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「結婚」は誰のため?何のためにするのか?『結婚しない、できない私』

厳選オンライン映画

女性監督特集 連載第7回(全7回)

 日本未公開作や配信オリジナル映画、これまでに観る機会が少なかった貴重な作品など、オンラインで鑑賞できる映画の幅が広がっている。この記事では数多くのオンライン映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。今回は女性監督特集として日本初上陸となる新作を全7作品、毎日1作品のレビューをお送りする。

結婚しない、できない私
『結婚しない、できない私』より - Courtesy of Medalia Productions and Shlam Productions

『結婚しない、できない私』アジアンドキュメンタリーズ

上映時間:84分

監督:シェシュ・シャラムハイラ・メダリア

出演:ホワメイシュ・ミンガイ・チーほか

 20代も半ばになると、多くの女性は結婚について意識せざるを得なくなる。今の時代に日本でも女性に対して、25歳を過ぎた女性は売れ残ったクリスマスケーキだとか、「そんなことじゃお嫁に行けないよ~」などとあからさまに言う人もいないだろうが、言わないだけでその圧は頑として存在する。

 そもそも結婚したいのかそうではないのか、子供が欲しいのかどうなのか。結婚はしなくとも子供が欲しい、結婚して早く家庭を築きたいと思っても、相手がいない場合はどうやって見つけるのか? 本人の考えや意思とは関係なく、外圧=社会的スティグマ(差別・偏見)による女性たちの悩みは尽きない。急速にグローバル化する中国の大都会・北京で暮らす独身女性3人に密着したドキュメンタリー映画『結婚しない、できない私』は、当世中国の婚活事情を通して、女性を取り巻くそうした問題の数々を浮き彫りにする

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結婚しない、できない私
『結婚しない、できない私』より - Courtesy of Medalia Productions and Shlam Productions

 一人っ子政策と性別選択的中絶の結果、現在の中国は女性よりも男性の人口が約3千万人も多く、政府は女性に早期結婚を強いている。そのような社会を背景として、中国では27歳になっても未婚の女性を指す「剰女(シェンニュイ)」=余った女という蔑称がある。本作の原題は英語に言い換えた『Leftover Women』。タイトルからしてなかなかにきついが、そこから想像する以上に本作の3人の主人公、有能な弁護士ホワメイ(34歳)、ラジオ局のDJシュ・ミン(28歳)、北京師範大学准教授のガイ・チー(36歳)が受ける外圧は凄まじい

 比較的裕福な両親から経済的支援があり不自由なく暮らしているミン・シューは、自分はまだ若いのに侮辱的な扱いを受けていると思っている。実際に冒頭で、参加者全員がさらし者にされているかのような大規模な青空婚活イベントの様子に、早くもいたたまれない気持ちに。彼女にとって一番の頭痛の種は、結婚相手に対する両親の要望が高いことだ。シュ・ミンは両親の賛同を得た男性と交際したいが、そう都合よく理想の相手が見つかるわけではない。このあたりの事情は日本でも“あるある”だと思うが、圧倒的に男性の数が多く「剰男(シェンナン)」問題も深刻な中国において、売り手市場であるはずの女性が未婚であるだけでなく条件の良い男性を見つけられないこともまた許されない空気があるのだ。

結婚しない、できない私
『結婚しない、できない私』より - Courtesy of Medalia Productions and Shlam Productions

 こうした中国の事情はガイ・チーのケースでより顕著だ。知識階級に生まれたがパーキンソン病で亡くなった父親の看護と治療費の借金で、婚期を逃したと語るガイ・チー。現在は年下で農村出身の恋人の男性がいるが、女性の一家からすれば結婚は格下の男性との妥協であり、男性の一家からすると36歳という年齢は絶対に親族などには言えないのだという。ガイ・チーの複雑な心境は、母親が「結婚するなら何かを諦めないと」「何千年も女性はそうしてきた」「普通の人と同じ道を歩むのよ」と諭す言葉を聞く彼女の表情からもよくわかる。結婚・出産に関する心境の変化については自身の言葉で明かされて行くのだが、これを現実的と受け取るか納得できないと感じるか。

 最も多くの時間を割いて語られるホワメイのケースは、本作のテーマを象徴しているといえる。ショートヘアでファッションも強めで勝ち気。学歴が高く向上心があり、自分の意見や結婚観をはっきりと述べる彼女に対して、結婚相談所は「もうおばさんだし美人ではない、理想が高すぎ」などと容赦ない。筆者も偏見を自覚しながら自分の若いときと重なる部分もあり、こういう女性は一般的に男性からは生意気だと思われて敬遠されるだろうなどとつい考えてしまい、苦々しい気持ちになる。しかし山東省の貧しい農村出身の彼女は実家に戻るたびに、両親や姉妹、親戚から激しくなぜ結婚しないのかと責めたてられる姿は、あまりにも理不尽だと言わざるを得ない。「心配で眠れない」「早く安心させてほしい」と訴える両親や姉妹の言葉を聞くホワメイの心情を思うとやりきれない。

結婚しない、できない私
『結婚しない、できない私』より - Courtesy of Medalia Productions and Shlam Productions

 最もショッキングなのは、ホワメイが病院で卵子の凍結について聞くくだりだ。中国には独身女性に対して(卵子凍結を含む)生殖補助技術を使うことが禁止されている。この禁止規定をめぐる訴訟も実際に起きているが、結局のところグローバル化しようが女性の学歴が高くなろうが、女性に求められているのは「なるべく若いうちに結婚して、できるだけ早く子供を産むこと」なのか。本作では三者三様の選択と生き方が示されるが、それはなぜ結婚しなければならないのか、結婚とは何なのかについての再考を促すものである。同時に長い歴史の中で女性が置かれてきた立ち場に対する、大きな問いに思いを馳せる機会でもあるだろう。

 これほどまでに取材対象に密着し、中国の人々の生活にカメラが入り込んで実情を映し出している本作が、イスラエル映画であることには驚きがある。イスラエル出身の2人の女性監督兼プロデューサーのシェシュ・シャラムとヒラ・メダリアは、中国におけるインターネット中毒についてのドキュメンタリー映画『ウェブ・ジャンキー(原題) / Web Junkie』(2013)でも組んでいる。中国の事情に精通した2人の西洋的な価値観を通して映し出される本作は、各国の映画祭での上映やオンラインで配信されることを通して、中国だけでなく世界中の人々から多くの声が寄せられている。(文・今祥枝)

映画『結婚しない、できない私』はアジアンドキュメンタリーズにて配信

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