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作品評:『ブルックリン』

ブルックリン
作品賞、主演女優賞、脚色賞にノミネートされた『ブルックリン』(C) 2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 アカデミー賞にノミネートされる作品に、どんなイメージを持っているだろう? 現代に通じる歴史&伝記ものは強い。他に逆境をはねのける者を描いた感動作、重厚なスペクタクルが受賞しやすい傾向にあるのはご存じの通り。ところが、コルム・トビーンの小説を映画化した『ブルックリン』は、そのいずれにも当てはまらない。1952年、故国アイルランドを離れ、たった一人で米ニューヨークに移住した少女がホームシックを克服して居場所を見つけるまでの物語。ざっくり言えば、地味な青春ドラマだ。しかし、この“地味”は“滋味”でもある。(文・相馬学)

ブルックリン
高級デパートの店員として働き始めるエイリシュだが、セールストークもぎこちなく苦戦し……(C) 2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 最愛の母や姉を残して故郷を離れる寂しさ、移民審査を受ける際の緊張、派手な化粧とファッションをまとった都会の女性たちに囲まれる緊張、そしてロマンスのときめき。カメラはヒロインの、そんな心の機微を逃すまいと、彼女の表情をじっと見つめる。セリフを最小限にとどめ、映像から気持ちをあぶり出すことに徹した演出の節度。それは本作の最大の美点と言えるだろう。主演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナンの演技もこの演出に応える。アップの場面での表情の演技は言葉を発する以上に多くを物語っており、彼女の感情に深いレベルで潜り込める、というワケだ。

ブルックリン
エイリシュは女子力の高い同郷の仲間たちなど、さまざまな女性からアドバイスを受け洗練されていく (C) 2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 同じくアカデミー賞の脚色賞の候補に挙がっている人気小説家ニック・ホーンビィによる脚本は、映画にユーモアを宿らせると同時にリアルな生活感を与えている。下宿先で同郷の仲間たちと食事を共にする場面での会話はユーモアたっぷりに、信心深く頑固なアイリッシュ気質を伝えてくれる。恋人となる配管工のイタリア系青年とのやりとりも同様で、彼の家族との食事の場面でも生き生きとした笑いが感じ取れるだろう。

ブルックリン
2人の男性との出会いを経て人生の決断を迫られるエイリシュの葛藤が共感を呼ぶ (C) 2015 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 こういう映画を観ていると、アメリカという国は移民によって形成されていることを改めて思い知らされる。そういう意味では、第75回アカデミー賞作品賞にノミネートされたマーティン・スコセッシ監督の『ギャング・オブ・ニューヨーク』のソフト・バージョンとも言えるだろう。今年の米大統領選では、移民を犯罪の温床として排斥しようとする候補者が支持を集めており論議を呼んでいるが、移民の大多数は犯罪者ではなく、この映画のヒロインのように地道に努力を重ねる人々だ。そんな人々に門戸を開いていることこそが、自由の国アメリカの美徳だった。本作がアカデミー会員の支持を受けたのは今まさに語るべき、そんなテーマが脈打っていたからではないだろうか。

映画『ブルックリン』は7月よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開

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