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日本はアニメ大国なのに作家の待遇は後進国並?海外アニメクリエーターに日本のアニメ技術を伝承

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来日中の3人の気鋭アーティスト
来日中の3人の気鋭アーティスト - Photo:Harumi Nakayama

 海外の優れたアニメーション作家に日本で研究・研修の機会を提供し、彼らを通して日本のアニメーション文化を世界に発信するプロジェクト「アニメーション・アーティスト・イン・レジデンス東京 2010-2011」(文化庁&一般社団法人ジャパン・イメージ・カウンシル共催)がスタートし、現在、3人の気鋭アーティストが来日中だ。

 彼らは1月16日から3月31日までの75日間滞在して日本文化やアーティストからの刺激を受けながら作品を制作しており、その中間報告会が19日、東京・渋谷のイメージフォーラムで行われた。

 同プロジェクトは、文化庁がメディア芸術における国際交流の推進と、彼らを通じて国内のメディア芸術水準の交流と発展を目的とした「海外メディア芸術クリエイター招へい事業」の一環として、約1,300万円を投じている。文化庁文化部芸術文化課の佐伯知紀氏は「メディア芸術の国際的な拠点となるべく設立が企画された『国立メディア芸術総合センター』は“国営の漫画喫茶”と言われ、さらに政権交代で撤回となりましたが、ヒューマン支援とソフト支援という基本方針は残っている。その一つが本プロジェクト」と説明する。同庁のヒューマン支援としてはすでに国内の若手アニメーターの人生育成事業などが行われているが、海外のアニメーターを招へいしての事業は初の試みとあって、果たして彼らにとって日本で学ぶことはどれだけ価値があるのかは未知数だった。

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 しかし昨夏に、20歳~35歳までの国際映画祭参加経験者を対象に公募を開始したところ、34か国から96人の応募があった。その中から過去作品の評価や実績、日本で制作する作品のプレゼンテーションなどで考慮した結果、中国のチェン・シー(33)、フランスのクリストフ・ゴートリー(34)、英国のジョゼフ・ピアス(28)が選ばれた。いずれも広島国際アニメーションフェスティバルなど名だたるアニメ映画祭に参加経験のある実力者たちだ。彼らは押井守作品で知られるアニメーション製作会社プロダクションI.Gのスタジオ見学や、世界的に知られるアニメーション作家山村浩二や村田朋泰などとの交流で刺激を受けながら、自作の制作に励んでいる。

 チェンは中国の伝統的な切り絵を用い、’60年代の中国を舞台にした『Grain Coupon(霜降)』を制作中。チェンは東京国立博物館で見た浮世絵や扇絵に影響を受けたそうで「それらには当時の人たちの生活が良く表れているだけでなく、繊細な人物の表情や姿勢の描き方が勉強になります。同時に中国と日本の文化は共通している部分が多く、日本に来て自国の文化を再発見しました」と興奮気味に語る。

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 春画に興味を抱いたのがピアスだ。彼はオスカー・ワイルドの小説「サロメ」の挿絵で知られる英国のイラストレーター、オーブリー・ビアズリーを敬愛しており、そのビアズリーが春画に影響を受けていたことを知り日本文化を学びに来た。そのピアスの新作『Pub』は実写映像を手書きでなぞってアニメーション化するロトスコープという技術を用いている。ピアスは「山村さんの新作アニメの一部を見せて頂き、心が動かされた。その他、大山慶さんや和田淳さんらのアニメや春画に触れ、シンプルなラインながら力強い、そんな作品を目指したい」と意気込んでいる。

 唯一東京の街へと繰り出し、ピクシレーションという手法でコマ撮り作品『Vertige(めまい)』に挑んでいるのがゴードリーだ。人間が地面に張り付いてしまうという奇病が伝染病のように蔓延していくユニークな作品で、日本ならではのコンビニ弁当やおにぎりをほおばりながら日々、撮影に勤しんでいる。ゴードリーは「同じような建物が並んでいるパリと異なり、日本は多種多様な建築があって面白い」と言う。

 その一方で彼らが口々に言うのは、「日本はアニメ大国だと思っていたが、インディペンデント作家の置かれている状況は世界どこも変わらない。山村さんや村田さんが、自身の創造の場をキープするために闘っていることに感銘を受けた」(ゴードリー)と言う。わずかな滞在ながら、映像文化に対する日本の現状を鋭く指摘している。

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 研修は3月31日までだが、彼らは帰国後に引き続き新作の編集作業を行い、8月末の完成を目指す。その後、海外の映画祭出品などで日本発のアニメとして発表される予定だ。
日本では官庁のトップや担当者が度々変わるために、特にこうした文化的事業を継続して行うことを最も苦手とするが、佐伯氏は「来年度の予算もすでに計上しています。長く続けていけるように、温かく見守って頂きたい」とアピールした。

 3月12日(土)には、研修生3人が参加する「日・中・仏・英のインディペンデントアニメーション」と題した作品上映と討論会が東京・青山学院スタジオB1ホールで行われる。(取材・文:中山治美)

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