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吉永小百合
『北のカナリアたち』
手作りであることが映画の魅力
『北のカナリアたち』吉永小百合 単独インタビュー

取材・文:浅見祥子

吉永小百合の最新主演作『北のカナリアたち』が完成した。湊かなえの「往復書簡」を原案に、『劔岳 点の記』で監督業に進出した木村大作が撮影、『大鹿村騒動記』の阪本順治が監督した衝撃の人間ドラマ。吉永が演じるのは、北海道の離島で小学校教師をしていた川島はる。合唱を通じて子どもたちの心を明るく照らしたはる先生は、なぜ教師の職を追われたのか? 20年後に先生と教え子が再会し、ある事故の裏に隠された真実が明かされる……。この映画に、吉永はいかに取り組んだのだろうか。その知られざる素顔にも迫った。

■実は“高所大好き症”!?

Q:原案である「往復書簡」と出会い、映画に取り入れたのはご自身のアイデアと伺いました。ほかにアイデアを出された部分はありましたか?

芝居に関しては監督の要求をこなすことを第一に考えました。ただ煙突にのぼるシーンでは……実はわたし、“高所大好き症”で……。

Q:珍しいですね(笑)。

そうなんです(笑)。監督はあまり高いところへ行くと危ないとおっしゃったんですが、自分から「もっと高いところへ行きたい」と言って。生徒の一人を演じた森山未來さんは高所恐怖症だったようですが、彼の子ども時代を演じた子役の子と二人で面白がってのぼっていました。

Q:阪本監督とはどんなふうにコミュニケーションを?

撮影に入る前に何度も二人だけでディスカッションしましたので、撮影に入ってからはスムーズでした。セリフなどの細かいところは「ちょっとこう変えませんか?」とわたしからお願いしたり、監督から変更があったりというやりとりがありました。

Q:森山さん以下、満島ひかりさん、勝地涼さん、宮崎あおいさん(※「崎」は正式には「大」が「立」になります)、小池栄子さん、松田龍平さんと、6人の教え子も豪華キャストでしたね?

事前に皆さんの作品を観ていましたが、それぞれに主役をやっていらっしゃる方たちで。最初は出演していただけるのかなと思っていましたが、皆さん一緒に仕事するのを楽しみにしてくださったようです。実際にお芝居をして、刺激を受ける場面も大いにありました。説明するための長いセリフもキチンと頭に入っているし、役柄の思いもしっかりと胸の中に持っていらした。わたしはそれを引き出すというか、聞いていく役でしたから、心配なくその場にいることができました。

■教師・川島はる役について

Q:今回の役は離島の教師という意味で、ご自身が「バイブル」とおっしゃる映画『二十四の瞳』(1954年公開)と共通します。どこかで意識する部分、教師を演じる喜びを感じることはありましたか?

それはとてもありました。『二十四の瞳』は小学生のときに観たのですが、高峰秀子さんが演じる大石先生を見て、あんな先生がいたらいいなって。映画には大石先生の人生も描かれていて、とても感動したんです。この映画も、6人の教え子たちと、子ども時代を合わせるとちょうど“二十四の瞳”ですね(笑)。

Q:はると夫・行夫の関係には、尊敬し合い、愛し合っているのにどうにもならない切なさを感じました。ご自身はあの夫婦の関係や絆をどう感じましたか?

はるは行夫をもっとサポートしたい、支えたいという思いがあるけど、夫はそんな妻を拒絶することで自分がいなくなった後も生きていけるようにと、深いところで彼女を愛していたのだと思います。

Q:完成した映画にどのような手応えを感じていますか?

本当に、みんなで作った映画だと実感しています。最後に教え子たちと再会するシーンは、今までわたしがやってきた映画の中でも、とてもいい場面が作れたと思っています。

■見えない積み重ねが画面に映る

Q:子役時代から数えると半世紀以上、映画作りに関わっていらっしゃいます。それだけ長い間情熱を持ち続けられる、映画作りの何がそれほど魅力的なのでしょう?

やはり手作りということです。映画というのは本当に、人間の手で全てを作っていくもの。100人近いスタッフ一人一人の力が一つの作品を作り上げていく、それはとても面白いことです。今回は特に厳しい気象条件のもとで撮影したので、みんなで雪下ろしからやらなきゃならない。すると監督が率先してやり始め、スタッフがそれにならって現場へ行く道を作ります。誰も弱音を吐かずに一生懸命でした。そういう姿に感動し、役者はそれに応えたいと思うのです。

Q:役者も、そうした映画作りのスタッフの一部という感覚なのでしょうか?

そうです。たまたまわたしたちが画面に映っているだけで。例えば、このシーンはカットになってしまったのですが、はるが手作りのクッキーを焼くというエピソードがありました。そのクッキーも、小道具さんが自分で作ってきてくれる。そういう見えない積み重ねが画面に出るのかしら、と思うんですよね。

Q:見えないところが画面に映るというのは、役づくりにも通じるのですか?

そうですね。カメラの前に立ったときは無心ですが、その前にいかに準備をしておくかが大事だと思います。はるは離島の教師なので、実際に島で一番人数の少ない学校を訪ねたりしました。そこでは8人の児童を2人の先生が教えていて、休み時間には先生も一緒に遊んでいたりして。自然の中で子どもたちがぐんぐん成長している雰囲気を見せていただきました。感じたことが心に残っていると演じやすい。そういうことがわたしにとっては大事です。

■理想的な環境を作るために必要なこと

Q:本当にやりたい作品、やるべき作品を選んで出演されているように拝見します。そんな理想的な状態で女優業を続けるために重要なことは何ですか?

以前はたくさんのスタッフを抱えていて、経済的な問題もあり、理想的な仕事の仕方ができませんでした。でも今はスタッフを少なくし、この仕事をやりたいと本当に思えるものをやれるようになりました。そういうワガママを言える環境を作るには、本当に長い時間がかかりました。あとは、待つこと。自分に向いていると思う仕事の機会を待つことができるようになりました。とても恵まれていると思います。わたしの青春時代は1年に16本もの映画に出演し、考える暇もありませんでしたが、その時代があったからこそ今があると思うのです。

Q:待つのは大変じゃないですか?

やることがいっぱいあるので、大丈夫です。

Q:何でお忙しいのですか?

スポーツで忙しいです(笑)。とにかくわたしは体育会系で。冬にはスキーに行くのですが、以前はスピード狂で4回ケガをしまして、全部が顔でした(笑)。

Q:顔ですか!?

そう(笑)。それで反省して、今は安全に滑ることを心掛けています。

Q:山登りもお好きだとか?

昔は山に登っていたんですけど、今は上るのがきつくなって、下り専門のスキーになりました(笑)。

Q:スキーも山でするものですね。

そうですそうです、山が好きなんです。東京で生まれ育っているので、自然に触れる機会というのがとても貴重に思えて。体を整えるという意味では、日々ストレッチをしたり腹筋背筋をしたり水泳をしたりしていますね。

Q:観客として、普段は映画をどんなふうにご覧になっていますか?

撮影に入るとなかなか行けませんが、普段は週に1回ほど、映画館で観ます。恋愛ものやロマンチックなもの、社会性のある作品がいいですね。今年観た中で印象的なのはイラン映画の『別離』。わたしの連れ合いも映画がとても好きで、年間200本ほどを映画館で観るんです。それで「オススメの映画は?」と聞いて、観に行ったりするんですよ。

生きながらにして伝説的な映画女優である吉永小百合。インタビュアーが緊張から「北のカミナリ……」などと言ってしまい謝罪したが、ほほ笑みながら「いえいえ(笑)。どうぞリラックスして」と優しい声を掛けてくれた姿も印象的だった。スキーや水泳が大好きで、“高所大好き症”という意外な素顔を楽しそうに話す吉永からは、飾らないナチュラルな魅力があふれ出ていた。

(C) 2012『北のカナリアたち』製作委員会

映画『北のカナリアたち』は11月3日より全国公開

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