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松雪泰子
『余命』
苦しいときに助け合い、一緒に乗り越えていくのが家族だと思う
『余命』松雪泰子 単独インタビュー

取材・文:福住佐知子 写真:高野広美

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人気作家・谷村志穂の同名小説を『手紙』の名匠、生野慈朗監督が映画化した『余命』。結婚10年目にして待望の妊娠をしながら、同時に乳がんの再発という重い十字架を背負ってしまう38歳の女性。自身の延命か、生まれてくるわが子の命か……自らが外科医であるがゆえの苦悩の日々が続く。苦渋の選択に決断を下すヒロイン滴(しずく)を繊細(せんさい)に演じ、命の感動を伝えた松雪泰子が映画について語ってくれた。

■作品に向かうときはいつも覚悟を決めている

Q:脚本を読まれて一番引きつけられた部分は?

主人公の滴という女性が病に苦しみながら、葛藤(かっとう)し、ある決断をしていくのですが、その中で彼女が変化していくんですね。この作品に惹(ひ)かれたのは、短い時間の中であらゆる経験を通して困難に立ち向かっていく滴の姿でしょうか……。

Q:「自分のことになると、つい無理をしてしまう」という滴の言葉がありましたが、滴の性格をどのようにとらえましたか? また役作りで、新たに取り組んだことはありますか?

滴は一人ですべてを抱え込み、強くありたいと思い過ぎていて、つい無理をしてしまう女性なんです。愛情を受け取るのがヘタで、そして甘えるのがヘタだったんだと感じながら演じていました。役作りとしては、滴は少し独りよがりに見えてしまうぐらいの強さがある女性でしたので、反面もろさもあり、弱いところも抱えている人物として、感情のヒダの部分を丁寧に描いていきたいと思いながら演じていました。

Q:滴はすべての問題を周りの人に打ち明けず、なぜ一人で背負い込んでしまったのでしょうか?

滴が医者であるということも普通の感覚とは違うのかもしれませんね。病気を発見してしまうのも自分で、自分で診断もできてしまいます。夫は妻に対してとても愛情深い人で、それがゆえに病気のことを話してしまうと、絶対に産むのを止められてしまうということもあったのでしょう。彼女の生き方として、あきらめてしまうことができない人だったんだと思います。

Q:生野監督は現場ではどのような方でしたか? また松雪さんの意見が反映されたシーンはありますか?

とても穏やかな方で、いつもわたしたちの意見やアイデアなどを聞いてくださいましたし、夫役の椎名(桔平)さんも含めて3人で一つのシーンを丁寧に作り上げていったという印象でした。監督はすべてに対し、広くとらえて、温かくそれを見守ってくださっていました。

Q:滴に甘え、滴の経済力に依存し、好きな仕事だけをしてきた夫の良介が、3か月間のキャンプ暮らしをする仕事に行くことを決意しますが、その変化についてはどのように思われますか?

良介は優しく、愛情深いのですが、やはり滴に対して依存している夫だと思います。何が一番欲しいかというと、彼にとっては滴の愛情なんですよね。だからこそ本当の理由を彼はわかっていないのですが、滴に突き放されていく中で「滴が求めていることをしたい」という意識だったのでは……。彼はいつも自分の意思で何かをするということではないんですね。

Q:「覚悟して子どもを産んだ」と滴が言うシーンがありましたが、松雪さんが覚悟を決めたときって、例えばどんな場面ですか?

いつも作品に向かうときは覚悟です(笑)。いつも一つ一つのシーンと役を本当に生きたいと思いますし、作品の中でリアルにそこに存在したいと思っています。それがどれだけできるかっていうのは、いつも覚悟が必要です。

■賛否両論ある彼女の決断について

Q:マングローブでカヌーをこいだり、夫婦で奄美に帰郷したりしたときに皆が集まってくれて宴会をするシーンがとても楽しそうでした。ロケ地でのエピソードを教えていただけますか?

島の踊りを少し踊っていますが、島のお母さんに教えていただきました。その方も出演されています(笑)。素朴で温かい、いい時間が流れました。本当に実家で親せきが集まって、一緒に食事をしているかのように皆さんも楽しんでやってらっしゃいましたね(笑)。カヌーも初めてでしたが、きれいな景色を見ながらこいで、面白かったです。

Q:エンドロールで、松雪さんが赤ちゃんをあやすシーンがとても美しくて印象に残りました。

映画を観てくださる方が、赤ちゃんと滴の満たされた笑顔を見て、彼女の選択に賛否両論はあると思うんですが、どう選択したとしても一瞬でもそういった時間があったということで、「これで良かった」と思ってもらえる瞬間だと思いますし、そういったことを感じてもらえたらと思います。

Q:演じていてつらいと思ったシーンはありませんでしたか?

全編を通してとても過酷なストーリーでしたので、滴という人物を生きる時間というのは体にも痛みを感じた時間でした。

Q:観る側が一番辛く感じる滴の死んでいくシーンは、わざと外されたように思われますが……?

監督の「美しく描きたい」という考えがあったからだと思います。子どもを産むという選択をして、産むまでの過程では、彼女の選択がどうであれ、限られた中で命をまっとうしている彼女の姿に強い生命力を感じました。それに、まっとうに生きたことで彼女の魂は充実して肉体を離れたと感じられるラストだと思うんです。監督は「この映画は命のロードムービーだ」とおっしゃっていますが、滴という女性に起こる出来事を通して、彼女が生を終えていくまでの短い時間を通して、家族や命や愛などを感じ取ってほしいということが監督の意図だったと思います。

■作品を通して知った人生に大切なこと

Q:海辺で、夫婦が寄り添う姿がありました。とてもいいシーンだと思いましたが、松雪さんはどんな思いで演じられていたのでしょうか?

映画の中で、すごく重要なシーンでしたし、どういった時間軸を過ごして、二人でそこに座っているのか、椎名さんもわたしもすごくイメージをたくさん持っていました。あのシーンから感じ取っていただける静かな、満たされた美しい空気というのは、今まで現場で感じたことがないようなエネルギーがそこで生まれていて、とてもいいお芝居のコラボレーションができたと思います。

Q:夫がいて、自分が妻で、どちらかが病に倒れたとき、どうありたいと思われますか?

わたし自身は、やはり家族という存在は苦しいときこそ助け合い、一緒に乗り越えていきたいと思っています。

Q:松雪さんは多くの女性のあこがれですが、女性として今一番興味を持っていることは、何でしょうか?

この映画に出演して、とても単純なことなんですけれども日々をどう生きるかということがどんなに大事なのかということ、いろんな人生があるってことも当たり前で、いかに困難に向かって生きていけるかってことの大切さを感じました。なので、楽しんで人生を追求していきたいと思っています(笑)。

Q:これから結婚する人、母になる人など、多くの方に観てほしい作品ですが、観客にはこの映画をどのように観てほしいですか?

観てくださる方のライフスタイルによって、感じるポイントはさまざまだと思うんです。でも普遍的なテーマですし、人間の命の営み、そしてここに存在している意味、そして健康でいることなど、普通に日常を送ることがどんなに素晴らしいことなのか、改めて考えてみるきっかけになる作品だと思います。あと、乳がんもテーマとして扱っていますので、多くの女性がこの映画を観て、乳がんへの意識が変わってもらえるとうれしいと思います。

言葉を大切にかみしめながら語る松雪の、その美しいたたずまいはまさに女性のあこがれといえる。本作で初共演を果たした椎名とは夫婦役だが、妻に甘える夫を温かく受け止めるタイプの妻を自然体で演じた。映画『余命』はタイトルどおり、乳がんにかかったヒロインが自らの死を覚悟しながらも子どもを産むという重いテーマだが、松雪の好演で、夫婦愛、親子愛、友愛などの愛にあふれた作品となっている。どんな役も内に取り入れ、消化し、繊細(せんさい)に演じる松雪は、今後の日本映画を担う女優の一人だ。

メイク:胡桃澤和久(Three Peace)
スタイリスト:Die-co★
衣裳クレジットVIVIAN TAM(SANEI・INTERNATIONAL)、サテリット(エクセル)

映画『余命』は新宿バルト9ほかにて全国公開中

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