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Jホラーの巨匠に聞く、世界最恐の「日本の幽霊」Vol.1 黒沢清(1/2)

『回路』がハリウッドでリメイクされるなど、「本当に怖い幽霊」描写で世界を震撼させてきた黒沢清監督。TIFFの特別企画「日本のいちばん怖い夜~Jホラー降臨」で上映される出世作『CURE キュア』の誕生秘話から日本の幽霊が怖い映画ベスト3まで、恐怖の極意を語り尽くす!(構成:編集部 取材・文:イソガイマサト)

黒沢清
黒沢清監督

Q:「日本のいちばん怖い夜~Jホラー降臨」に『CURE キュア』(1997)が選出されて

黒沢清(以下、黒沢):『CURE』はサイコサスペンス、スリラーで、ホラーではないですし、Jホラーと言われる以前の映画なので、最初はやや意外な感じがしました。ただ、Jホラーに至る作品として、イレギュラーではあっても取り上げていただけることは大変光栄に思っています。振り返ってみればというか、結果的に、海外に初めて知られたのがこの『CURE』でしたし、これがあったから、今日でも海外で僕の作品を観てくれる方がいらっしゃると思うので、そういう意味ではとても記念すべき作品だと思います。

Q:作品の着想

『羊たちの沈黙』(1991)を観たのがきっかけですね。あっ、こんなのがあるんだと、その直後にひらめいたネタです。『羊たちの沈黙』の何が面白かったか? というと、投獄されているレクターが一番怖いというところでした。普通は犯人が捕まるまでがこの手の映画の山場のはずなのに、『羊たちの沈黙』ではレクターが冒頭でもう捕まっている。でも、そこからが怖いんですよね。それで、僕も犯人が捕まってからが怖いサイコスリラーを作りたいと思ったんです。

Q:“幽霊”より怖い“殺人伝道師”が誕生したきっかけ

“催眠暗示”は割とよくある手だと思います。先ほど申し上げたように、犯人を捕まえてからが怖い内容で、刑事が主人公ということから、取り調べ中の犯人の暗示に知らないうちにかかっていたら怖いよなと思ったんです。また、それとは別に、どんな殺人事件が起こると観客が驚くんだろう? どんな手口だと謎めいたものになるんだろう? ということを考えていたときに、犯人はすぐ捕まるけれど、同じ手口の殺人事件がまた起こったら面白いんじゃないか? というアイデアを思いついて。その設定だったら“催眠暗示”と結び付けられるねというところから話を組み立てていったんですけど、そこにふと明治時代に弾圧された新興宗教のエピソードを絡めようと思ったのが決定打でした。刑事ドラマを超えて、ホラー的なタッチになりましたからね。

CURE
『CURE キュア』より(C)KADOKAWA 1997

Q:『CURE』の最恐ポイント

これも『羊たちの沈黙』が大いに参考になったのですが、『CURE』ではいつ人が死んでもおかしくない、いつ殺人が起こってもおかしくないという状況を作り出そうとしたんです。具体的に言うと、何げない会話をしていた普通の人が次の瞬間、突然人を殺すという描写ですね。例えば、とても殺人が起こるとは思えない、何げないカットの中で、でんでんさん演じる警官が突然バン! と拳銃で人を撃ち殺すシーンです。そういうシーンはあまり多くないですが、あるカットが突然殺人カットに変わるので、何でもないカットにまでそのイヤな緊張感が持続する。つまり、観客にそれが怖いカットかどうかをわからせないのが肝なんです。『CURE』を撮って、それを実感しました。同じよう血まみれのカットや死体が出てくるカットは2つか3つぐらいしかありませんが、冒頭の方で1回やっているから、観客はまた血まみれのシーンが来るんじゃないの? と身構える。だから、「血まみれカットは早めに1回やっておけ!」っていうのが怖い映画を撮るときの鉄則だと思います。

Q:20世紀から21世紀にかけての恐怖描写の変化は?

恐怖描写は……幽霊はいつの時代でも怖いですけど、幽霊の描写はさんざんやってしまったので、これは多分中田秀夫さんも悩んでいると思います。清水崇は「またやればいいじゃないですか?」と言ったりして、悩んでいないかもしれないですけど(笑)、さんざんやったので、さすがに新しい手を見つけるのは難しい気もしています。ただ、世間一般では表現も変わってきているのかな~という気もします。これは多分『呪怨』の影響でしょう。『リング』(1998)の貞子のような幽霊は古今東西いっぱいいて、顔がおぼろげで髪の毛が長い女性の幽霊は江戸時代の絵を見ても同じですよね。でも、白塗りの霊は『呪怨』(1999)の登場で一気に増えたような気がします。しかも、趣味と実益を兼ねてYouTubeなどで流されている「絶対観てはいけない怖い映像」とか「閲覧注意! ついに映った幽霊」みたいなものをたまにチェックするわけですけど、ほとんどすべての作品において、幽霊の出方はいいんですよ。こんな状況で幽霊が突然出てきたら怖いだろうなというのは、皆さんよく考えていて、素晴らしい。合成技術も進んだので、実にいいところにうまいタイミングで、どうやって撮ったの? と思うほどのクオリティーに仕上がっているんですけど、ただ出てくる実体がどれも全然ダメなんです(笑)。そこは『呪怨』の悪い影響だと思いますね。白塗りが多いし、口を大きく開けている画は『リング』の影響もあるかもしれないけど、そんなのは普通出ないでしょうっていうものばかりで。どれもいい演出をしていて、凝っているのにその顔がヒドい! そこは僕らも同じで、出てくる実体にあまり新しいものはない。貞子や『呪怨』の白塗りの霊とほとんど変わらないんですよね。

Q:技術の進化による恐怖描写のメリットとデメリット

フィルムであれデジタルであれ、基本的には作り手のセンスが重要で、デジタルはセンスのいい人の発想を簡単に具現化できる強力な手段だと思っています。だから、アメリカで『ブレア・ウイッチ・プロジェクト』(1999)以降、量産されているPOV系のホラーの中にも、おそらくデシタル技術をうまく駆使して何げないところにいきなり恐ろしいものが現われる、あるいは恐ろしいことが起こるということを、かなりセンスよく高度なレベルでやっているものがありますよね。『リング』や『呪怨』を遥かに凌駕しているものが出てきたとは思いませんが、デジタルの登場でいろいろなことが試せるようになったのは確かです。

Q:『CURE』を初めて観る人へ

黒沢:若い人たちも見終わった後、いろいろと想像力を掻き立てられたら嬉しいですね。この裏に何があるんだろう? とか、この人たちはこれからどうなっていくんだろう? とか、それがうまく現実の世界=僕らが普通に生きている日常の方にじわじわと侵食していってくれたとしたら、作ったかいがあったというものです。

次ページは黒沢清が選ぶ日本の幽霊が怖い映画ベスト3

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