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間違いなしの神配信映画『アリ・ウォンの人妻って大変!』Netflix

神配信映画

コメディー編 連載第2回(全7回)

 ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はコメディー編として、全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。

地上波ならNG間違いなし!二人目を妊娠中のコメディエンヌの赤裸々トークに脱帽

アリ・ウォンの人妻って大変
Netflix映画『アリ・ウォンの人妻って大変!』独占配信中

アリ・ウォンの人妻って大変!』Netflix

上映時間:64分

監督:ジェイ・カラス

キャスト:アリ・ウォン

 Netflixオリジナルの『いつかはマイ・ベイビー』(2019)に主演し、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』などで女優としても活躍するアリ・ウォン。黒髪にキャットアイの眼鏡がトレードマークのスタンダップコメディアンである彼女のライブ『アリ・ウォンの人妻って大変!』(2018)は、結婚と育児と仕事でいっぱいいっぱいの女性の本音がほとばしる。

 2016年、第一子妊娠7か月の時に収録した『アリ・ウォンのオメデタ人生?!』が配信され、一躍人気者になった彼女が2年後に新たに配信したのが本作だ。今度は第2子妊娠7か月で、前作の時と同じく、大きなお腹を強調するミニワンピース姿で登場し、1時間立ちっぱなしで赤裸々トークを繰り広げる。

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アリ・ウォンの人妻って大変
Netflix映画『アリ・ウォンの人妻って大変!』独占配信中

 両親は中国系とベトナム系だが、アジア系あるあるネタから始めないのが彼女のスタイル。まずは育児の苦労を「人間たまごっちとの監禁生活」と表現、「おもちゃのたまごっちの方が人間の赤ちゃんよりコミュニケーションが取れる」と嘆いて、性別も人種もさまざまな客層を瞬時に掌握する。

 妊娠中の女性たちはなぜつるむのか? なぜ服の趣味が変わるのか? 超ストレスフルにもかかわらず授乳にこだわる理由など、前回は出産前で無敵の妊婦だった彼女が、出産とその後休みなく続く育児に疲れ果てながら悟った身も蓋もない実情をぶちまけ、「だから産休が必要なの」というオチに場内は拍手喝采だ。生まれてきたわが子第一ではなく、徹底して “出産した女性”目線を貫く語りは、世間では大っぴらに話題にならないが、経産婦なら共感しかない現実を伝える。言葉の一つ一つや表情、地上波ならNG間違いなしの身体表現付きで、出産経験がなくてもリアルにわかる迫真性だ。

アリ・ウォンの人妻って大変
Netflix映画『アリ・ウォンの人妻って大変!』独占配信中

 1982年、サンフランシスコに生まれたウォンはUCLA在学中から学内のコメディー劇団に参加し、卒業後にコメディアンの道に進んだ。アジア系女性はおとなしい、面白味がないというステレオタイプを、多くのアジア系自身がうのみにしていることにいらだつと言う彼女は、容赦ない毒舌でタブーにも切り込んでいく。神妙にならざるを得ない出来事や人に対しても、手加減なし。小柄な体から放つエネルギーの強さに圧倒される。

 本作の収録地のカナダと異なるアメリカの産休事情の悲惨さを訴え、第一子出産時の帝王切開による惨状を強烈な下ネタで披露し、そこから有給産休の必要性を訴える。男性でも躊躇(ちゅうちょ)しそうなダーティーな表現は、女性に対して抱く夢や幻想を打ち砕きそうだが、虚栄心ゼロの正直さに思わず笑ってしまう。甘ったるいきれいごとは一切なし。ちょいちょい人種や性に関する偏見ネタを挟みながら、自分の痛みも自慢できない過去の失敗もさらけ出すから、どぎついジョークが単なる意地悪や不謹慎なイヤミに終わらない

アリ・ウォンの人妻って大変
Netflix映画『アリ・ウォンの人妻って大変!』独占配信中

 前回のライブで「フェミニズムは女性にとって最悪の事態」と言い、フェミニストたちの活動によって「女も働くことになっちゃった。“無職”が仕事だったのに」とぶちまけたウォンは、今回も「わたしは楽して大金を稼ぎたいだけ」と言う。実際は大ブレイクして有名人になり、ハーバードのビジネススクールを卒業したエリートの夫よりも稼いでいる。その葛藤を、夫や自分の母親や兄姉、舅姑いじりのブラックジョークに昇華してみせる。彼女の夫ジャスティン・ハクタは日系アメリカ人の父(かつて子供番組で活躍した発明家のケン・ハクタ)とフィリピン系の母を持ち、大伯父は現代美術家のナムジュン・パイクという家系。現在は妻のサポートに徹している。

 働く女性へのFAQ「一体どうやって家庭と仕事を両立してるの?」という質問が男性に向けられないのは、「男には(両立)できないから」とバッサリ切り捨てる。一家の大黒柱という責任を背負いながらの育児を、セレブっぽい優雅なエピソードでごまかすなんてあり得ない。原題「Hard Knock Wife」の示す、ハードノック(苦難)そのものなのだ。

 終盤、観客がちょっと引き気味になる程のオーラルセックス・ネタの後に、真のフェミニズムとは何かをかぶせてくるのが秀逸だ。異論もあるだろうが、これが彼女の哲学。「親になったからって成長するわけじゃない」と断言し、男女のセックスに関わる駆け引きや性にまつわる際どいネタも続けていくという。テレビシリーズ「フアン家のアメリカ開拓記」の脚本も手がける彼女は、テレビの全国放送では絶対に扱えないテーマについて「それがわたしの言いたいことだから」とばかりに、好感度無視で投げつけてくる。

 あけすけで全方位に毒だらけ、だがなぜかそこに常に愛を感じる。彼女は、下ネタを口にできるのは親密さの現れだと発言したことがある。相手に自分の本音や欲望を隠さず正直に見せる。大人なら誰もが「それな!」と思う瞬間が1つは必ずある。不謹慎をまぶした主張は本物だからこそ、彼女はこのライブを「FOR MARI」とまだ幼い長女に捧げている。(冨永由紀)

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