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作品評:『ルーム』

ルーム
作品賞、監督賞など4部門にノミネートされた『ルーム』(C) ElementPictures / RoomProductionsInc / ChannelFourTelevisionCorporation2015

 第88回アカデミー賞で作品賞のほか、監督賞、脚色賞、主演女優賞にノミネートされている『ルーム』。小さな天窓一つしかない狭い部屋に監禁された母と息子が過ごした日々、部屋からの脱出とその後を描く。(文・冨永由紀)

 部屋の中で生まれ、外界に触れずに5歳の誕生日を迎えたジャックは、母親以外の人間は時々物資を持って部屋を訪れる男しか知らない。母をいじめるその男が来るときは、母との約束でタンスの中に隠れて息を潜めている。部屋にテレビはあるが、画面に映るのは架空のもので、外の世界はないと母親から聞かされている。それでも母親は、自分以外に接する相手のいない息子に挨拶することを教え、ジャックは朝起きると椅子やテーブルに「おはよう」と声をかける。非常に印象に残るワンシーンだ。

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「7年間密室に監禁された揚げ句、犯人に強姦され息子を出産した女性」という衝撃的な設定が話題に (C) ElementPictures / RoomProductionsInc / ChannelFourTelevisionCorporation2015

 着古した部屋着姿でお菓子を作ったり、運動不足解消のエクササイズに励んではケラケラ笑う母子は楽しそうにすら見える。だが、母親から言葉や文字も教わり、知性が発達するにつれてジャックは自分を取り巻く環境に疑問を抱き始めていた。そんなある日、監禁生活の変化の兆しを悟った母親はついに脱出を決断する。

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カナダ出身の9歳の子役ジェイコブ・トレンブレイくんの驚くべき名演に泣かされる (C) ElementPictures / RoomProductionsInc / ChannelFourTelevisionCorporation2015

 固唾をのむ脱出劇の後、新たな章が始まる。ジャックは存在しないはずの社会に放り込まれて不安でいっぱいだ。7年ぶりに解放された母親は、彼女の両親にとっての愛娘ジョイというアイデンティティーを取り戻すが、不在の間に変わってしまった家族、失われたものの大きさに深く傷つく。自由を取り戻したことでより苦しむ母を目の当たりにし、世界の広さに戸惑うジャックは四方を壁に囲まれたあの部屋に戻りたいとさえ思う。彼にとってはあの部屋(ルーム)こそが懐かしい場所(ホーム)なのだ。5年間すべてを共有してきた母と息子だが、それぞれの感じるものは部屋を出た瞬間から大きく違ってくる。

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主演女優賞の最有力候補として注目を浴びる26歳のシンデレラガール、ブリー・ラーソン (C) ElementPictures / RoomProductionsInc / ChannelFourTelevisionCorporation2015

 救いは、柔らかな心で新しい世界に適応していくジャックの逞しさだ。健やかに成長し続ける彼は、壊れそうになった母親にあるひと言を発する。年端もいかない少年にとっては当たり前なその言葉がまた一つ道を切り開くのだ。

 原作小説「部屋」の著者であるエマ・ドナヒューが自ら脚色を手掛け、『FRANK -フランク-』レニー・アブラハムソンがメガホンを取った本作は5歳の視点で語られる。ジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイの名演が印象的だが、過酷な体験から脱出後も苦しみ続けるヒロインを過剰な表現に走らず演じたブリー・ラーソンが素晴らしい。各映画賞を軒並みさらったラーソンは1月30日(現地時間)発表の映画俳優組合(SAG)賞主演女優賞も受賞。アカデミー賞で投票権を持つ会員の大半が所属するSAGが選ぶ賞を制覇したことからも、彼女のオスカー獲得はほぼ確定したと言っていいだろう。

映画『ルーム』は4月8日公開

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