『呪怨』伽椰子&俊雄、恐怖の原点とは 生みの親・清水崇監督が明かす“幸せ”な縁

『リング』シリーズの貞子と並ぶJホラー史上最凶のアイコンとして名高い伽椰子と俊雄。彼らの原点となるVシネマ『呪怨』と『呪怨2』が〈4K:Vシネマ版〉として復活することにちなみ、清水崇監督に彼らの誕生秘話を聞いた。
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不登校の少年・佐伯俊雄と、その母・佐伯伽椰子が住んでいた呪いの家を訪れた人々が体験する恐怖を描きだした本シリーズ。複数の登場人物の視点を、時系列をバラバラにしながら描き出す構成といえば、クエンティン・タランティーノ監督の『パルプ・フィクション』などを想起するが、実際に『リング』の脚本家であり、本作の監修を務めた高橋洋からも「『パルプ・フィクション』の影響?」と聞かれたこともあったという。だがその着想のもとは意外にも別のところにあった。
「もちろん『パルプ・フィクション』も好きなんですけど、そこはまったく意識してなかった。僕としては(ポーランドのクシシュトフ・キェシロフスキ監督の人間ドラマ)『デカローグ』なんです。あの作品を10本連続で観た時は本当にすごい監督だ、すごい作品だと感激してしまって。いまだに僕が一番好きな映画ナンバーワンですね」。
ちなみに『デカローグ』とは、旧約聖書の十戒をモチーフに、ポーランド・ワルシャワ郊外の巨大団地に暮らす人々の人生を描き出した10編の連作ドラマ。とあるエピソードですれ違った人物が、別のエピソードでは主人公となる、といった具合に、人々の人生が交錯していくさまを描き出す作品だ。
「当時、僕がやりたい小ネタはたくさんありました。そしてもしかしたらこれが最後の監督作になるかもしれないし、全部出し惜しみなく、詰め込んで爪痕を残したいという勢いも。でもそれを普通に描くのでは収まりきらない。どうしたらいいかと考えた時に『デカローグ』の構成にすればいいんだと思いついた。一見、ある家をベースにしたオムニバスのように見えて、実はつながっているという構成にした」。
時間軸をバラバラにした構成にすることで「あれ? さっき死んだと思っていた人が、当たり前のように出てきた」といった具合に観客を混乱させて、その後から「ああ、この人が死んだのは、あの家に関わったからだったのか」といった形でつながっていく。「そういうことが謎解きとか説明なしに、自然と見ている人に浸透していくことになる。そしてそれが怖さにつながるからいいかもと思いました」。
そんな本作について、清水監督は「たぶん俊雄は僕自身なんですよね」と明かす。それは本作の一瀬隆重プロデューサーから「たぶんあの押入れにいる男の子は、監督が自分自身の幼少期を投影してるんじゃないか?」と指摘されたことで気付かされた。「子供の時は怖がりだった。押入れって、秘密基地みたいに入って遊んだりもできるから大好きだったんですけど、怖いものを見ちゃうと、今度は暗くて怖くて入れなくなる。もしかしたらそういう記憶の現れなのかもしれない。だから設定も、俊雄の誕生日は勝手に僕自身の誕生日である7月27日にしている」と明かす。
一方の伽椰子は、独特の動きが印象的なキャラクターとなった。「最初は階段上に佇んで現れるだけだった。脚本を直しつつ、生ゴミのように入れられた袋を引きずって這いずり降りてくるるのもありだなと過激になり、階段を降りるところも自分で実演したりして考えました。あれは全身を両腕だけで支えるから、結構腕力、体力を使うんですよ。伽椰子役の藤貴子さんにも毎回『もっとこうで、首もこうで』という感じに毎回細かな指示を出していた」と振り返った清水監督だが、実は伽椰子役の藤とは不思議な縁がある。「偶然なんですけど、藤さんも僕と同じ年の同じ日に生まれてるんです。1972年の7月27日。だから僕も藤さんも、俊雄もみんな同じ誕生日なんです」。
実は『呪怨』を中心とした縁はそれだけではなかった。「実は藤さんのご主人は『呪怨』のハリウッドリメーク版の美術デザイナーの方なんです。それだけでなく、アメリカ版の『呪怨』に出ていた俳優でも、日本の撮影で知り合って、それがきっかけで帰国してから結婚に至ったケースもある。ホラー映画だとそういったおめでたいことがニュースにならないんですけど、実は『呪怨』っておめでたい映画なんですよ」。
もともと伽椰子と俊雄は、最初から親子として構想されていたキャラクターではなかった。俊雄と伽椰子は短編オムニバス「学校の怪談G」の中に、それぞれ別の物語の登場人物として登場する。「ひとつは白い男の子の短編、もうひとつは藤さんが演じた女の幽霊の短編。Vシネマ版『呪怨』を作るにあたって『あの2つのキャラクターを長編に活かせないか?』と考え、『この2人が親子だったら? 霊界を彷徨う母子の悲哀が伝播していく……』というベースから裏設定がどんどん浮かんできた」。
そうやってバラバラだった伽椰子と俊雄が親子として組み合わさった時に、恐怖の連鎖が世界中を震撼させるホラーアイコンとなったのは周知の通り。そんな恐怖の原点として今回の〈4K:Vシネマ版〉は注目の作品となる。(取材・文:壬生智裕)
映画『呪怨』『呪怨2』〈4K:Vシネマ版〉は8月8日より全国公開中


