シネマトゥデイ

高良健吾&石田ゆり子
『悼む人』
撮影中に激やせ…思い出すと憂鬱になる
『悼む人』高良健吾&石田ゆり子 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

第140回直木賞を受賞し、2012年に向井理主演で舞台化された天童荒太のベストセラー小説を映画化した『悼む人』。不慮の死を遂げた人々を「悼む」ために、全国の事故や事件現場を放浪する青年・坂築静人と、彼を取り巻く人々が織り成す生と死のドラマを、舞台版の演出も手掛けた堤幸彦監督が丁寧に描く。静人を演じた高良健吾と、静人の旅に同行するヒロイン奈義倖世を演じた石田ゆり子が作品に対する思いを明かした。

■演じていたときを思い出すと憂鬱になる

Q:見ず知らずの死者を「悼む」という行為が、偽善ではないかと他人に疑われる静人と、愛する夫を殺(あや)めてしまった倖世。どちらも難役だったのではないですか?

高良健吾(以下、高良):「静人としてどうあるか」がすごく難しいと感じました。映画を観る人には僕が悼む言葉が聞こえているから、自分の気持ちをむき出しにすると、静人が嫌な人間に思われかねない。「どうしたら静人がいやらしく見えないか」とか、ほかにもいろんな登場人物がいる中で「どうしたら作品の邪魔にならないんだろう」とかをずっと思案していました。

石田ゆり子(以下、石田):倖世もすごく難解な役で、いつも心が崖っぷちにあるんですね。「何かあったら死んでしまうんじゃないか」と思わせる人なので、そのギリギリな感覚が難しくて、毎日、鬱(うつ)とした気持ちでいました。こういう役のときは、撮影以外でもそうなることが多いんです。高良くんも、撮影中にすごく痩せちゃっていました。全然食べないんですよ。

高良:静人を演じていたときのことを思い出すと、今も憂鬱(ゆううつ)な気分になります。楽しいというものではないです。石田さんと二人で、どこかはかない気持ちが残る旅をしていた感じでした。

石田:そう、楽しいのとは違うんです。良いチームだったけど、別の世界にいたような感じなんです。とにかく不思議な経験でした。

Q:現場でいろいろなアイデアを提案するといわれている堤監督ですが、本作ではいかがでしたか?

高良:例えば、現場で段取り(リハーサル)をするときに一連でやるのではなく、途中で「そこは立たないでください」「もっと間を持ってください」など明確に指示されることがありました。自分がしたいことが必ずしも正しいとは思っていないので、指示を下さったことにすごく感謝しています。実際に映像を観たときも、監督の指示でやったものの方が良いと思うことが多かったです。

石田:監督が撮影の直前にロケハンをして、「いい場所を見つけた!」っておっしゃって、小屋の中で撮影するはずだったシーンを急きょ洞窟で撮ったこともありました。

■石田の印象は少女、高良は……おじいちゃん!?

Q:現場でご一緒して、お互いにどんな印象を持ちましたか?

高良:ゆり子さんは、本当に少女だと思います。すごく品のある少女。

石田:そんな、少女だなんてとんでもないです! きっと子供なんです。高良くんのほうが精神的に大人なんですよ。すごく少年っぽくも見えるんだけど、本当は大人なんだと思います。

高良:僕は、自分がおじいちゃんだなって思う瞬間があるんです(笑)。でも、すごく子供だなと思うところもある。真ん中はないです。

石田:二つが同居しているんですよ。すごくかわいいなと思うところと、大人だなと思うところが交互に出てくる。そこが本当にステキなんです。この作品の静人を高良くんが演じて、そこに自分が参加できたことは、わたしにとってすごく大きな経験で、本当に幸せだなと実感しています。

■豪雨の殺害シーンが寒すぎた!

Q:週刊誌記者(椎名桔平)から喫茶店に誘われた静人が、柿の種をフリーザーバッグに入れるところは無邪気な少年のようでした。

高良:静人は、目の前にあるものをいろいろ持って帰る男なんです(笑)。

石田:食料を確保したり、無駄に雨に濡れないようにしたり、ちゃんと健康のことを考えているんですよ。体を壊したら悼むこともできなくなるので、そこはしたたかなんですね(笑)。静人の人間らしくてかわいいところでもあります。

Q:豪雨の中での撮影など、現場でご苦労されたこともあったのでは?

石田:夫の朔也(井浦新)を殺すシーンを、3月の深夜に大雨の中で撮ったんです。本当に寒かった(苦笑)。新さんは最初、「男だから大丈夫。むしろそういった状況を楽しむタイプなんで、ストーブになんてあたらなくてもいいです」っておっしゃっていたんですけど、「いいからあたってください」って言ったら、思いっきりあたっていました(笑)。新さんとは難解なシーンやベッドシーンもあったのですが、本当に助けられました。いつも落ち着いていて、安心感がある方なんです。

Q:倖世にだけ見える幻覚のような存在として彼女に付きまとう朔也と、静人が対話する場面も印象的でした。

高良:普段は静人に朔也は見えないけれど、あのシーンだけは何かを感じているんです。原作でも台本でも、一瞬だけ朔也が見えている。だけど、対峙(たいじ)してしゃべっているわけではない。僕はあのとき、朔也と倖世の間を見て話していました。

石田:わたしはあの朔也を、倖世の作り出した幻影だと解釈していますけど、観る人によっていろんな解釈ができそうですね。

■テーマは「生きること」「死ぬこと」「家族」「愛」

Q:静人の帰りを待つ末期がんの母を演じた大竹しのぶさんの存在感は、お二人の目にどう映りましたか?

高良:僕は大竹さんのセリフにすごく救われたところがあるんです。旅をしている静人は母がどういう気持ちでいるのかわかっていないので、映画で気付くことがたくさんあって。いろんな感情が湧いてきました。

石田:わたしは試写で大竹さんのお芝居を見て、感銘を受けてしまいました。あのお母さんが静人のルーツであり、彼が帰っていくべきところ。静人はすごく愛されて育った幸せな人なのだと思えて、それがすごくうれしかったです。

高良:あの母がいたから、静人は他者の気持ちに敏感になった。だからこそ、悼むことができるのだと思います。

Q:これから本作と触れる方々に、何か伝えたいことはありますか?

高良:今はただ、この映画が多くの方に届いてほしいと願っています。これを観て死生観を変えてくださいとか、身近な人との関係を考えてくださいなんて言えない。きっと、観る人によって感じることが違うと思います。家族がいる人、学生の方、大人の方、それぞれ全然違うでしょう。「生きること」「死ぬこと」「家族」「愛」、これだけのテーマが込められた作品を一人でも多くの人に観てもらいたいです。

石田:先入観を持たないで映画館に行ってください。本当に、一人一人感想は違うと思います。もしも理解できないところがあったのなら、何回でも観てほしい。わたしも何回も観たいんです。そのたびに新しい発見があるので。

高良:そうですね。僕ももう一回観たいです。

「感動した」「泣けた」と簡単に口にするのがはばかられたほど、心を深くえぐる本作。慎重に言葉を選びながら作品を語る高良と石田の様子から、並々ならぬ思いで撮影に臨んでいたことが伝わってくる。二人に共通するのは、どんなにドギツイ色に交じっても、染まらずにたたずんでいられそうな透明感だ。少年と少女という形容がしっくりくる俳優と女優だからこそ、重々しいテーマを有する物語の中で、光を放つ存在になり得たのだろう。

映画『悼む人』は2月14日より全国公開

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