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メリル・ストリープ
『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』
ボロボロになるまで歌い続けた!
『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』メリル・ストリープ 単独インタビュー

取材・文:編集部・市川遥 写真:日吉永遠

ソプラノ歌手になる夢を追い続けるも、致命的なオンチだった(本人は気付いていなかった!)ニューヨーク社交界のトップ、フローレンス・フォスター・ジェンキンスと、彼女を支え続けた夫シンクレアの実話を笑いと涙で描いた本作。『クィーン』のスティーヴン・フリアーズ監督の下、見事な歌唱力を封印してオンチな歌姫になり切ったメリル・ストリープが、撮影秘話やフローレンスを演じることで知った「自分の弱いところ」について語った。

■コンサート会場で観客がリアルな爆笑をする秘密

Q:たくさんの観客を前にしたカーネギーホールのシーンはどのように作り上げたのですか?

普通コンサートシーンを撮るときは、最初に舞台の俳優をいろいろな距離から撮って、その後、昼食の後とかに観客側を撮る。だから、彼らの番になったときって、観客役の人たちはみんな疲れ切っているの。だから(監督の)スティーヴン・フリアーズに「先に観客の方から撮影したらどうかしら? 本当のコンサートみたいにやってみたら?」と言ってみたの。だから観客たちはわたしたちが何をやるか知らなかったのよ。教えなかったの。ただ会場に入って、座って、静かにしてもらって、ステージに出ていったわけ。カメラ5台を彼らの方に向けていたわ。だから、映画の観客が観るのは彼らの本物のリアクションなのよ!(笑)

時間の点を除けば本当に素晴らしいやり方だった。だって、わたしの撮影になるのは夜9時とかだから。本当に疲れて、(しわがれ声で)こんな声になっちゃったわ。月曜、火曜、そして水曜の半分、撮影をした。この映画の撮影が終わってから、ニューヨークで素晴らしいソプラノ歌手のルネ・フレミングに会ったのだけど、「『夜の女王のアリア』を1日に2回歌ったんですか?」と言うから、「1日に8回よ」と答えたら、「わたしは1週間に2回しか歌わないですよ! それ以上歌う人なんていないですって!」だって(笑)。実際ボロボロになって、みんな「もうやめないと」と心配していたの。でも、のどを休めるために半日休みをくれたから、それでまた撮影に戻ったわ。

Q:素晴らしいパフォーマンスでした!

まあ、ありがとう! でも本当におかしいわよね(笑)。

■パフォーマンスは生歌&生伴奏!

Q:伴奏者コズメ役のサイモン・ヘルバーグが実際にピアノを弾いて、あなたはそれに合わせて歌ったんですよね? そのことが本作を特別なものにしていると感じました。

そうなの。『マンマ・ミーア!』もそうだったけど、普通は最初に歌のレコーディングをして、それから撮影現場ではそれに合わせて口パクするというか、一緒に歌うものよね。だからタイミングが正確で、カットするのが簡単。常に同じタイミングなわけだから。実際、本作でも最初はそうするつもりだったと思うの。わたしはサイモンと練習して、ロンドンのアップル・スタジオズで全ての曲をレコーディングしてとっても楽しかった。これで終わり! あとは口パクをするだけだって。でもわたしたちが現場に行ったらスティーヴンが(低い監督の声まねで)「生でやるべきだと思うよ!」と言うから、「オー・マイ・ゴッド!」って(笑)。それでわたしたちやったの!

全てのパフォーマンスを生でやるということは、スティーヴンにとってとても難しかったと思う。何もマッチしないから、編集のときはずっと大変になったはずよ。でも、わたしには即興をする自由が与えられた。どこでミスをするのだとかね。そしてサイモンはその瞬間の一つ一つに反応していて、わたしがするミスの全てに即興で演奏のタイミングを合わせてくるの。素晴らしいわ。とても大変な仕事だったと思う。これは真剣に言っているんだけど、彼以外のアメリカ人俳優がこんな仕事をできるとは思えない。九つの異なる曲を弾いて、ピアノから顔をのぞかせてあんな面白くするなんて(笑)。まさに偉業よ。彼の素晴らしさが十分に認識されているとは思わないわ(笑)。

■ヒュー・グラントはメリルのことを恐れていた!?

Q:シンクレアはフローレンスを傷つけないように、彼女のことを酷評しているレビューを隠しますが、実はフローレンスもシンクレアのために同じことをしていたりと、二人の関係はある意味ピュアでとてもチャーミングでした。

実際のシンクレアとフローレンスには30年の関係があって、互いに互いをささげていたのね。ヒュー(シンクレア役のヒュー・グラント)とは本作で初めて知り合ったのだけど、撮影前にプロデューサーがわたしたちを家での夕食に招いてくれて、30年にわたってシンクレアとフローレンスが互いに書いたラブレターを見せてくれたの。シンクレアの行動は愛だったのか、それともお金が目的だったのか、という点で疑問が持たれているのは知っていたけれど、それはこの手紙のことをみんな知らないからよ。そこには真の愛情があったわ。ヒューが言うには、愛というのは私利だって。それは否定できない。でも彼らの互いについての幻想は“愛”といえるんじゃないかしら。最高の部分だけを見て、残りは無視するの。

Q:アカデミー賞に19回ノミネートされたあなたと初めて共演するということで、ヒューは怖がっていたそうですよ。

口から出まかせよ!(笑)わたしのことなんか全然怖がっていなかったわ。それが本当だったら楽しかったでしょうに(笑)。

Q:でも実際そうしたことはよく起こるんじゃないですか?

そうね。でもヒューのことは信じないわ(笑)。若い俳優たちとの共演だとよく起こるけど、でもそれって仕事の邪魔にしかならないの。だから一緒に過ごして壁を壊さないといけない。演技というのは、互いにコネクトできるか否かによるものだから。

■俳優は演じることで、自分について学ぶ!

Q:あなたがいつも役柄を深く理解していらっしゃることに圧倒されています。役づくりでは何が一番重要だと考えているのですか?

それは役柄によるわね。歴史を調べたりとか、時にはたくさんの準備が必要になることもある……。でも、常に完全な信念によって生命を吹き込まれなくてはいけない。あなたは“その人”で、彼らの見方で世界を感じるの。そう、ただ信じなくてはいけないのよ。演技は互いに影響し合う芸術形態だから、ほかの俳優から引き出されるものでもある。だから俳優の演技力は、演技をするパートナーによって決まるのだと思う。その意味で、わたしは素晴らしい人々と仕事をすることができてとてもラッキーだったと思うわ。

Q:今回の役づくりでは、歌を下手に歌うことを学ぶことで、フローレンス自身についても学んだのでしょうか?

演じるときは、いつも自分について学ぶことになるのよ。フフフ(笑)。なぜなら自分のいつもとは違う部分にアクセスすることになるから。今回わたしについて学んだのは、わたしは何が間違っているのかということを見てしまいがちだということ。いつもどこに間違いがあるかを探してしまうの。それがわたしの弱いところよ。わたしは、そうしたことを無視して、世界の美しくて素晴らしい部分だけを見る人々に感服している。フローレンスに惹(ひ)かれる理由の一つは、彼女の楽天的で、嫌なものはわざと無視してしまうところ(笑)がわたしの母を思い出させたから。そういうふうな人たちは人生を通してとても幸せでいられる。逆にわたしみたいな人は何が間違っているのかに集中するあまり、自分をみじめにしてしまうのよ(笑)。

3度のオスカーに輝く誰もが認める大女優のメリルだが、取材場所に現れた彼女は気さくで羽のように軽やか。打ち明け話をするみたいに静かにゆったりと言葉を紡ぎ、時には声や表情まで変えて臨場感たっぷりに語るさまがとびきりチャーミングだった。絶望的なオンチなのにもかかわらずなぜか人を惹(ひ)きつけるところのあるフローレンスの魅力は、そんなメリル自身の内側から醸し出されていると感じた。

映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』は12月1日よりTOHOシネマズ日劇ほかにて全国公開

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