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大泉洋、快進撃支える軽やかな魅力 紅白で2020年締めくくり

客席を笑いに包んだ『グッドバイ』舞台あいさつの大泉洋
客席を笑いに包んだ『グッドバイ』舞台あいさつの大泉洋

 大泉洋はもはや、ビッグネームと言っていい。三谷幸喜との蜜月を思わせる映画や舞台やNHK大河ドラマ、エンタメ大作映画、老舗連ドラ枠の主役など、第一線の作品へ立て続けに出演。ダチョウ倶楽部寺門ジモンが映画監督に初挑戦した『フード・ラック!食運』でカレー屋の店主としてチラっと出演していることに、なんで!? と驚く大物感。そして雑誌「日経エンタテインメント!」が発表する2020年版のタレントパワーランキング男優編では、堂々の1位を獲得した。なぜ彼は、多くの人の心を捉えるだろう。(浅見祥子)

心が軽くなる大泉洋の大爆笑【写真】

 近年、大泉が実力をあらためて知らしめたのは、2018年の映画『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』かもしれない。大泉が演じたのは、筋ジストロフィーを患う主人公・鹿野。普通に描いたら、お涙頂戴の難病モノに陥ってもおかしくないところを、彼が演じる鹿野はポップで軽やか。それでいながら、時には死を覚悟して生きる人間ゆえの説得力あるセリフを、観る者の心にずしん! と響かせた。まさに離れ業レベルだ。

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 今年2月に公開された『グッドバイ~嘘からはじまる人生喜劇~』にも、そんな大泉の存在感が生きている。太宰治の未完の遺作をケラリーノ・サンドロヴィッチが戯曲化した舞台を、『ソロモンの偽証』の成島出監督の手で映画化した本作。大泉が演じる田島は、優柔不断でどこか情けないのに、女にモテて回りは超絶美人の愛人だらけというキャラクター。愛人と別れて生き方を改めようと小池栄子演じるキヌ子をお金で雇い、妻のフリをさせて女たちを訪ねるというトホホな作戦の一部始終を描く。

 田島の人として魅力は、文字だけでは伝わりにくい。しかし、これを大泉洋が演じると、なんだか好ましい人物に思えてくるから不思議だ。彼が演じる田島には人としての生々しさ、どんな人間も抱えているはずドロドロとした感情が透けて見えない(もちろんいい意味で)。それでいて弱さや情けなさがストレートにかわいらしさにつながるよう。舞台に続いて同じ役を演じる小池とのやりとりの軽妙さもいい塩梅で、本来ならヘビーな色恋沙汰を描くのに観るとなんとも軽やかな気分になる。

 コロナ禍に見舞われた今年、観ると軽やかな気分になるというのは、なにより際立って、人びとが求めるものかもしれない。そのあたり、彼はもはや国宝級の落語家のよう。「うっ」とか「あぁ?」とぼやくだけで笑える。それはつまり、その場の間や呼吸を読み、それを操れるということでもある。WOWOWが放送した「2020年 五月の恋」では、そんな彼の特質がバッチリと生きていた。リモートで制作された全4話の連続ドラマで画面は二分割、吉田羊と大泉演じる元夫婦が、間違い電話をしたことに始まる会話劇。元夫婦だけに2人の会話には遠慮がなく、下手したらギスギスしすぎるし、長年、共に暮らした日常感が漂うはずだから、なあなあに流れる恐れもある。岡田惠和がアテ書きしたという脚本はさすがに隙がないが、さらにそれをナチュラルに見せきってしまう2人の阿吽の呼吸。「東京ドラマアウォード2020」単発ドラマ部門優秀賞も納得だ。

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 そして、現在公開中の映画『新解釈・三國志』である。今旬の笑いの王様である福田雄一監督との初タッグ。福田監督に「めっちゃボヤく劉備」をやらないかと言われた大泉が、それならできるかもと実現したらしい。その段階で、観る者の期待値はひたすらに上がる。やがて動画サイトで小出しにされていくメイキング映像。カメラの外でもボヤく大泉、ムロツヨシと絡んで大笑いし、それを見てさらなる爆笑を重ねる福田監督……面白い。撮影後も大泉はプロモーションのために主演俳優としてさまざまなバラエティー番組に出演する。どんな番組にも不思議と馴染み、「彼でなくては!」と思わせるやり方で面白味を加えていく。知らず知らず、映画を観たい気持ちにさせられてしまう。そもそも際立っていたであろうトーク力や人気バラエティー「水曜どうでしょう」で培ったロケ力、そのすべてが映画俳優としての大泉洋の価値を底上げする。

 そんな大泉を、『罪の声』の原作者・塩田武士が主人公にアテ書きしたのが『騙し絵の牙』(2021年3月26日公開)。この映画の大泉はコミカルを封印。廃刊の危機に瀕した雑誌を救おうと、あの手この手の秘策を連打して生き残りの一発逆転を狙う、切れ者の編集長を演じる。その他、13年前のアタリ役とも言える連ドラの続編「ハケンの品格」の第2期、ドキュメンタリー映画『ママをやめてもいいですか!?』のナレーションもあり、大泉の俳優としての収穫は豊かだった今年。その最後をNHK紅白歌合戦の白組司会で締めるというニュースには、驚きと共に「えっ大泉洋が!? 超面白そう!」とまたも楽しい年末の予感を倍増させた。

 そしてやってくる2021年も大泉洋の快進撃は続くだろう。厳しい社会状況のなか、「笑いがほしい、嘘ではない本物の笑いを」と考える人は多いだろうから。シリアスもコメディーもナチュラルに、そうとは見せない演技力を誇るのはもちろん、芸人も真っ青なトーク色、きっと人たらしな性格で、多くのつくり手が彼を求めるはず。そしてどんな役にも好ましい軽やかさを与える彼の個性。ああ、新作が待ち遠しい。

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