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『キングダム3』はなにが凄いのか?観客の満足度が高い理由を分析

映画『キングダム 運命の炎』より
映画『キングダム 運命の炎』より - (C) 原泰久/集英社 (C) 2023映画「キングダム」製作委員会

 前2作共に興行収入50億円を超える大ヒットシリーズの3作目にして、公開から3週連続で週末映画ランキング首位を獲得するなど、シリーズ史上ナンバーワンも狙える好成績をあげている原泰久原作・山崎賢人主演の『キングダム 運命の炎』(※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記)。本作の魅力を分析してみた。(※ネタバレあり。作品鑑賞後にご覧いただくことをお勧めします)。

【画像】大沢たかおの言葉に号泣する山崎賢人

 累計発行部数9,900万部(2023年7月現在)を突破する人気漫画を実写化した本作は、原作者の原自身が脚本にも参加。大筋は原作に忠実ながらも、随所で実写オリジナルの展開がある。今回は原作の「紫夏編」と「馬陽(ばよう)の戦い」を描いているが、その構成や登場キャラは原作と多少異なる。「紫夏編」は若き秦王・エイ政(吉沢亮※エイ政のエイは、上に亡、中に口、下左から月、女、迅のつくりが正式表記)の過去が明かされるエピソードだが、原作では政が心を許した一人の宮女にのみ聞かせる形だったものを、映画では異なる形で「馬陽の戦い」のエピソードの中に上手く組み込み、その重要性を増している。

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原作からのアレンジが見事な「紫夏編」

9歳のエイ政(吉沢亮)の壮絶な過去が明らかに

 今回の物語は、秦の隣国・趙(ちょう)の大軍勢が、突如として秦への侵攻を開始したことから、エイ政と廷臣たちが揃う秦国宮廷の軍議に、王騎(大沢たかお)が招集される。秦の総大将就任要請を受けた王騎は、二人だけで話す場を作ったエイ政に、あらためて中華統一に挑む王としての覚悟を問う。そこでエイ政から語られるのが、壮絶な過去を明かす「紫夏編」。戦場を離れていた王騎が総大将を受ける動機の一つともなるし、原作にもある先々代の王・昭王の遺言をエイ政にのみ伝えようとする流れにも上手く繋がった。

 さらに、その場には信(山崎賢人)の姿も。下士官の信が宮廷に居るのは普通ならありえないが、王騎は信がエイ政と旧知の仲なのを知っているし、自身の下で修業させていたため連れてきている。だから王との二人だけの場に信が潜り込んでいるのも、黙認しているということだろう。エイ政の覚悟を2人が知ることは、その想いや行動に大きな影響を与えるだろうし、3人の関係性も深めることになり、実写版ならではの上手いアレンジだ。

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 そこでエイ政から中華統一を目指す理由として語られるのが、趙で人質となっていた頃の苦難の日々。自分を深い闇から救い出すために命をかけてくれた恩人が、闇商人の紫夏()だった。紫夏が「殺させない!」と必死の形相でエイ政を守り抜く姿は、杏の熱演も相まって、感動せずにはいられない。また、9歳のエイ政を、吉沢本人が演じたことも功を奏している。別人の子役が演じていたら、どんなに吉沢と似ていて上手くても、過去の政と劇中の今の政が背負う痛みや思いを、同一人物として実感するのは難しかったかもしれない。

 また、今回はこのエピソードがあることで、主人公は信ではあるものの、『キングダム』はエイ政の物語でもあることが改めて明確になった。実は原作も、連載前はエイ政を主役に構想されていた時期があり、紫夏編はその構想の第1話が基になったそうで(原作コミック8巻巻末より)、原作者の原にとっても思い入れの深いエピソードのようだ。エイ政は、1作目でも自分のために命を落としてきた者が数多くいると語っていたし、その者たちのためにも中華統一を目指すと語る。それが紫夏や、信の幼馴染でエイ政の影武者だった漂(吉沢亮)でもあるとわかるのは、胸アツだ。

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頭脳戦&チームプレーが際立つ「馬陽の戦い」

山崎賢人がダイナミックなアクションで魅せる「馬陽の戦い」

 そして馬陽の戦いが王騎にとって特別な意味を持つことが、次第に明かされる。王騎はかつて圧倒的武力で他国にも恐れられた六大将軍の生き残り。馬陽は、王騎と関係の深い六大将軍の一人・キョウ(※てへんに羽、人、三が正式表記)が、謎の武将・ホウ煖(※ホウはまだれに龍が正式表記)に葬られた場所だった。今回は王騎が因縁を晴らすための戦いでもあり、指揮官として圧倒的な存在感を放つ姿を見ることができる。また、秦軍の副将を務めるのが、前作『キングダム2 遥かなる大地へ』の最後に初登場した蒙武(平山祐介)で、その剛腕ぶりも初めて描かれる。そして信は、前作の蛇甘(だかん)平原の戦いで武功をあげたため、百人将(100人部隊の隊長)に昇進。王騎直属の特殊部隊を率いることになる。信が部下たちに初めて挨拶するシーンでは、腹の底から響くような山崎の声だけでも人をひきつける説得力があり、信のさらなる成長が窺える。

 原作の『キングダム』は、武将同士の激闘と共に、戦略・戦術による頭脳戦も見どころの一つ。今回の決戦の地・馬陽でも、武力と知力を組み合わせた戦いが楽しめる。趙軍の主な将軍は、総大将として戦況を操る趙荘(山本耕史)、頭脳派の知将・馮忌(片岡愛之助)、秦を憎む残虐な将軍・万極(山田裕貴)の3人。数も練度も勝る趙軍の兵力を効率良く削るため、王騎はまず馮忌の首を狙う。そこで王騎の秘策の“矢”となるのが、王騎から「飛信隊」と名付けられた信の部隊。干央(高橋光臣)や壁(満島真之介)が率いる秦軍左翼の主力が、正面から馮忌率いる趙軍と戦う戦場で、飛信隊は少人数の機動力を活かし、険しい丘を越えて趙軍の側面から馮忌の隙を狙おうとする。前作では、信と羌カイ(清野菜名※羌カイのカイはやまいだれに鬼が正式表記)の個のアクションが大きな見せ場となったが、今回は乱戦の中での仲間との共闘がアクションの見せ場となる。その中でも山崎のダイナミックな動きと疾走感には、隊長としての気迫や覚悟も加わり、より力強く目をひくものになっている。山崎と信、大沢と王騎のハマりぶりは、もはや唯一無二と言ってもいいだろう。

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 前作はエイ政や王騎の出番は少なかったが、今回は全体を王騎の因縁の戦いで構成しつつも、前半にエイ政の過去の大きな感動を呼ぶ物語があり、後半は隊長となった信の熱い激闘を描いた上で、続きが観たくなるクリフハンガーで終わる。14日に興行通信社より発表された週末映画ランキングでは、前週を上回る動員40万1,400人、興収6億200万円をあげ、3週連続1位をキープ。累計では動員227万2,000人、興収32億8,200万円を記録している。原作ファンも納得のキャスティングと心を揺さぶる熱い物語に加え、主要キャラそれぞれを立たせつつ前半と後半に大きな山場を迎えるサービス満点の構成が、観客に高い満足度を与えているのだろう。(文:天本伸一郎)

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