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原恵一監督&加瀬亮
『はじまりのみち』
ある種の過激さが木下恵介作品の魅力
『はじまりのみち』原恵一監督&加瀬亮 単独インタビュー

取材・文:永野寿彦 撮影:金井堯子

『二十四の瞳』『喜びも悲しみも幾歳月』などで知られる木下恵介監督の生誕100年を記念し、木下監督の運命を変えた感動の実話を、『映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』の原恵一監督が映画化。病気の母親を疎開させるためにリヤカーで山越えしたエピソードを、戦争という時代に翻弄(ほんろう)される一人の男の決断と愛情の物語として、優しくも力強く描いていく。木下監督を敬愛する思いから実写映画に初挑戦した原恵一監督と、原監督と共に木下恵介という人物を掘り下げた加瀬亮が、その熱い思いを語った。

■原監督待望の実写作品に大喜びで参加した加瀬

Q:これまでアニメーションを作られてきた原監督にとっては初の実写映画ですね。

原恵一監督(以下、監督):初めは脚本だけ担当するという話だったんですよ。尊敬する木下恵介監督を描くという題材だったので「やるしかない」と思ってお受けしたのですが、脚本を書いているうちに監督もやりたいと思うようになって、僕の方から「(監督も)やらせてください」とお願いしました。

加瀬亮(以下、加瀬):僕はもともと原監督のアニメーション作品が大好きだったので、以前から実写も撮ってほしいなって思っていたんです。だから今回、念願がかなってすごくうれしかったですね。

Q:実際に現場で原監督に演出された印象はいかがでしたか?

加瀬:原監督はすごい監督だなと思っていたので、特に実写だから、アニメだからという垣根みたいなものはなくて。

監督:自分から「やらせてください」と言ったものの、決して「ついに実写を撮れるぞ、ヤッホー!」という感じではなかったんですよ(笑)。もうホントに自信がなかったけど、もう後には引けないと自分で自分を追い込んだ。ものすごくドキドキしながら関わっていました。ただ、役者の方たちが自分なりに理解して演技してくださるので、安心して現場に臨めました。おかげで、1回でOKというカットも結構ありましたね。

加瀬:監督はそうおっしゃいますけど、僕は丁寧に指導していただいたという記憶しかないです(笑)。例えば、淡々とした物語なので平坦になりがちなところを、(監督が演出する)セリフのちょっとした言い方で立体的になっていくことが多々あって。丁寧に見てくださっているんだなという実感があり、安心して取り組むことができました。

■加瀬の鋭いツッコミに戸惑った原監督

Q:実在の人物である木下恵介監督を描く上で、大切にしたことはありますか?

加瀬:木下監督の作品を観たり、本を読んだりしました。その過程で思ったのは、実在の人物だからといって木下監督に似せる必要はないだろうということ。初期の段階で原監督も同じことを僕におっしゃったので安心したのですが、原監督が抱いている木下監督への思いや主人公の気持ちとか、確認したいことはいっぱいありました。

監督:かなりいろんなことを聞かれましたね(笑)。加瀬さんは出来上がったときにどういう人物に見えるのかということを、場面ごとにものすごく気にしていて、僕以上に役を理解しようとしてくれていた印象があります。だから正直言うと、「そこまで考えていなかったな……」っていうことを聞かれて、戸惑ったこともありましたね(笑)。

加瀬:最初にプロデューサーから「愛されるように主人公を演じてほしい」と言われたんです。意図はわかるんですが、かといって好かれるように、ある一面だけを切り取るのも違うんじゃないかと。単なる「いい人」にはしたくなかったんです。その部分は原監督と共に認識していたことだと思います。

監督:僕も、最初は「なぜ病気の母親を疎開させるためにリヤカーで運んだという実話を映画化しようと思ったんだろう」「美談を求められているのだとしたら困ったなあ」とも思いました。でも、そのエピソードの先に、木下監督の作品作りへの「過激さ」というものが見えてきた。『陸軍』という作品で政府からにらまれ、松竹を離れるという時期のエピソードだったことで、単なる美談ではない話にできると思ったんです。

■一筋縄ではいかない木下恵介作品の魅力

Q:木下恵介監督の作品の過激さとはどういうところですか?

監督:長年好きだ好きだと言ってきたので、これまでも木下監督作の魅力を語る機会は多かったのですが、なかなか自分の中でしっくりとくる言葉が見つからなかった。でも、今回この映画を手掛けたことで見えてきたのが、ある種の「過激さ」なんです。ちょっと誤解を生じる言葉かもしれませんけど(笑)。題材選びにしても演出にしても脚本にしても音楽遣いにしても撮影にしても、とにかく過激なことにどんどんチャレンジした方なんだなって。そこが自分にとって魅力的だったのかもしれないと改めて気付かされた感じですね。

加瀬:確かにそうですね。作品一つ一つを観れば、木下監督の目が細部に至るまで届いているところとか、魅力的なところは本当にいっぱいあるんですけど、今回役づくりのためにいろんな作品を見直すと、好奇心旺盛というかチャレンジ精神にあふれていて、しかも自分が過去の作品で描いたことを打ち消すようなこともやってしまうんだと感銘を受けました。

監督:木下監督作品では『二十四の瞳』が有名なので、お涙頂戴の監督という先入観を持っている人も多いんじゃないかと思う。でも、木下監督がそれぞれの作品の背景で味わった悔しさとか悲しさとか怒りというものを知った上で彼の作品を観ると、また見方が変わってくるはず。

加瀬:監督のおっしゃる通りで、それぞれの作品の時代背景を照らし合わせて観たら、より深く楽しめると思います。例えば、木下監督が松竹を離れるきっかけになったという『陸軍』にしても、彼は作ることを受け入れていたんだと思うんです。戦争反対というわけではなく、当時の空気も自分の置かれた立場も理解している。それでも、「戦意高揚映画」という意図に反して、息子を戦場へ送り出す母親の気持ちに寄り添っているかのような映画を作ってしまう。そこに、僕はすごく木下監督の人間的な魅力を感じました。

■原監督&加瀬イチオシの木下作品

Q:映画からも木下恵介監督作品への愛情がたっぷりと感じられましたが、ズバリ、オススメの作品を教えてください。

監督:ずっと言い続けているタイトルなんですけど、木下作品をあまり観たことがない人に1本薦めるとしたら『永遠の人』ですね。『二十四の瞳』で知られる木下監督のイメージがガラリと変わる作品だと思うので。あえてもう1本選ぶとしたら『今年の恋』というコメディー。木下監督の技巧派としての手腕を目の当たりにできる。まったく無駄がなくて、見終えて「ああ面白かった」って素直に思えるはず。あんまり語られることのない作品ですが、すごく面白いです。

加瀬:僕は『お嬢さん乾杯!』がすごく好きでした。『はじまりのみち』で実際に木下監督を演じることになって、物語に関わりのあるデビュー作の『花咲く港』から『陸軍』までを観たのですが、初期の喜劇の雰囲気はすごく好きです。デビュー作が詐欺師2人の話ってところもなんか良くて。あとは今回、テーマの一つでもある「母と子の関係」において、木下監督の気持ちを探るために見た『楢山節考』『少年期』も印象に残っています。

監督:そういえば、知らず知らずのうちに随分自分は木下作品に影響を受けているんだなってびっくりしたことがあったんですよ。劇中、木下監督一行が山越えをする道中で朝日を拝むシーンがあるんですが、編集作業をしているときに『野菊の如き君なりき』のシーンに似た画(え)を発見して(笑)。偶然ではあるんですけど、ちょっと笑っちゃいましたね。

自身に関することでは口数が少ないが、木下恵介監督、その作品に関する話になると饒舌(じょうぜつ)になる原監督。そしてその言葉にうなずきながら、自分なりに作り上げた木下恵介像について語る加瀬。そんな二人からは木下監督と、彼が生み出した膨大な作品群に対する愛情がビシビシと伝わってきた。もちろん、本作にも二人の思いがたっぷりと詰まっている。一人の若者の挫折と再生の物語を通して語られる、映画への深い愛情には映画ファンなら思わず感涙必至。

(C) 2013「はじまりのみち」製作委員会

映画『はじまりのみち』は6月1日より全国公開

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