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<作品批評>『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』【第87回アカデミー賞】(1/2)

<作品批評>『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』 - (C) 2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

 パンツ一丁であぐらをかいてホバリングしている後ろ姿の男。のっけから、なんだこれは、超常現象なのか? と度肝を抜かれる。(文・今祥枝)

 続けてカメラは長回してでリハーサルのために舞台へと向かう男の姿を追っていく。ここはブロードウェイのシアター街のど真ん中に陣取るセント・ジェームズ劇場だ。その男、リーガンは、かつてブロックバスター映画『バードマン』シリーズでヒーローを演じて大ヒットを飛ばした、今は落ち目のハリウッドスター。しかも、演目はリーガンの年代にとっては、とりわけ英雄的なレイモンド・カーヴァーの傑作短編「愛について語るときに我々の語ること」なのだから、まさに“無知がもたらす無謀な試み”に苦笑い。案の定、代役でやってきた天才肌の舞台俳優マイクがリハーサルを引っ掻き回し、暗雲が立ち込める。結婚生活は失敗し、思春期の娘は手に負えず、キャリアは風前の灯火。人生も晩年に差し掛かって俳優としてのアイデンティティを模索する姿は、悲愴感が漂うも滑稽だ。そう、これはバックステージ・コメディなのだ。

アレハンドロ・G・イニャリトゥ
アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督-Danny Martindale / FilmMagic /Gettyimages

 これまでに人間をじっくりと見つめて重厚なタッチで描いてきたアレハンドロ・G・イニャリトゥにとっては、大いなるチャレンジである。技術的なことでいえば、リアルとフィクションがシンクロする物語を、マジックリアリズムで観客を煙に巻くストーリーテリングは見事だ。『バットマン』シリーズでアメコミのダークヒーローを演じて名を馳せたマイケル・キートンは演じるリーガンと重なるし、キャストの多くのリアルが明らかに演じる役に投影されている。全編流れるようなワンカットで追うエマニュエル・ルベツキ(『ゼロ・グラビティ』)のカメラワークに、ドラムを基調としたBGMは、まさに劇場でオーケストラボックスの演奏を聴くかのようで演劇的な臨場感をもたらす。もちろん、実際にはワンカットに見えるように極端な長回しと編集で工夫がなされているのだが、一方でこのトリックは、リアリズムと同時に魔術的な効果を最大限に引き出すというパラドックス。演出、撮影、編集、俳優の演技、すべてが申し分ない。だが、筆者が真に驚嘆するのは、現代アメリカのエンタテインメント業界が抱えるジレンマを、実に独創的かつ予測不能な形で描ききっている脚本だ。

 ハリウッドとブロードウェイの関係は密接でありながら、そこには歴然とした区別(ヒエラルキーまたは愛憎)がある。ハリウッドでは、とりわけ近年はブロードウェイを目指す俳優が多い。筆者がブロードウェイに定期的に通うようになったのは2000年以降だが、正直いかがなものかと首をひねらざるを得ないことも少なくない。「映画スターにしては頑張っている」といったレベルのビッグネームの大舞台、あるいはミュージカル版「スパイダーマン」に代表される大ヒット映画の知名度に依存した舞台化作品をみるにつけ、苦々しい思いを抱く演劇人は多いことだろう。一方で、一見様の観光客を呼び込み、高額のチケットを何ヶ月にもわたってさばけるほどのネームバリューがある真性舞台人は残念ながら多くはない。よって、ハリウッドのスターを呼び込むパンダ興行が加速するという苦しい台所事情は想像に難くない。


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