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オリヴァー・ストーン監督VS.アメリカ

 アメリカに盾突く男、オリヴァー・ストーン監督が久々に放つ新作は、ジョージ・W・ブッシュ大統領の驚きの半生と、無能さを徹底的に描いた映画『ブッシュ』だ。これまでにアメリカ大統領に関する作品をいくつも手掛けているオリヴァー監督。そんな彼の『ブッシュ』までの道のりを追ってみよう!
オリヴァー・ストーン監督

 世間一般から社会派監督として名前を知られるも、ドラッグにおぼれ、ジャンキー状態で映画『スカーフェイス』のシナリオを執筆したり、薬物所持で逮捕されるなどアウトローな一面を持っていることでも有名なオリヴァー監督。デビュー当時は、脚本を書く傍ら、映画『邪悪の女王』『キラーハンド』などB級ホラーを監督していた売れない時代もあった。

 しかしその評価は、映画『プラトーン』で一変する。自らのベトナム従軍経験を基にアメリカ軍による民間人虐殺や、軍内部の腐敗と戦争の愚かさを痛烈な批判を込めて描いたこの作品は、アカデミー賞作品賞をはじめ4部門を受賞。ホラー映画監督としては芽が出なかったオリヴァー監督は、本作でやっと名声を得たのだ。

 その後は次々と男くさい社会派映画を世に送り出した。戦地で半身不随になってしまったベトナム帰還兵ロン・コヴィックによる自伝小説の映画化作品『7月4日に生まれて』では、過酷な現実を突きつけられたベトナム帰還兵たちの姿を描き、アカデミー賞監督賞を受賞。しかし次に監督した映画『ドアーズ』で、伝説的ロックバンド、ドアーズのボーカルであるジム・モリソンの半生を描くも、バンドファンやメンバーからもブーイングをくらってしまう。だがオリヴァー監督は、そんなブーイングも生易しいと思われる大騒動を巻き起こす作品を世に送り出すことになる。

わたしがオリヴァー・ストーン監督です。
Francois Durand / Getty Images

『JFK』

 ジム・モリソンの次にオリヴァー監督が挑んだのは、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件だ。豪華なスタッフ・キャストを起用し、超一級の娯楽大作として組み立てた本作の時間は何と188分。さらにディレクターズカット版は206分もあり、オリヴァー監督の並々ならぬ気合を感じ取ることができる。

 ニューオーリンズの地方検事ジム・ギャリソン(ケヴィン・コスナー)は、ケネディ暗殺犯であるとされるリー・ハーヴィー・オズワルドの不可解な死に疑問を抱き、ケネディ暗殺事件の秘密調査を始める。目撃者や関係者の聞き込みを行う中で、ギャリソンはケネディ大統領の死は、政権交代を狙った国の陰謀組織によるクーデターだったのではないかと疑い始める。

 アメリカ政府の公式見解はオズワルドによる単独犯行説だが、いまだ謎多き事件。多くの人間が、この背景には大きな力がうごめいていたのではないかと疑いの目を向けているのも事実だ。しかし映画公開当時、ジェラルド・R・フォード元大統領やマスコミ、歴史家、そして実際に検死を行った人々は、一方的な仮説に基づいたフィクションに過ぎないと批判し、この一本の作品にアメリカ中が大騒ぎ。ついにはケネディ大統領暗殺事件を再検証する議論もされた。一方渦中のオリヴァー監督は、これらの批判に対して「これは映画だ!」との主張を貫き通したのであった。

 

代表作の一つとなりました。ケヴィン・コスナー
Brad Barket / Getty Images

『ニクソン』

 『JFK』で骨太な社会派を印象付けたオリヴァー監督が、満を持してターゲットに選んだのが、第37代アメリカ大統領リチャード・ニクソンだ。ニクソン大統領は、泥沼化したベトナム戦争の終結や中国との国交正常化など、それなりの政策を展開していたが、野党である民主党本部のあるウォーターゲート・ビルに盗聴器を仕掛けたウォーターゲート事件の関与によって、その悪名を世界史にとどろかすことになってしまった。

 ウォーターゲート事件をベースに、ニクソン大統領の生い立ちや、政治家としての半生を描く本作。被害妄想に陥ったり、妻との不和に苦悩したり、絶大な人気を誇ったケネディ大統領と自分を比べて落ち込む神経質な小男ニクソン大統領を表現したのは、映画『羊たちの沈黙』のレクター博士こと、アンソニー・ホプキンスだ。ちなみにポプキンスは、ニクソン大統領独特のカツゼツの悪そうな発音をマスターすることができず、かなり悩んだそうだ。

 映画冒頭には「フィクションである」との断りがあるものの、その憶測部分がすごい。ケネディ大統領暗殺の真犯人はニクソン大統領ではないかなど、結構言いたい放題な感じで、ニクソン大統領の遺族側からは「事実を歪曲した憶測だらけの映画!」と批判されてしまった。なお本作は『JFK』の188分を超える191分で、ディレクターズカット版は212分。当時の歴史を知らなければ楽しむことができないとの評価もあるが、アメリカンドリームから転げ落ちた男の悲劇として観ると、案外共感できたりする物語でもある。

かなり頑張りましたよ。アンソニー・ホプキンス
Jeff Vespa / WireImage / Getty Images

『ブッシュ』

 ブッシュ政権が嫌いで嫌いで仕方のなかったオリヴァー監督が、ついにジョージ・W・ブッシュ大統領をテーマに映画を撮った。ストーリーの語り方は『ニクソン』と同じ手法だが、本作には『ニクソン』にはなかったものがある。それは失笑だ。

 大方の予想を裏切り、本作にはブッシュへの痛烈な批判よりも、ブッシュとその政権、そして票を投じた者に対するオリヴァー監督のあきれ果てたまなざしがある。本作を『JFK』や『ニクソン』とはまったく違う側面を持つ作品と語るオリヴァー監督は、ブッシュ大統領を「笑えて、不器用で、マヌケで、奇妙な顔をしている」いまだかつてないアメリカ大統領と評している。

 本作で描かれるのは、大統領とは思えぬ器のブッシュ大統領の姿。何かするたびにお菓子を食べていたり、口に食べものが入ったまましゃべり続けたりする姿は行儀の悪い少年のようであり、後先考えずに作戦を実行する姿は“大統領ごっこ”をやっている風にしか見えない。ブッシュ大統領を取り巻く高官たちの描き方も徹底しており、ドナルド・ラムズフェルド国防長官は会議中にノートに落書し、コンドリーザ・ライス大統領補佐官は単なる電話係と、失笑を禁じえないキャラクター描写が至るところに散りばめられている。中にはイラクに大量破壊兵器がなかったと判明した瞬間の責任のなすり合いなど、笑うに笑えないシーンも……。

 ブッシュ大統領にふんしたのは、映画『ノーカントリー』で、闇の大金を手にしたことで冷血な殺人鬼に追われるベトナム帰還兵モスを演じた、ジョシュ・ブローリン。角度角度で似ている部分があり、時には本人かと錯覚してしまうようなシーンもある。 また、ブッシュ大統領を支えるディック・チェイニー副大統領を名優リチャード・ドレイファスがクリソツに熱演しているところにも注目したい。アメリカでは大統領選挙に沸いた2008年10月に公開され、話題となった本作。日本では16日より公開される。



映画『ブッシュ』より
(C) 2008 Prescott Productions, LLC All Rights Reserved

文・構成:シネマトゥデイ編集部

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