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今週のクローズアップ 映画と宗教の関係を考える

 不謹慎かもしれないが、宗教は映画のテーマとして実に魅力的だ。宗教によって救われる者、破滅する者と切り口はさまざまだが、「信仰」という白黒では判断できないデリケートな問題をはらんでいるからこそ、深遠なドラマが生まれてくる。今回は、聖職者のアイデンティティーの葛藤を描いた『ローマ法王の休日』の公開を機に、映画と宗教の関係について考えてみたい。
「神の御業」が描かれるキリスト教礼賛映画

 映画で描かれる宗教の中で最も多いのがキリスト教。とりわけ、アカデミー賞11部門での受賞に輝いた歴史スペクタクル『ベン・ハー』(1959)に描かれるイエス・キリストは、映し出されるのが後ろ姿のみであることからも、何ものにも代え難い、神秘的かつ崇高な存在であることを強調しているのがわかる。物語の軸となるのは、母と妹から引き離されローマ軍船の奴隷となった剣闘士ベン・ハーの復讐(ふくしゅう)劇。いつ命を落としてもおかしくない、過酷な状況に置かれた彼の唯一の救いとなったのがイエス・キリストで、真の主役はキリストと言っても過言ではない。そして、豪雨の中で訪れる奇跡のラスト。解釈は賛否両論あれど、ここでは「神の御業」をダイレクトに描いている。これは、スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンによる『処女の泉』(1960)や、デンマークの鬼才ラース・フォン・トリアー監督のラブストーリー『奇跡の海』(1996)、メル・ギブソン監督作『パッション』(2004)でも観られる。

 

名優チャールトン・ヘストン演じる剣闘士の受難を、イエス・キリストのエピソードを交えて描いた名作『ベン・ハー』
(C)Metro-Goldwyn-Mayer Photographer: Eric Carpenter/ゲッティイメージズ

自らを犠牲にすることで夫の命を救おうとしたピュアなヒロインに向けられた天からのメッセージが論議を呼んだ『奇跡の海』
October Films/Photofest/ゲッティイメージズ

映画を撮るのも命懸け! 宗教がもたらす悲劇

 宗教と政治が密接に結びついているイランを舞台にした『ペルシャ猫を誰も知らない』は、音楽に情熱を燃やす若者たちの日常を描いた青春映画。西洋文化の規制が厳しいイランでは、CDを制作したりコンサートを開催するにも政府の検閲が必要となる。自由を求めてロンドンに渡るため、パスポートの入手に奔走する若者たちがたどり着くのは、あまりにも残酷な結末。思想、表現を規制されることのない日本人にとっては信じ難い事実だが、本作を無許可でゲリラ撮影したバフマン・ゴバディ監督の覚悟から、痛切な叫びが伝わってくる。「映画を観たからといって何もできないかもしれないが、事実を知ることから始まる」とでも言っているかのように。一方、戯曲を映画化した『灼熱の魂』は、作り手が国を特定していないものの、宗教間の紛争に巻き込まれ、アイデンティティーが崩壊していく女性の壮絶な人生をつづった一大叙事詩。報復の連鎖を断ち切ろうとするヒロインの祈りが込められた戦慄(せんりつ)のラストに、言葉にならない衝撃を覚えるだろう。

 

「ペルシャ猫を誰も知らない」価格:5,040円(税込み)
発売元:シネマクガフィン 販売元:紀伊國屋書店

「灼熱の魂」価格:3,990円(税込み)
発売・販売元:アルバトロス

救われる、救われないは本人次第!? 宗教の意義を問う問題作

 韓国映画『シークレット サンシャイン』では、幼い息子を殺されたシングルマザーが苦しみから逃れるため宗教に、息子を殺した犯人に「赦し」を与えるという救いを見いだす。しかし、ヒロインが刑務所に面会に行くと、犯人は安らかな顔で「自分も神への信仰に目覚め、すでに罪を赦された」と言い放ち、その日以来、彼女は神への冒涜(ぼうとく)行為を繰り返すようになる。ヒロインからしてみれば、犯人に赦しを与えるのは彼女だけの特権であるはずなのに、彼を赦し苦しみから解放してしまった神は裏切り者ということになる。救いが得られなければ信仰は成り立たないのか? 『ダウト ~あるカトリック学校で~』で、「正義」を貫くために、男子生徒との不適切な関係をうわさされる神父を追い詰めていくシスターしかり、人は時として神の存在を「利用」することがある。彼女たちを観ていると、信仰とエゴの境界は限りなくあやふやなものだという気がしてくる。

「シークレット・サンシャイン 特別版」価格:5,040円(税込み)
発売・販売元:エスピーオー
(C)2007 CINEMA SERVICE CO.,LTD. ALL RIGHTS RESERVED

メリル・ストリープ演じる、ある疑惑にとらわれた厳格なシスターの心理を緊迫感たっぷりに描いた『ダウト ~あるカトリック学校で~』
Miramax Films/Photofest/ゲッティイメージズ

聖職者を個人として描いた意欲作『ローマ法王の休日』がいよいよ解禁

 プレッシャーに耐えかねた新・ローマ法王が逃亡! イタリアの名匠ナンニ・モレッティの監督最新作『ローマ法王の休日』は、カトリック教徒の最高指導者であるローマ法王を、われわれと同じく不安や葛藤でいっぱいの「個人」として描いた意欲作だ。ローマの街でつかの間の休息をとる中で、さまざまな人々に刺激を受け、かつての夢を思い出す新・ローマ法王。一方、ヴァチカンで法王の帰りを待つ枢機卿たちも、風変わりな精神科医の勧めによりバレーボール大会を開催。そんなコミカルでほのぼのとした人間模様から一転、クライマックスで法王が下す決断は衝撃的だ。本国公開時、挑発的な題材ゆえに一部のカトリック信者より批判の声が上がったともいわれているが、聖職者として、一人の人間として、悩みに悩んだ法王の終着点から、その意味を探ってほしい。

 

7月21日公開の『ローマ法王の休日』
(C) Sacher Film . Fandango . Le Pacte . France 3 Cinema 2011
文・構成:シネマトゥデイ編集部 石井百合子

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