『スター・ウォーズ』姿を消した天才子役はいま…謎に包まれた現在と真実
5月4日の「スター・ウォーズの日」に合わせ、今年25周年を迎える『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』が劇場で再上映されている。ジェダイを目指していた青年がダークサイドに傾いていく過程を描くプリクエル三部作の第1章で、子供時代のアナキン・スカイウォーカーを演じたのは、公開当時10歳だったジェイク・ロイド。この有名子役は、その後どうなったのか?(文/猿渡由紀)
アナキンは、砂漠の惑星タトゥイーンのジャンク・パーツ屋で働く奴隷の少年。彼の中にある特別な資質を見抜いたジェダイ・マスターのクワイ=ガン・ジン(リーアム・ニーソン)は、この子を自分の弟子にすると決める。アナキンにとってもそれは望むところだったが、唯一心残りなのは、奴隷の身分のままである母を置いていくことだった。
3,000人以上の応募者の中から大抜擢されたジェイクは、コロラド州フォートコリンズ生まれ。『ファントム・メナス』の前には、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ジングル・オール・ザ・ウェイ』、ニック・カサヴェテスの長編監督デビュー作『ミルドレッド』などの映画に出たほか、人気のテレビドラマ「ER緊急治療室」にゲスト出演をしていた。とはいえ、全世界の『スター・ウォーズ』ファンが待ち焦がれる最新映画でダース・ベイダーの子供時代を演じるというのは、これまでにない大仕事だ。出演シーンも、セリフも多く、感情的なシーンもある。
労働法で子供を働かせる時間は限られているため、製作陣にとってもなかなか大変だったはずだが、ジェイクは見事にこの大役をこなし、ヤング・アーティスト・アワードの助演男優賞を受賞した。その一方、大きな期待を寄せられた作品だっただけに、満足しなかった人も少なくなかったようで、米大手映画批評サイト「Rotten Tomatoes」における批評家の評価は52%、観客の評価も59%と低迷。最悪の映画に送られるラジー賞にも、作品、監督、脚本、助演男優、助演女優、スクリーンカップル部門でノミネートされてしまった。助演男優はジェイク、助演女優はカメオ出演するソフィア・コッポラ、スクリーンカップルはジェイクとナタリー・ポートマンだ。
昨年、『炎の少女チャーリー』に主演した当時12歳のライアン・キーラ・アームストロングを候補入りさせて非難を浴びて以来、ラジーは、18歳未満の俳優を対象にしないと決めている。しかし、四半世紀前、そんな配慮はなかった。そのせいでジェイクは学校で冷やかされ、『スター・ウォーズ』を嫌いになり、演技をやめてしまったと言われている(この後に公開された『プライド・オブ・マディソン/栄光への挑戦』は、『ファントム・メナス』の翌年である2000年に撮影されたもの)。以降は、イベントに出席することはあっても、スクリーンに登場することはないまま。精神面でトラブルを抱えており、警察沙汰になったというニュースが報道されたことはあったが、彼の現在は謎に包まれていた。
だが、つい最近、ジェイクの母リサ・ロイドが「Scripps News」に対して真実を語り、いくつかの誤解をただしている。
リサによると『ファントム・メナス』の公開時には、息子が悪い評判を耳にすることがないよう母としてしっかり守ったし、ジェイクも子供なので気にしなかったとのこと。また、ジェイクは今も『スター・ウォーズ』が大好きで、最近もDisney+のドラマシリーズ「スター・ウォーズ:アソーカ」を気に入っており、彼の誕生日には、アソーカのアクションフィギュアをプレゼントしてあげたそうだ。
ジェイクが演技をやめたのは『ファントム・メナス』のせいではなく、父の家系から引き継いだと思われる精神の病のせい。早かれ遅かれその時は来ただろうと、リサはいう。
「現実」が複数あるとジェイクが言うようになったのは、高校生の頃。宿題をしない理由として「やる必要があるのかどうかわからない。今、どっちの現実にいるのかわからないし」という息子を、「今日、あなたは私の現実にいるの。だから宿題はしないといけない」とリサはたしなめた。高校卒業後はシカゴのコロンビア・カレッジに進学するも、幻覚を見るようになり、欠席が続いて中退。実家に戻ったジェイクは精神科医と心理カウンセラーに通い、妄想型統合失調症と診断された。
さらにジェイクは病態失認という神経性の問題も抱えており、自分で勝手に「不要」と判断して処方された薬を飲まなかったことも、事態を悪化させた。2015年には、フロリダからカナダに向けて運転中、赤信号を突っ切って警察とカーチェイスになり、逮捕されてしまった。リサは息子を刑務所から精神病棟に移してほしいと懇願するも、「ベッドが空いていない」と言われ、かなわず。10か月後にようやく彼女の願いは聞き入れられたが、刑務所にいる間、ジェイクは必要とされる処方薬を与えられなかった。
そして2018年、『ファントム・メナス』にエキストラとしても出演した2歳下の妹マディソンが、26歳の若さで寝ている間に自然死するという悲劇が起きる。いつも自分を気にかけてくれた最愛の妹を失ったことは、ジェイクを悲しみの淵に陥れた。2023年3月には、リサがフリーウェイを運転している時に、同乗していたジェイクが突然車のエンジンを止めるという危険な行動に出る。周囲のドライバーの通報を受けてやってきた警察の質問に対し、ジェイクは意味をなさないことを言い続けるだけだった。
だが、今回は刑務所でなく精神のリハビリ施設に入れてもらうことができ、以後、ジェイクはそこで暮らしてきている。しかも、幸いなことに、ジェイクには目に見える変化が起きているらしい。「思っていたよりもずっと良い状態になっている。社交的になって、昔のジェイクが少し戻ってきたみたい。病気の症状が出始めるまで、彼はとても社交的な子だったので」とリサは喜びを語っている。
この施設でジェイクが受けているのは、18か月のプログラムとのこと。残りの数か月も彼にとって意義のある日々になることを願いつつ、この「スター・ウォーズの日」、ジェイクのシリーズへの貢献に改めて感謝を送りたい。