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日活ロマンポルノの巨匠ガイラの遺伝子を受け継ぐこみずとうた、『朱花(はねづ)の月』主演俳優になるまで

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『朱花(はねづ)の月』主演こみずとうた
『朱花(はねづ)の月』主演こみずとうた

 第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に参加している河瀬直美監督『朱花(はねづ)の月』の主演俳優こみずとうたがこのほど、現地でインタビューに応じた。こみずの本業は映画の撮影現場で食事を提供するケイタリング会社「トウタリング」と、奈良のカレー店「とうたりんぐ」のシェフで今回は異例の主演抜てきだが、父親は“ガイラ“の愛称で知られる日活ロマンポルノなどを手がけた映画監督の小水一男。こみずの体の中には、確実に映画人の血が流れている。

映画『朱花(はねづ)の月』場面写真

 こみずは、幼少時代から小水監督を慕って家に集まって来た映画人に触れ、成人してからはその父が始めていたケイタリングの仕事を手伝っていた。そして、天海祐希主演『MISTY』で独り立ち。以来、伊藤英明主演『海猿 ウミザル 』シリーズ、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズなど、過酷な現場で働く映画人の胃袋を満たしてきた。

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 河瀬監督との出会いは、映画『火垂』の撮影を行った1999年にさかのぼる。まだ仕事が順調ではなかったこみずのもとに、同作品のラインプロデューサー石田基紀から「ドライバーをやってくれない?」と助っ人依頼が来た。その現場でこみずは、河瀬監督のこだわりの撮影に衝撃を受けることになる。

 「四季に合わせて2週間ずつ4回に分けて撮影を行っていて、それだけでもスゴイのに、主人公が陶芸家ということで陶芸窯を一から作り、それありきで撮影していた。『(良い意味で)河瀬組ってバカだわ。すげぇ~なこの人たち』って胸を打たれましてね。次の冬編の撮影の時には、必ず本業のケイタリングで呼んで! と志願しました。結局、本業で関わったのはその一作だけだったんですけど、以来河瀬監督とは飲み友達になりました」

 それが2009年に突然、河瀬監督から電話があった。「3月に新作撮るからスケジュールを空けといて」。てっきりケイタリングの話かと快諾したら、電話を切り際に「出演やで」と。それが、こみずの役者デビューとなる短編映画『つながりゆくもの』だった。

「ずっと現場を見てきたから役者の仕事は大変だし、やってみたいとも思ってなかった。でも『行く』と言ってしまった以上、ゴネたところで河瀬監督の場合、覆らないだろうと(苦笑)」

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 同作品はカメラマン志望の息子が、父親と将来のことで口喧嘩をする5分の物語。そこでこみずは父親役の百々俊二と本気で感情をぶつけ合い、演技を超えた関係を育んですっかり役者に開眼してしまった。「つらかったけど、またやってみたい」。そんな欲求が生まれ始めた絶妙なタイミングに『朱花(はねづ)の月』の話があり、二つ返事で出演を決めたという。

 今度の役は、奈良・飛鳥地方で暮らす彫刻家・拓未役。河瀬監督らとロケハンなどを兼ねた合宿を1か月行い、撮影で使用することになった家にさらに1か月住んでからクランクインした。そして撮影に1か月。計3か月どっぷり作品の世界で生きた。PR編集者役の哲也(明川哲也)と染色家の佳夜子(大島葉子)を奪い合う設定ゆえ、実際に哲也に嫉妬することもあったという。

「演技って、別の人物の仮面をかぶる感じかと思っていたけど、骨組みを監督たちと作って、周りの血や肉はこみずとうたのまま。心情的には拓未だけど、声もしゃべり方も自分だし、これが演技なのかどうか自分でも分からなくてずっとモヤモヤした気持ちがあった」

 出演の経緯から撮影まで、河瀬監督の手の平でうまい具合に転がされてきた感じだが、その河瀬監督の魅力について「常に本気。やる! と決めたことは、絶対やるし、またそれができてしまう。そもそも『朱花(はねづ)の月』撮影中から、『カンヌに行くで』と言っていましたから(笑)」

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 すっかり河瀬監督と奈良の魅力に取り憑(つ)かれたこみずは昨年から拠点を奈良に移し、カレー店をオープン。同時に、俳優業も続けていくべく事務所にも所属した。

 ちなみに、『朱花(はねづ)の月』では祖父役で弟の小水たいがが出演しており、カンヌでは兄弟そろって赤じゅうたんを歩いた。

 「めちゃくちゃ緊張しましたけど、最高ですね、あの空気は。ケイタリングの仕事はクランクアップまでですが、完成した作品の仕上げまでかかわれたのは初めて。しかも、本来の僕の人生では体験しなかったであろう瞬間でしたから」

 残念ながら賞は逃した。しかし、さぞかし小水監督も息子たちの晴れ姿に目を細めているに違いない。(取材・文:中山治美)

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