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東日本大震災を経験した子どもたちの現状と心のケアを語り合うシンポジウムが開催

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庄内映画村で映画製作ワークショップを行い、その後、上映のために映画祭にやってきた南三陸・伊里前小の子供たち(写真右端は今回、指導にあたった冨樫森監督)
庄内映画村で映画製作ワークショップを行い、その後、上映のために映画祭にやってきた南三陸・伊里前小の子供たち(写真右端は今回、指導にあたった冨樫森監督) - Photo:Harumi Nakayama

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2011でこのほど、東日本大震災を経験した子どもたちの現状と心のケアについて語り合うシンポジウム「ミライノカタチ」が行われた。

 パネリストは、宮城県仙台市で創作活動で子供たちの情操教育を育む私塾「アトリエ自遊楽校」主宰の新田新一郎、山形出身の立体イラストレーション作家で震災後は同石巻市立渡波小学校で子供たちと一緒にガレキによる立体オブジェ作り「ワタノハスマイル」を行なっている犬飼とも、同・気仙沼赤岩児童館館長の金田みや子、金沢でこども映画教室を運営し、映画祭期間中には南三陸町立伊里前小学校6年生と一緒に庄内映画村で映画製作のワークショップを行った土肥悦子の4人。いずれも震災後、東北の子供たちの笑顔と元気を取り戻すべく活動を行なっている面々だ。

 私塾のほか“子どもの笑顔元気プロジェクト“と題して被災地の幼稚園や保育園でコンサートを開いている三浦は、9月には宮城県名取市で子供たちと一緒に3日間のミュージカルのワークショップを行ったという。その際、避難所暮らしでじんましんが出るようになった子供がミュージカル制作に没頭する中で、治った例があったという。三浦は「震災から3週間ぐらいは、世間に流れていた自粛ムード同様、子どもたちの中でも何となく「楽しい事をやっちゃダメ」という空気が流れていた。変わってきたのは4月に入ってから。子どもたちは表現することも、見ることも飢えていたようで、いろんな所へ巡回に行くと飛びつくようにやって来る。映画や音楽は、日常から非日常へ1~2時間行ってみて、また頑張れるという効用があるんじゃないか。子どもたちの体は元気かもしれないけど、心はとても傷ついている」と報告した。

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 4月上旬から渡波小に入った犬飼も「最初は遊ぶスペースも、遊ぶモノもなかったので、子どもたちはガレキの中からおもちゃを探して遊んでいました。その後、大量に救援物資のおもちゃが届いて子どもたちのテンションが一気に上がったけれど、今は落ち着いています。現在、子どもたちが作ったオブジェの展覧会を全国で巡回しているのですが、何より子供たちが喜んでいます。今まで支援を受けるばかりで、自分たちで何か出来ることが嬉しいようです」と子供たちの声を代弁した。

 また津波で甚大な被害を受けた伊里前小学校の生徒23人と2泊3日、寝食を共にした土肥は「23人のうちの4~5割は津波で家を流されたために現在、仮設住宅などで暮らしています。授業終了後は全員で同じバスに乗り、町内を巡回しながら下校しているそうで、放課後に皆で遊ぶ時間がないそうです。その影響か、ワークショップ中、皆がくっついて行動しては、じゃれ合っている感じだった。また同行していた保護者が『久々に子供たちの笑顔を見ました』と語っていたのが印象的でした」と感慨深げに語った。

 そんな中でクローズアップされたのが、見落とされがちな母親の心のケアだ。東北に映画を届けるプロジェクトを行なっている「シネマエール東北」の協力を得て、児童館で6月に米映画『レミーのおいしいレストラン』を無料上映した金田は「被災前から気仙沼には映画館が一館もなく、石巻か陸前高田まで足を伸ばさなければならないのですが、仮設住宅暮らしでイライラ発散のためにも映画を観に行く人がいると聞いて上映を行いました。映画を上映することで、こんなに喜んでいただけるとは思わなかった。でも子どもたちは、空元気なんです。夜中に急に泣き出す子もいるんですね。それはお母さんの不安が子どもに伝染しているからなんだと思います」と分析した。

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 三浦も「4月に陸前高田で親子コンサートを開いた時、子供たちが歌う顔を見てお母さんたちが皆、泣いているんです。子どものパワーってスゴイと思ったと同時に、お母さんたちも相当ストレスが溜まっているんだなと感じましたね。特に幼子を抱えたお母さんは、赤ちゃんが泣くと避難所で怒鳴られたりする。皆、ギリギリの生活をしているんです。今、被災地ではいろんな手助けが入っているが、子供を支える母親たちの介助も必要なんじゃないか」とNPOや公的支援の方向性を含めて訴えた。

 シンポジウムでは主に、娯楽を観賞したり創造することの効用について話し合われる予定だったが、司会進行の映画評論家・村山匡一郎から、今回は多くの取材陣が被災地に入ったことから「カメラに撮られること」の影響についての議論が投げかけられた。すると土肥が、映画ワークショップ中の興味深い出来事を語った。「今回、TV局が密着取材で同行していて、小型カメラにはさほど反応はしないが、大きなカメラを向けられると嫌がって、ダッシュして逃げる子もいました。なので2日目からは、少し離れた場所から取材してくれるように要請しました」。犬飼も「避難所にはいろんな団体から物資が届けられるのですが、ブログ用に物資を前にした子供たちの笑顔を撮りたいとおっしゃる方が多いんです。無理に笑わされることもあって、それを子供たちが嫌がってましたね」と震災だけでなく、“大人の都合“が子供たちの心に暗い影を落としている現実があることも指摘された。

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 シンポジウムは90分に渡って熱い議論が交わされたが、三浦は最後に「被災地だけでなく日本中の子どもたちが津波に襲われたと思う」と繰り返し流された津波のニュース映像などが子どもたちに与えた心的ストレスを懸念するなど、まだまだ話し足りない様子だった。今後、被災地の状況も刻々と変化していくためパネリストたちも子供たちと寄り添いながら慎重に活動をしているようだが、アートセラピーのようなものは、続けていくことで効果が現れると思う」(土肥)と長期的な取り組みの必要性を強調していた。
 
 なお犬飼が行なっている「ワタノハスマイル」のオブジェ展が10月21日まで東京・西麻布のギャラリー ル・ベインで開催。11月10日~12月26には東京・池袋の東武百貨店でも行われる。(取材・文:中山治美)

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