、巡り合えただけでも幸せだと思うわ。

Q:サッチャーさんを支えた夫婦のきずなは、あなたにも共通するように思えるのですが。

わたしの女優という職業はある意味でサッチャーさんの政治家という職業と近いけど、幸い孤立することはない。でも、確かに夫の存在は大きいわね。わたしの夫は彫刻家だから直接的に仕事でかかわることはないけれど、わたしに送られてくる脚本を彼が読んで「これはいい」とか感想を言ってくれるので、参考にしているのよ。この作品も、彼が「最高だ」と言ってくれた。鑑賞後に彼が「気に入った」と言ってくれるのが一番の喜びなの。

Q:あなたの伝記映画が作られるときは誰に演じてほしいですか? 女優である娘さんたちはいかがでしょう?

娘たちに演じてもらうというのはいい案だけど、断られると思うわ。でも、わたしはそれでいいと思うの。人生やキャリアは彼女たち自身のものだもの。自由であってほしいし、きちんと自立していることを誇りに思っているの。だから、誰に演じてほしいか今は思いつかないわ。それに、映画化が実現したことを考えると……きっと駄作よ!(笑)

取材部屋に現れたメリルは、なんとお付きの人なし! 場を和ませ、廊下で擦れ違うと軽く手を振るなど、ものすごくフレンドリーだった。常に悠然として見えるメリルだが、本作で存命の人物を演じるプレッシャーからご主人に弱音を吐いたところ、「今までも君は成し遂げてきた。今回も大丈夫」と励まされたそう。“鉄の女”同様、働く女性は涙を秘めて前に進まねばならないこともある。鑑賞すれば、理解者がいることで邁進(まいしん)できる人間の特質を感じ、世間が知るサッチャー像はほんの一面に過ぎなかったとわかるはず。それもこれもメリルの人間性がキャラクターを昇華させた結果だ。

(C) 2011 Pathe Productions Limited. Channel Four Television Corporation and The British Film Institute.

映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』は3月16日よりTOHOシネマズ 日劇ほかにて全国公開

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