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2016年前半の成功作・失敗作…激動の映画ビジネス

最新!全米HOTムービー

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 世界の映画産業の中心・アメリカの最新映画情報を現地在住ライターが紹介する「最新! 全米HOTムービー」。今回は、2016年前半の全米ボックスオフィスの傾向を分析! Netflixなどのストリーミングサービスが台頭してきている中、アメリカの映画業界にはどんな変化が起きているのかに迫った。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル100円計算)(取材・文:明美・トスト/Akemi Tosto)

大作・続編に対する観客の反応はよりシビアに

 映画をオンラインで配信するHulu、Netflixといったストリーミング配信会社の台頭で、ハリウッド映画のビジネス形態が変わり始めた。「映画は映画館で観るもの」という観念が変わってきたからである。2011年から2015年の間にNetflixの会員数は倍増した傍ら、全米の映画チケット売り上げは、映画1作品あたり200万ドル(約2億円)近く減ったというリサーチ会社Misixの統計が出ている。全体的な興行収入が増えているのは、作られる映画が増えた(100本ほど増加)からということが大きいだろう。そう考えると、全米の劇場においてほとんどの新作がアッという間に消え、別の新作になっているという状況の説明がつく。

『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』
バットマンもしょぼん - Warner Bros. / Photofest / ゲッティ イメージズ

 さまざまな形で好きな作品を視聴できるようになった映画ファンは、わざわざ高いチケット代を払って映画館で見る作品に対して、ますます精選するようになった。今年上半期の良い例が『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』である。公開初日の金曜は多くの観客を集めたものの、特撮ばかりでストーリーがなっていない作品にファンは冷たく、土曜、日曜にかけて興収が激減。さらに2週目の興収も前週比マイナス69.1%とガタ落ちだった。

 映画の評判をチェックしてから劇場に向かう人が多いアメリカ。お客の側にしてみれば、ケーブル局やストリーミングサービスなどさまざまな方法で映像もストーリーも映画に負けないクオリティーの作品を視聴できるようになった今日この頃、「SFXを駆使した」とか「人気小説の映画版」といった看板ばかり豪華で、オンラインで酷評されているような中身のない作品に対して15ドル(1,500円前後)も払う理由がなくなったのである。

 そうした理由で観客にそっぽを向かれてしまった大作映画には、ベストセラー・ヤングアダルト小説をクロエ・グレース・モレッツ主演で映画化した『フィフス・ウェイブ』、大ヒット作の続編である『アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』『ミュータント・ニンジャ・タートルズ:影<シャドウズ>』、古代エジプトの神々のバトルを描いた『キング・オブ・エジプト』、人気ゲームを映画化した『ウォークラフト』などがある。

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『ウォークラフト』
『ウォークラフト』はアメリカでは苦戦したが、中国で空前の大ヒットとなった - (C) 2016 legendary and universal studios

 だが、いくつかのアクションあるいはSF超大作映画の興味深いところは、アメリカでは惨憺たる売り上げでも(『ウォークラフト』は2週間で劇場から姿を消した)、海外、特に中国では大ヒットを記録するという現状である。中国は2017年末までにはアメリカを抜いて世界最大の映画市場となるとされているだけに、スタジオ側としては中国でメガヒットとなれば続編の製作を正当化する十分な要素になる。

 中国で空前の大ヒットとなった『ウォークラフト』においては、すでに続編の話が出ており、次作においては、不発だった全米市場をある程度切り捨て、中国市場に着目した製作になることが予想されている。こういった動きはアメリカ映画業界に大変化をもたらしつつあり、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』をご覧になった方はお気づきかと思うが、そういった影響は映画の内容にも反映されている

口コミが重要!ビジュアルだけでなくストーリー重視に

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』
2016年前半でナンバーワンヒットの『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』 - Marvel Studios / Photofest / ゲッティ イメージズ

2016年前半の全米ボックスオフィスランキング(6月29日時点)

  1. 『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』4億448万7,652ドル(約404億4,876万5,200円)ディズニー
  2. 『デッドプール』3億6,307万709ドル(約363億707万900円)20世紀フォックス 
  3. 『ジャングル・ブック』3億5,864万9,205ドル(約358億6,492万500円)ディズニー
  4. 『ズートピア』3億4,050万2,726ドル(約340億5,027万2,600円)ディズニー
  5. 『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』3億3,036万194ドル(約330億3,601万9,400円)ワーナー・ブラザース
  6. 『ファインディング・ドリー』3億2,158万1,470ドル(約321億5,814万7,000円)ディズニー
  7. 『X-MEN:アポカリプス』1億5,236万3,567ドル(約152億3,635万6,700円)20世紀フォックス
  8. 『カンフー・パンダ3(原題) / Kung Fu Panda 3』1億4,346万1,990ドル(約143億4,619万9,000円)20世紀フォックス
  9. 『アングリーバード』1億528万2,474ドル(約105億2,824万7,400円)ソニー
  10. 『ブラザー・ミッション -ライド・アロング2-』 9,086万2,685ドル(約90億8,626万8,500円)ユニバーサル

 それではアメリカではどんな劇場映画が人気を集めているのだろうか? 今年の全米興収ランキングでトップを行くのが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』であることからも推測できるように、ここ数年の勝ち組はやはりマーベル作品だ。質の高いものに慣れてきている映画ファンは、ビジュアルのみならず心を動かすストーリーに強く反応する。マーベル作品は映像のスゴさは無論、シリアスなドラマの中でも必ずユーモアを忘れない上手なストーリー構築が成功のカギといえる。

『デッドプール』
みんなこんなデップーを待ってた? - (C) 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

 また、これまでのマーベル実写映画のほとんどはPG-13(13歳未満の鑑賞には保護者の同意が必要)だったが、2位の『デッドプール』(20世紀フォックスのマーベル映画)は過激な暴力と下品なジョークをたっぷり盛り込んでR指定で公開。近年、アメコミ実写映画が乱立しているだけに、ひと味違う過激さを押し出した戦略が大当たりし、予想を上回る大ヒットとなった。

 先に述べたようなCGをたくさん使った大作や続編が苦戦する中、『ジャングル・ブック』(主人公の少年以外、大自然も動物たちも全てCG)や『ファインディング・ドリー』(『ファインディング・ニモ』の13年ぶりの続編)は大成功。SNSなどですぐに口コミが広がるだけに、CGや続編であることに頼らず、ストーリーを大切に描けるか否かが成功と失敗を分ける要因となったようだ。

『ファインディング・ドリー』
『ファインディング・ドリー』はアニメーション映画史上最大のOP興収を記録! - (C) 2016 Disney / Pixar. All Rights Reserved.

 勝ち組の常連といえるのが、ディズニー、ピクサーをはじめとした大手のアニメーション作品だ。1月の『カンフー・パンダ3(原題)』、3月の『ズートピア』、5月の『アングリーバード』、6月の『ファインディング・ドリー』とアニメーションは全米ボックスオフィスランキングで初登場1位を記録し、2016年前半の興収ランキングにもそろって名を連ねている。家族連れがメインの客層になるため動員増が望めるだけでなく、大人の心もつかむストーリーを併せ持っていればチケットの売れ行きが格段に良くなるわけである。

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これからのハリウッド:ストリーミングサービスと劇場は共存できる?

ストリーミングサービス
映画は家でもスマホでも観られるけど… - iStock.com / mphillips007

 アメリカではスタジオと劇場主たちの間で、映画が公開されてから90日間は劇場公開オンリーで劇場主たちが稼ぐ期間を設けるという暗黙の了解があった。その後Pay Per Viewやストリーミング配信が解禁となるわけだが、去年10月にそのルールが覆された。Netflixがイドリス・エルバ出演映画『ビースト・オブ・ノー・ネーション』を劇場公開と同時にストリーミング配信でも提供したのである。

 Netflixに対して怒りをあらわにしたAMCやリーガルといった大手劇場オーナーたちは、『ビースト・オブ・ノー・ネーション』の公開を完全拒否した。噂によるとこれからもNetflix配給映画は公開しないと息巻いているらしい。

 だが今年4月、Netflixのライバルにあたるアマゾンが新たな一手に打って出た。アマゾン・スタジオが製作した全作品を劇場公開し、観客動員数獲得のため劇場と提携して積極的な宣伝活動を行う、と発表したのである。これは今なお劇場の大スクリーンで映画を見ることに価値を見いだしているコンシューマーのニーズに応え、ピンチに瀕している劇場との連帯を強化し、共に成長していこうという画期的な作戦といえる。結局は映画を配給する者同士なのだから、劇場側とストリーミング配信側が協力すればパワーも倍増するのではないか。

 今年のサンダンス映画祭で、創設者で俳優のロバート・レッドフォードが「これまでインディー映画にしてもメジャー映画にしても良い状況と言える時期はなく、いつでも大変だった。でも映画がずっと生き残ってきた理由というのは、常に人々がそこに価値を見いだしてきたからだ」と語っていた。製作・配給・鑑賞の仕方が変化していったとしても、わたしたちが価値を見いだせる映画が作られる限り、劇場の大スクリーンで見る映画のパワーは不滅なのである。

【今月のHOTライター】
明美・トスト / Akemi Tosto
高校よりロサンゼルス在住、CMや映画の製作助手を経て現在に至る。全米映画協会(MPAA)公認ライターとしてだけでなく、監督としても活躍中。短編作品『ボクが人間だったとき/When I Was a Human』がアカデミー賞公認配給会社ショーツ・インターナショナルより配給され、iTunesとAmazonで日本版発売中。ツイッターもよろしく!

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