『トップガン』でトム・クルーズは実際に操縦してる?
『トップガン マーヴェリック』が、あいかわらず映画ファンを魅了し続けている。パンデミックの影響で劇場公開から配信までの期間がかなり短縮された中でも、本作は日米両方でまだトップ5に君臨。そこには、スリル満点の空中アクションをビッグスクリーンで体験したいという思いが大きく関係しているだろう。だが、あれらのシーンでは俳優たち本人が実際に戦闘機を操縦しているのだろうか?(文/猿渡由紀)
結論から言うと、トム・クルーズをはじめとするキャストらは、操縦はしていない。ただし、彼らはみんな戦闘機をどう操縦するか学び、撮影は実際に空中で行われている。
トレーニングは、3か月。特訓プログラムの作成には、クルーズが深く関わった。イギリス版とアメリカ版のGQに掲載された記事によれば、まず初心者向けの飛行機でスタートしたとのこと。ここで飛行についての基本的なことや手の動きを学び、次はまた別の飛行機と段階を踏んで練習をした。そして最後が映画に使われるF-18だ。国防省から1時間あたり1万1,000ドル(およそ148万円)でリースしたというから、驚きである。
このトレーニングにはまた、乗り物酔いをしないよう、体を慣れさせるという目的もあった。実際に操縦するのはプロであったとしても、その横で3か月も空を飛ぶ体験を積んだことで、「誰かが乗り物酔いをしたせいで撮影が中断したり、遅れたりするということは一度もなかった」と空中スタントコーディネーターのケビン・ラローサ2世は語っている。
一方で、撮影監督は空中スタントのシーンのために、まったく新しいカメラを考案した。コックピットの中は狭いため、たとえ1台であってもカメラを入れるのは無理だと海軍の人たちに言われたのだが、最終的に彼らは本作のために開発された小型のIMAXカメラを6台も飛行機の中に入れることに成功したのである。
撮影に使われた飛行機は、2人乗りのF-18。実際に操縦するプロのパイロットは前の席に座り、俳優は後ろに座る。クルーズが一人で操縦しているシーンも、本当のところは彼の前に操縦士がいて、後にCGIで1人乗りの飛行機のように見せているのだ。カメラが取り付けられているのは、プロのパイロットの真後ろ。そのうち2つは前を向いて俳優の見る景色をとらえ、残り4つは後ろ、つまり俳優に向いている。そうやって、俳優の表情を間近にとらえつつ、観客を自分も飛んでいるという気持ちにさせるのだ。
飛んでいるとき、コックピットの中にいるのは、パイロットと俳優のみ。普通の映画のように、テイクの合間にヘアメイクがやってきてお直しをしてくれることもできないため、それも俳優が自分でやる。撮影監督や照明担当者もいないので、飛行中、操縦士に「顔のこちら側にもっと光が当たらないといけないから、このような角度で飛んでほしい」など指示する必要もある。
「トレーニングでパイロットと一緒に飛ばせてもらい、彼らがどんなことをしているのか理解することができた。撮影中は、すごいスピードで飛ぶ中、彼らと同じことをやり、カメラや照明に気を配りつつ、演技もやるんだ。それは大変だった。さらに、撮影中も耐久力を維持するために飛行トレーニングを続けたよ」とルースター役のマイルズ・テラーは筆者とのインタビューで語っている。
あの臨場感とスリルは、そんなキャストの努力、テクノロジー、創意工夫によって生まれたのだ。そこにはたっぷりの時間とお金もかけられている。これこそまさに、観客を楽しませたいというクルーズの強い使命感の表れといえるだろう。ちなみに、映画にはP-51マスタングという戦闘機も登場しているが、それはトム本人所有のもので、自ら操縦しているそうだ。
そんな裏話を知った上で、もう一度あれらのシーンをビッグスクリーンでじっくり堪能してみてはいかがだろうか。