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渡辺謙&妻夫木聡&森山未來&松山ケンイチ&綾野剛
『怒り』
完全にカップル!共演者も驚いた役づくりの真相
『怒り』渡辺謙&妻夫木聡&森山未來&松山ケンイチ&綾野剛 単独インタビュー

取材・文:斉藤由紀子 写真:高野広美

映画『悪人』の吉田修一(原作)と李相日(脚本/監督)のタッグによる話題作『怒り』。千葉・東京・沖縄の3か所に現れた殺人事件の逃亡犯かもしれない3人の男たち(松山ケンイチ・綾野剛・森山未來)と、彼らと深く関わってしまう人々(渡辺謙・宮崎あおい・妻夫木聡・広瀬すずほか)との濃密なドラマを描くヒューマンミステリーだ。千葉の漁港で働く洋平を演じた渡辺をはじめ、邦画界を代表する5人の男性キャストが一堂に会し、作品に対する思いを語り合った。

■すべてが奇跡的なバランス!

Q:千葉、東京、沖縄で撮影された三つの群像劇が、李監督の手で見事に紡がれました。完成版をご覧になったときのお気持ちは?

渡辺謙(以下、渡辺):僕は仕事の都合で一人で試写を観たので、キャストのみんなに「良かった!」って言いたかったのに、誰とも話せないのが切なかったですね(笑)。関係者に「どうですか?」と聞かれたんだけど、そこでは感想がうまく言えなかった。気持ちを整理するのに時間がかかると思いました。

森山未來(以下、森山):自分以外のパートがどうなっているのか知らなかったのですが、クライマックスで泣きました。編集がすごくうまいんです。時系列や空間の移動とかが、いい意味で映画のウソに取り込まれている。ただ生々しいだけではなく、どこかファンタジーな方向に振れていて。

松山ケンイチ(以下、松山):濃厚なシーンの連続だったので、役者の演技のすごさがビシビシ伝わってくるんです。“エビのビスク”のような濃さの中に、ちょっとしたユーモアの“ピクルス”が入って、絶妙なバランスでしたね。仕事帰りに観ると受け止めきれないかもしれないくらいの、ものすごく強い感じを受けました。

妻夫木聡(以下、妻夫木):観終わって立ち上がれなかったです。説明できないくらいすごいものがドスンと来た。一つだけ言えるとしたら、役者さんの芝居が本当に素晴らしい。自分の芝居は反省ばかりしてしまうクセがあるのでわからないんですけど、これだけの人たちが集まったことが本当に奇跡だし、原作、監督、すべてが奇跡的なバランスだったなと思いました。

綾野剛(以下、綾野):今、このメンバーで話をしているのが豊かだなと思えるんです。作品を観て自分が確かな体感をして、皆さんと何かを得て共有しているからこそ、話しているのが豊かで楽しい。三つのパートだった点と点が太い線で繋がって、それを坂本龍一さんの音楽が包み込んでくれて。一人でモノを作っているのではないのだなとあらためて実感しました。

■芝居中にそれぞれが感じた愛

Q:原作者の吉田修一さんが「世界中が敵になっても役を愛してくれる人に演じてほしい」とおっしゃっていました。皆さんも役を愛せたと実感していますか?

渡辺:もうね、愛するとか愛さない以前に、役に体を貸してしまっているところがあるんです。自分が役と伴走しているところがある。一緒に悩んで、苦しんで。そういう意味だと愛しているという感覚には近い。ただ、そこに引きずられてしまうこともあるし、無理やり引っ張ることもある。僕はそんな距離感なんです。

森山:僕が演じた田中という男は、他者と埋め合えない何かがあるんじゃないかと思ったんです。東京には優馬(妻夫木)と直人(綾野)のカップル、千葉にも田代(松山)と愛子(宮崎)のカップルがいた。沖縄の田中にも現地で出会った高校生たち(広瀬ら)がいたのですが、彼らというよりも、田中という人間の窪みに自分自身が埋まりに行くというか、僕が彼(田中)とカップルにならなきゃいけないと思ったりしたんです。観念的だけど、そういった形で役に寄り添えた気はします。

松山:僕は正直なところ、田代という役がよくわからないままでした。やり切ったという感覚がする前にクランクアップしちゃった気がして……。

渡辺:田代は感情を吐き出さないからね。本当に、最後の方でやっと吐き出すから。

妻夫木:僕は親友にゲイがいるので、ゲイの恋愛を日本映画でしっかりと描けたらいいなという気持ちがあったんです。原作を読んだときから優馬という役は好きだったんですけど、映画の中で直人と過ごした日々が濃かったので、「自分よりも直人を愛していた」という感じでした。

綾野:優馬のまなざしによって存在していたのが直人なんです。

Q:直人と優馬のシーンは、本当にステキでした。

松山:僕、二人のシーン大好きです!

渡辺:普通に男女のロマンスを描こうとしたら、なかなかこんなふうにはならないですよ。だって、妻夫木と綾野は(役づくりで)一緒に暮らして、風呂まで一緒に入っていたんですから。男同士だからこそうまく踏み込めて、その真実がカメラに映し出されているんでしょうね。

■妻夫木のすねた顔が忘れられない

Q:皆さんが特に思い入れを感じたシーンをお聞きしたいです。

松山:ピエール瀧さん演じる刑事が、後輩の食べている弁当の横に自分が脱いだ靴下を置くのと、それから数日後のシーンで、トイレから戻ってきた瀧さんが「出た。3日ぶりなんだよ」って言うシーンが好きです(笑)。二つ目は瀧さんのアドリブだったらしいんですよ!

森山:そうだったんだ(笑)。

渡辺:僕はどうしても撮影現場でのことを思ってしまうんですけど、田代と暮らし始めた娘の愛子が、指名手配犯のポスターを見ている表情が良かった。やっと一人の男を女として愛したんだなっていうのが見えたんです。父親の洋平としては複雑なんだけど、惚れ惚れしている自分がいました。

妻夫木:映画的には素晴らしいシーンがいっぱいあるんですけど、謙さんと同じく、現場で僕と接しているときの直人がいい表情をするので、それが浮かんでしまいますね。人間の絶対的幸福感って、本当に一瞬だと思うんです。恋愛に関することは特に。そこを切り取った感じがしたんですよね。

綾野:僕も現場でのことなんですが、撮影中に一度僕が抜けて、妻夫木さんと数日ぶりにスタジオで再会したら、「ブゥー」ってすねた子供の大人の顔バージョンで走ってきてハグするんですよ。その顔が忘れられない(笑)。

渡辺:それこそ、捨て置かれた犬みたいな感じだ(笑)。

妻夫木:戻ってきてくれてうれしかったんです。

綾野:あと、映画を観ていたときは意外と冷静に「あ、優馬って、ほかの男といるときはこんな顔をしているんだな」って思っていました。その顔が、僕を見ているときよりも品が悪いんです。チャラいんですよ(笑)。

松山:この二人、完全にカップルですよ(笑)。

■李作品は観た人で答えが変わる

Q:観る人によって受け止め方が変わりそうな本作。皆さんは一番何に心をつかまれたのでしょうか?

渡辺:その答えがそれぞれの人の中にしかないというふうにできているのがすごい。スクリーンの中で完結して、それを観た人が語り合える作品もあるけど、李さんの映画は観た人によって本当に答えが違う。だから、刺さる人にはものすごい深さで刺さってしまうのでしょうね。

森山:僕は、悪いやつに対してポジティブな要素を見たいし、いいやつだと言われている人をひねくれた目線で見てしまうことがあるんです。そういった意味では、この作品の悪いやつを「救ってやりたい」と思いながら観ていた部分があります。

松山:原作の優馬の描写で「自分は貧乏だと思われていたけど、幸せなことだっていっぱいあった」と思うシーンが好きなんです。同じように、一つの目線じゃなくていろんな見方をすれば、いろんな事実が見えてくる。そう思ってもらいたいです。

妻夫木:観終わったときに、自分自身が問い詰められることになるとは思うんです。その答えが何かはわからないけど、大事なものを持って帰れるとは思う。それが映画だということをあらためて感じました。

綾野:観始めたときと観終わったときは、完全に景色が違います。それを受け止めてもらえたらうれしいです。

本当にすごい映画を観てしまったときの、誰かに話さずにはいられない衝動と高揚。冗舌な5人の様子から伝わってきたのは、まさにそういった感覚だった。自分以外のパートを完成版で初めて観たという客観目線が、余計に熱さを生んだのかもしれない。彼らの言う通り、役者の表現力、監督の演出力、原作・音楽を含め、総合芸術としての完成度があまりにも高い本作。観たら受けた思いを誰かに伝えたくなる。

(C) 2016「怒り」製作委員会

映画『怒り』は9月17日より全国公開

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