2020年 第33回東京国際映画祭「TOKYOプレミア2020」作品紹介

第33回東京国際映画祭

 10月31日から11月9日まで開催される第33回東京国際映画祭。コロナ禍の中で催すことで、例年の「コンペティション」「アジアの未来」「日本映画スプラッシュ」の3部門を1つの部門に統合し、「TOKYOプレミア2020」ということで32作品を選出した。また従来の「東京グランプリ」をはじめとした各賞はなく、代わりに「TOKYOプレミア2020」の全作品を対象に観客の投票による「観客賞」のみが設けられる。ここでは、「TOKYOプレミア2020」および「ワールド・フォーカス」部門の中より日本映画また日本で製作した作品について、プログラミングディレクター・矢田部吉彦氏が注目ポイントを解説します。(取材・文:岩永めぐみ)

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【TOKYOプレミア2020部門の日本映画・製作作品】

『アンダードッグ』

製作国:日本
監督:武正晴
キャスト:森山未來北村匠海勝地涼

【ストーリー】
かつてはチャンピオンの座に近づきながら、今は“かませ犬(=アンダードッグ)”としてリングに上がる末永晃(森山未來)。どん底に落ちた晃は、大物俳優を父にもつ売れない芸人ボクサーの宮木瞬(勝地涼)と暗い過去をもつ若き天才ボクサーの大村龍太(北村匠海)という二人の男に出会う。

【ここに注目】
負け犬たちの物語ではあるのですが、いずれもまだどこかで負け犬人生を受け入れたくないという抵抗の物語ですね。前編と後編では設定がガラッと変わり、違う物語を体験できるので、すごく豊かな276分(4.6時間)になると思います。武正晴監督や脚本の足立紳さんなど気心の知れたチームで撮られていて、武監督は『百円の恋』(2014)で培ったボクシング映画の撮り方を生かすことができたということで、今回はカメラの台数が増えて試合のシーンの迫力が増しています。森山未來さんは怪物ですね。今年のいろいろな映画賞では、俳優賞にノミネートされるんじゃないでしょうか。

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『カム・アンド・ゴー』

製作国:日本、マレーシア
監督:リム・カーワイ
キャスト:リー・カンション兎丸愛美千原せいじ

【ストーリー】
AV女優と身分を偽って接待に引っ張り出される韓国人女性、大きすぎる夢を追うネパール人の青年、帰国を許されないベトナム人の青年、沖縄県出身の映画監督。大阪でアジアのさまざまな国や街から来た人たちがあがいている。

【ここに注目】
マレーシア出身のリム・カーワイ監督が大阪で撮った群像劇です。リム・カーワイ監督は大阪に留学していたことがあり、第24回東京国際映画祭でも作品を上映したことがあります。本作は大阪という街にうごめくアジアの人たちの人間模様を同時進行で描いているのですが、外国人が日本という地で生きることのむずかしさをリム・カーワイ監督ほどリアルに描ける人はいないのではないでしょうか。それでいて日本の人々の暮らしもちゃんとみせています。リム・カーワイ監督は日本の永住権も持っていて、今回は2週間の隔離期間を計算に入れて、早めに日本に入って映画祭に臨みたいと言ってくれています。

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『ある職場』

ある職場
『ある職場』より - (C)2020 BIG RIVER FILMS, TIMEFLIES Inc.

製作国:日本
監督:舩橋淳
キャスト:平井早紀伊藤恵山中隆史

【ストーリー】
あるホテルチェーンの女性スタッフがセクハラを受け、スタッフの間に動揺が広がる。そんな折、ホテルの従業員たちで会社の保養施設に遊びにいくことになるが、旅先でハラスメントをめぐってさまざまな議論が交わされる。

【ここに注目】
舩橋淳監督の新作で、俳優の演技ワークショップから作られた作品です。現代の最も重要なトピックであるハラスメント、あるいは「#MeToo」を主題として取り上げています。社会問題に向き合う日本映画は必ずしも多くないので、見本になってほしい作品であるなと思います。それなのに説教じみたところはなく、リアルな人間ドラマとして観られるというのが特徴です。登場人物が腹の探り合いをしたり疑心暗鬼になったり、そういった会話劇としても優れている面がありますね。

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『君は永遠にそいつらより若い』

製作国:日本
監督:吉野竜平
キャスト:佐久間由衣奈緒小日向星一

【ストーリー】
22歳の大学生・ホリガイ(佐久間由衣)は身長170cmを超える処女。就職も決まり、手持ちぶさたな日々を送っていたある日、同じ大学のイノギ(奈緒)と知り合う。ホリガイとイノギが親しくなる一方、日常の裏に潜む「暴力」と「哀しみ」が現れ始める。

【ここに注目】
デビューの頃から日本映画スプラッシュ部門などで上映し、注目してきた吉野竜平監督ですが、着実にスケールアップしています。若者が自分の生き方を認識する自己確立の物語なのですが、社会派映画としての側面も強いですね。主演の佐久間由衣さんは、昨年『 どなたでもご覧になれます “隠れビッチ”やってました。』で新人賞にあたる東京ジェムストーン賞をお渡ししたのですが、今回ものびのびとした存在感が素晴らしいです。奈緒さんとのコンビの相性の良さも見ものです。芥川賞受賞作家、津村記久子さんが原作ですが、映画を観て、これはほんとにいいタイトルだと思いました。メッセージ性が強く、勇気を与えられる作品で、誰にでも勧めたいですね。

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『初仕事』

初仕事
『初仕事』より - (C)2020 水ポン

製作国:日本
監督:小山駿助
キャスト:澤田栄一、小山駿助、橋口勇輝

【ストーリー】
カメラマンの山下は師匠に代わって、わが子の遺体を撮影してほしいという安斎の元へ出向くが……。

【ここに注目】
新たな才能を発掘してみたい人や青田買いをしたい人におすすめのインディペンデント映画です。小山駿助監督はものすごく個性的な才能で、今後の予想はつきませんが、いま見ておくべき人だと思いますね。登場人物のカメラマンの助手の青年と撮影の依頼主のやり取りが独特。青年は悲しみに暮れる依頼主にどう接していいかわからないし、小山監督自身が演じる依頼主は小声でぼそぼそと理屈にならないような理屈をしゃべるのですが、非常に説得力があるのです。セリフの一つひとつが面白くて、とてもセンスがあるなと思わせます。

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『私をくいとめて』

私をくいとめて
『私をくいとめて』より - (C)2020「私をくいとめて」製作委員会

製作国:日本
監督:大九明子
キャスト:のん林遣都

【ストーリー】
31歳の会社員・みつ子(のん)はおひとりさまの生活にすっかり慣れきっていた。彼女の脳内には相談役の「A」がいて、あらゆることに答えてくれるのだ。そんなおひとりさまを楽しむみつ子が、年下の営業マン多田くん(林遣都)に恋をする。

【ここに注目】
大九明子監督の新作は、東京国際映画祭でも上映した『勝手にふるえてろ』(2017)の世界観に似ています。ひたすら自分の中の声と対話している主人公が、外の世界への一歩を踏み出していけるだろうかという物語のロマンスコメディーです。大人なんだけれど内面に不安定な揺れを持つ女性をユーモアを入れて描かせたら、大九監督はうまいです。主演ののんさんの魅力は言葉が見つからないほど。ノックアウトされますね。自分との会話でしっちゃかめっちゃかになるのんさんがとてもいいんです。

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『蛾の光』

製作国:日本
監督:リャオ・チエカイ
キャスト:ハ・ヨンミあらい汎ただのあっ子

【ストーリー】
話すことをやめ、声なき者の代弁者としてダンスでメッセージを伝えるダンサー。彼女は幼い頃にいなくなった母のトラウマを抱えていた。一方で幼い時に見たパントマイムパフォーマーの老人との文通を通して、彼にアーティストとして影響を受けていく。

【ここに注目】
東京国際映画祭で2本の作品を上映しているシンガポールのリャオ・チエカイ監督が、東京藝術大学大学院に入り直して撮ったという作品です。過去の回想シーンと現在のシーンが相互に重なって、一つの万華鏡のように作られています。いなくなった母のことであったり移民の悲劇であったり、アジアの死生観のようなものが込められていて、失われたものへの哀悼のドラマであり、主人公のダンスは鎮魂の思いを表現しています。かなりアート色が強く、幾重にもエピソードやメッセージが重なった奥行きの深い作品ですね。

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『Malu 夢路』

製作国:日本
監督:エドモンド・ヨウ
キャスト:セオリン・セオオメイジュン・タン永瀬正敏水原希子

【ストーリー】
母親が心を病み、幼い頃に離れ離れになった姉のホンと妹のラン。母の死をきっかけに20年ぶりに再会し、同居生活を始める。ところがランが失踪し、数年後に遺体が日本で発見される。すぐさま日本へ旅立ったホンは、初めて訪れる地で亡き妹の影を追う。

【ここに注目】
『アケラット-ロヒンギャの祈り』で第30回東京国際映画祭の最優秀監督賞を獲ったエドモンド・ヨウ監督が、今回は社会派の面はあまり前面に出さず、二人の姉妹の生き様をみせています。前半をマレーシア、後半を日本で撮っているのですが、作品を美しく撮れる監督なので、異国情緒が漂うような日本の撮り方というのも見どころだと思います。もっともっと飛躍してほしい監督と、永瀬正敏さんや水原希子さんといった日本の俳優たちのタッグを楽しみに観ていただきたいですね。エドモンド・ヨウ監督も2週間の自主隔離をしてから来るということで、貴重な海外ゲストの一人です。

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『鈴木さん』

製作国:日本
監督:佐々木想
キャスト:いとうあさこ佃典彦大方斐紗子

【ストーリー】
少子化解決のため、45歳の未婚者は徴兵されるという街で、45歳目前の未婚のヨシコ(いとうあさこ)はそれを逃れるため婚活をすることに。そんな中、ヨシコの元に、さえない中年男性“鈴木さん” が現れ……。

【ここに注目】
佐々木想監督は短編がカンヌ映画祭で上映されて俄然注目された存在で、長編デビュー作は今年の大発見の1本でした。パラレルワールドSF的な世界で、45歳で未婚の人は徴兵されてしまうんです。少子化対策でもあるというところが非常に風刺が効いていて、脚本が奇抜で断然面白いですね。ビジュアルも不穏な雰囲気に満ちていて、独特の世界観が見ものです。いとうあさこさんを筆頭に役者さんも素晴らしく、見どころ満載の1本です。

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『佐々木、イン、マイマイン』

製作国:日本
監督:内山拓也
キャスト:藤原季節細川岳萩原みのり

【ストーリー】
俳優志望の27歳の石井悠二(藤原季節)は、圧倒的存在感を放っていた同級生の佐々木(細川岳)のことを思い出す。高校時代、周りを魅了していた佐々木だったが、ある出来事をきっかけに友情が崩れていく。

【ここに注目】
とても感動した作品の一つです。佐々木が主人公ではないんですよ。主人公は藤原季節さんが演じる佐々木の友人・石井で、佐々木の人生をフラッシュバックで描きつつ現在の主人公たちの生き様を並行して見せ、彼らが大人として成長していく。佐々木役の細川岳さんの体験が基になっていて、内山拓也監督と一緒に脚本を書いたということで、脚本がしっかり練られていてとても面白いんです。佐々木の家のセットが丁寧で、映像や美術にもとても感心しましたね。最後のクライマックスの演出が非常にスムーズで、監督の演出力、あるいは編集の力というものも感じました。これはいい青春映画です。

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『ゾッキ』

ゾッキ
『ゾッキ』より - (C)2021「ゾッキ」製作委員会

製作国:日本
監督:竹中直人山田孝之齊藤工
キャスト:吉岡里帆鈴木福満島真之介柳ゆり菜

【ストーリー】
「秘密は大事に、なるべくたくさん持て」とアドバイスする祖父の秘密の数に驚く女性や、あてがないことをあてにして南を目指す男性。一方、ある少年は姉がいないにもかかわらず、やっとできた友達に自分の姉に恋をしたと告げられ……。

【ここに注目】
オムニバスという言い方は適切ではないのかな。竹中直人さん、山田孝之さん、齊藤工さんがそれぞれのパートの監督を担当しているんですけれども、誰がどのパートを監督しているのかは観ている最中はわからない。ただ、1本の作品の中でコメディードラマや青春ドラマ、シュールな展開があったりと違う雰囲気が味わえます。男子高校生二人の童貞風青春ドラマがあって、エピソードがとてもよく、しみじみとさせられる部分もあります。幅広く、誰にでも楽しんでもらえるタイプの作品です。

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【ワールド・フォーカス部門の日本映画作品】

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『海辺の彼女たち』

海辺の彼女たち
『海辺の彼女たち』より - (C)2020 E.x.N K.K. / ever rolling films

製作国:日本、ベトナム
監督:藤元明緒
キャスト:ホアン・フォンフィン・トゥエ・アンクィン・ニュー

【ストーリー】
技能実習生として来日した3人のベトナム人女性は、不当な扱いを受けていた職場を脱出。違法滞在者となった彼女たちは、仕事を得るためにブローカーを頼り、北の港町にたどり着く。

【ここに注目】
藤元明緒監督は前作『僕の帰る場所』(2017)で、第30回東京国際映画祭のアジアの未来部門で作品賞を受賞しました。『カム・アンド・ゴー』のリム・カーワイ監督の撮影現場にも入ったことがあるらしく、日本とアジア諸国との関係をグローバルな視点で描ける人だと思います。藤元監督の着眼点や演出スタイルは世界の映画祭で観ることのできる良質な作品と共通したものを持っていて、この作品もサンセバスチャン国際映画祭のニュー・ディレクターズ部門でワールドプレミア上映されました。藤元監督を「日本のダルデンヌ兄弟」と呼びたくなっちゃうんですけれども、リアリズムの演出がとても板についていて、寂しい北国の景色の中にヒロインの心の苦しみが際立ってくる。観終わった後にすごい映画を観たと強く思える作品です。

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『トゥルーノース』

製作国:日本、インドネシア
監督:清水ハン栄治
声の出演:ジョエル・サットンマイケル・ササキブランディン・ステニス

【ストーリー】
在日朝鮮人の帰国事業で日本から北朝鮮へ渡った一家。少年ヨハンが9歳のとき、父親がいわれなき反逆罪に問われ、母親や妹とともに政治犯収容所に強制収容される。凄惨な日々を送り、数年後、愛する人の悲劇的な死に打ちのめされたヨハンは、人生の意味を見直すことにする。

【ここに注目】
北朝鮮の強制収容所を舞台にしたアニメーションで、在日4世の清水ハン栄治監督が10年近くかけて作った作品です。1960年代に清水監督の家族の知り合いが帰還事業で北朝鮮に戻り、行方知れずになった人たちもいたことから、脱北者にたくさんインタビューをして、実際の証言を基に作り上げたそうです。アニメーションという広くアクセスしやすいフォーマットにすることによって、厳しく恐ろしい現実を広めようという意図があったのではないかと思います。物語も起承転結がはっきりしていて、いい意味でわかりやすく、題材はヘビーですがエンタメとして観られるところも、この作品の面白いところです。アヌシー国際アニメーション映画祭で上映されたり、今後も多くの映画祭への招聘が決まっていると聞いています。

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