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永作博美&佐々木希
『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』
芝居に対するアプローチが潔く格好いい
『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』永作博美&佐々木希 単独インタビュー

取材・文:浅見祥子 写真:吉岡希鼓斗

台湾出身の女性監督チアン・ショウチョンが日本の俳優と組み、石川県珠洲市でオールロケを敢行した映画『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』。父親の残した舟小屋でばい煎コーヒー店を開く岬とシングルマザーとして不安定に生きる絵里子。生き方も価値観も異なる二人の出会いがもたらすドラマを、美しい映像でしっとりとつづっていく。岬役で海外の監督ならではの演出に刺激を受けたという永作博美と、絵里子役で初めて母親を演じた佐々木希が、印象的だったという撮影を振り返った。

■それぞれが演じたキャラクターについて

Q:最初にこの映画の企画を聞いた印象は?

永作博美(以下、永作):台湾の監督でロンドンを拠点にしたカメラマン、一か月ほどの地方ロケ、それを聞いただけでも面白そうだなと思いました。

佐々木希(以下、 佐々木):物語も深く、とても考えさせられる台本でした。自分がシングルマザーを演じることが想像できず、演じられるのか不安もありましたが、挑戦する意味があるなと思いました。

Q:初めての母親役はいかがでしたか?

佐々木:わたしの子供を演じる子役を決めるオーディションに立ち会わせていただいたのですが、「惹(ひ)かれる!」とひそかに思っていた子が、スタッフの皆さんも同じだったようで、満場一致で決まりました。クランクインする前には何度か子供たちとリハーサルをさせていただきましたが、魅力的な二人と一緒に演じられて、刺激を受けましたし、心からかわいいなと思えました。

Q:永作さんが演じた岬は強いのか弱いのか、微妙なキャラクターですよね?

永作:そうなんです。求める生き方がハッキリしている分、もろい心があるだろうと想定しました。だからしっかり立っていられるところまでは強く立とう。でも、やっぱりつかまるところが欲しかったんだね、と思わせる肩の力が抜けたところも見たいなと。

Q:岬が営むコーヒー店の店名「ヨダカ珈琲」は宮沢賢治作「よだかの星」に由来しています。「自分はよだかに似ている」というセリフもありましたが、どのように意識しましたか?

永作:完全に似ているというより、どこか惹(ひ)かれるところがあるのだろうと想像しました。それは「よだか」が「よだか」として生きる孤高さみたいなことなのかと解釈して。小説の「よだか」は最後に星になりますが、自分をそのまま貫いて生きるはかない孤高さを持つ人、岬がそんなふうに見えたらいいなと思いながら演じていました。

Q:絵里子は大きく変化する役ですが、心情にすんなり寄り添えましたか?

佐々木:絵里子は一見荒っぽい性格にも見えますが、実は温かい心もちゃんと持っているんです。でも不器用でそれを出すことができない、その弱さを表現するのが難しかったです。わたし自身は母親になったことがないので本当のところはわからないのですが、男の人に逃げてしまったり、頼るところが欲しいという気持ちはなんとなく感じることができました。

■作品を通じてコーヒーにハマった二人

Q:お互いの印象はいかがでしたか?

佐々木:昔から拝見していた永作さんとご一緒できるなんて信じられない! という気持ちでした。とても優しくしていただいてうれしかったです。

永作:佐々木さんは画面で拝見するよりずっと壁のない人だなと思いましたね。がんばってよろいをかぶっている感じが全くなく、素直に生きていらっしゃる。すてきだなって思いました。

Q:ロケ地の石川県珠州市もすてきでした。あんなお店で、あんなふうに仕事をしたいと思わせる場所ですね。

永作:いいところです、ぜひ行ってみてください。でも働くのは少し寂しいかも(笑)。本当に何もなくて、風の音と海の音しかしないんです。あそこでコーヒーを入れている時間は幸せでしたけど。

佐々木:わたし自身、同じ日本海側の秋田県出身で海が近いところで育ったせいか、飛行機で降り立った瞬間、その匂いにまず落ち着きました。朝から新鮮なお刺身を食べたり、空き時間に陶芸やせっけん作りを体験したり。じっくりと自分を見つめ直すいい機会にもなったのですが、都会の良さも知ってしまっているので、一度だけ、3時間かけて金沢へ買い物に行っちゃいました(笑)。

永作:わたしは案外時間がなくて、ちょっと空き時間があってもホテルに帰るには時間がかかってしまうので、あの小屋でコーヒーを入れる練習をしていました。同じ豆で同じ水で同じタイミングで入れても、プロが入れたコーヒーは全然味が違うんです。わたしもコーヒーは好きなのですが「コーヒーへの愛が足りない」と言われてしまいました(笑)。

佐々木:わたしももともとコーヒーは好きでしたが、この映画をきっかけに道具を一式そろえ、格好つけて入れたりしています(笑)。難しくてなかなか上手にいかないですけど。

永作:本当にコーヒーが好きな方は深いこだわりがあって。最初に少量のお湯を注いだときにコーヒーの粉がふわっと膨らむ、その膨らみ方に美を求めるらしいんです。

佐々木:確かにあれは無言で見ちゃいますね、時間を忘れるというか。

永作:そうそう、だからふっと力を抜きたいときにコーヒーを入れたくなるんですよね。

■監督の演出が強い刺激に

Q:完成した映画を観た感想はいかがでしたか?

永作:全体の空気がすてきでした。アップで役者の表情を見せる映画が多い中、カメラを引いた画(え)で俯瞰(ふかん)して捉えるのがいいですね。映像にもロケ地の空気がそのまま映っていたように思いました。

Q:景色の美しさだけでなく、暗闇も美しいですよね。

永作:夜が明けるとか日が落ちて暗くなるとか、そういった風景も自然光をそのままに映し取りたいと、監督もカメラマンもこだわっていましたね。

Q:日本人の役者が日本でロケをし、それを日本人のカメラマンが撮っているのに、日本映画っぽくないのが不思議でした。

永作:芝居に対するアプローチが全然違うんです。日本では芝居ではっきり説明することを要求されますが、監督は台湾の方だからなのか、もっと抽象的な 映像を求めていました。カメラマンはとにかくキレイな画(え)を追求していて。撮る人自身の優しさも映っているような、柔らかさを感じさせる映像もキレイでした。

佐々木:顔が映らない背中越しの映像でも感情は伝わる、そういう演出は初めてで新鮮でした。

永作:例えば岬の父親への思いなどを説明するセリフが台本になく、それをどう表現できるのかといったような心配な部分もありました。でも監督とお話しすると、そこを純粋に表現したい気持ちが伝わってきましたし、その通りに撮影していました。その姿が潔く、格好いいなって。

佐々木:絵里子というキャラクターについても、「この感情って?」と考えだすと可能性がたくさんあって、きりがなかったです。でもあのラストを観たときに、帰るところがあるっていいなと思えました。絵里子としても、初めて人に頼ってもらえたのかなと思い、うれしい気持ちになりましたし、映画を観てくださる方もきっと心が動かされる作品になったと思います。

演技派としての地位を確立した永作博美と、一作ごとに女優としての可能性を確実に広げる若手女優の佐々木希。自然と人を和ませる佐々木の素直さに、ゆったりと大人らしくほほ笑む永作と、なんともいいバランスで写真撮影が進み、インタビューに突入した。実際の二人は、それぞれに厳しい現実を生きる劇中の姿とは全然違うが、そこに確かな化学反応が起こったことも当然に思えた。

映画『さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~』は2月28日より全国公開

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