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改めて原子力発電とは何かを考える「35年目のチェルノブイリ」

映画で何ができるのか

チラシ
特集上映「35年前のチェルノブイリ」のチラシ。

 1986年4月26日に起こったチェルノブイリ原子力発電所事故から今年で35年。東京・ポレポレ東中野では4月17日~30日に、「35年目のチェルノブイリ」と題した特集上映が行われる。今年は福島第一原発事故から10年を迎え、さらに13日に政府が処理水を約2年後に海洋放出する方針を決定したことで、国内外で大きな議論を巻き起こしている。同館は「単純な賛否ではなく、改めて原子力発電とは何か? を考える機会になれば」とエネルギー問題と向き合い続けている。(取材・文:中山治美)

原発事故の恐怖はわたしたちの暮らしと隣り合わせにある

ストーカー
原発事故を予見した!? とも言われている、立入禁止区域“ゾーン”を舞台にしたアンドレイ・タルコフスキー監督のSF映画『ストーカー』(1979)。

 同館のチェルノブイリ特集は2008年にスタート。昨年は新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言を受けて休館したことから開催が見送られたが、今回で13回目。35年の節目となる今年は会期を2週間に拡大し、チェルノブイリでの事故を予見したと言われているアンドレイ・タルコフスキー監督『ストーカー』(1979)をはじめ10作品を。さらに期間中、チェルノブイリを追い続けている本橋成一監督の新作『人間の汚した土地だろう、どこへ行けというのか』を上映する。

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ナージャの村
汚染されたベラルーシ・ドゥヂチ村に残った家族をとらえた本橋成一監督『ナージャの村』(1997)。

 そもそもの企画の成り立ちは、同館の元オーナーである本橋監督の代表作で、チェルノブイリ原発事故で汚染された村に残った人たちの暮らしを見つめた『ナージャの村』(1997)と『アレクセイと泉』(2002)を毎年上映し続けること。そこには同じように原子力に頼って生活している日本人にチェルノブイリの事故の恐怖はわたしたちの暮らしと隣り合わせにあるということを考えてほしいという思いから、4.26を胸に刻むべくこの時期の上映を行っているという。

アレクセイと泉
原発事故で被災したベラルーシ・ブジシチェ村の「泉」をテーマにした本橋成一監督『アレクセイと泉』(2002)。音楽は坂本龍一。

 第1回はオールナイトイベントで、『アレクセイと泉』のほか、スクラップされた原発関連の新聞記事から政府の原子力発電計画に至る経緯や推移を浮かび上がらせる土本典昭監督『原発切抜帖』(1982)、さらにビキニ環礁の水爆実験で生まれた怪獣が主人公の本多猪四郎監督『ゴジラ』(1954)や、原発で働く原発ジプシーを登場させ日本の社会の闇の部分を描いた森崎東監督『生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言』(1985)も上映しており、実に幅広いラインナップだった。

原発切抜帖
スクラップした新聞記事で原子力発電計画の経緯と報道や世論の変化を浮かび上がらせる土本典昭監督『原発切抜帖』(1982)。森田実監督『原子力発電の夜明け』(1966)と二本立て上映。

 第1回から特集を企画している同館の石川翔平さんは「本橋監督の思いに賛同しての企画でしたが、いざ原子力をテーマに作品を集めてみると核の恐怖を描いた作品と同じくらいに、原子力の力から生まれた怪獣やロボットが活躍する作品や、核戦争の恐怖を描いた世紀末的な作品なども多く、映画のモチーフとして興味深い題材なのではないかと、どこか映画史やカルチャー的に深掘りしていった感覚があったかもしれません」と説明する。

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いま一度冷静になって原発について考えるきっかけに

石川翔平
「35年目のチェルノブイリ」を企画したポレポレ東中野の石川翔平さん。

 だが2011年に東日本大震災に伴う福島第一原発事故が発生し、チェルノブイリは遠い国の話ではなくなった。その年の特集上映は当初、チェルノブイリから25年の年に当たることから目黒区美術館の展覧会「原爆を視(み)る」と同時開催し、共同企画として原爆についての特集上映も設ける予定だった。しかし原発事故の不安や恐怖の最中に開催するのはふさわしくないのではないか? と不安視する声が上がり目黒区美術館の展覧会は中止に。原発に関する特集上映のみの開催となった。観客からどのように受け止められるかという不安をよそに、ポレポレ東中野の座席稼働率99.7%とほぼ満席が続いたという。

人間の汚した土地だろう、どこへ行けというのか
本橋成一監督の新作『人間の汚した土地だろう、どこへ行けというのか』(2019)は、2019年にベラルーシを再訪したドキュメンタリー。

 石川さんは「いま一度冷静になって原子力発電について考えましょうというスタンスで決行したのですが、ほぼ前回超満員となる大反響に。上映後のトークイベントでは客席から監督たちに『いま、わたしたちはどう過ごしたらいいのでしょうか?』と言った質問が相次ぎ、ある種の熱がありました」と当時を振り返る。

六ヶ所人間記
ドキュメンタリー監督の山邨伸貴と青森市出身の倉岡明子が核燃料施設立地予定地の青森・六ヶ所村をありのままに撮影した『六ヶ所人間記』(1985)。

 もっとも今回の新型コロナウイルスをめぐる問題を例にするまでもなく、われわれは熱しやすく冷めやすい傾向にあり、2011年当時のような関心の高さは徐々に薄れていったが、それでも恒例となったチェルノブイリ特集には安定した動員があるという。中には毎年4.26はここで『ナージャの村』と『アレクセイと泉』を鑑賞することを決めているという人もという。

福島映像祭
2013年にスタートした福島や3.11にまつわる映像を上映する福島映像祭(主催:認定NPO法人OurPlanet-TV)のチラシ。9月の開催に向けて作品募集中(6月11日締め切り)。

 石川さんの方も例年テーマを決めてプログラムを組んでおり、2013年の「27年目のチェルノブイリ」はテーマ「故郷」で同様に開発や災害などで故郷を離れなければならなくなった人たちに思いを馳せ、2017年の「33年目のチェルノブイリ」はテーマ「森とキノコ」で放射能が与える環境や食への影響を考えた。また同館では2013年から毎年9月に、多様な映像を通して原発事故以降の福島の「いま」を映し出す「福島映像祭」も開催している。

 石川さんは「それ以前の2007年にはダム、2008年には炭鉱をテーマにした特集を組んでおり、広くエネルギーとは? 資源を掘り出すということとはどういうことなのか?を考えてきました。原子力を含めて、わたしたちの生活に必要なエネルギーはどのように作られているのか? 考える場所を提供できればと思ってます」。

特集上映「35年目のチェルノブイリ」は4月17日~30日、東京・ポレポレ東中野で開催

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