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作品評:『ブリッジ・オブ・スパイ』

ブリッジ・オブ・スパイ
作品賞ほか6部門ノミネートの『ブリッジ・オブ・スパイ』(C) Twentieth Century Fox Film Corporation and DreamWorks II Distribution Co., LLC. Not for sale or duplication.

 冒頭、自らの姿を鏡に映しながら自画像を描いていたその男はめぐりめぐって、万感の思いをもって、“他者の肖像画”を残す。『ブリッジ・オブ・スパイ』という作品を極端に圧縮すると、かようにも言うことができるだろう。(文・轟夕起夫)

 己と孤独に対話をするがごとく自画像を描いていたのは冷戦下、長年、諜報活動をしていたとされる旧ソ連のスパイ、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)。そして肖像画を残されたのは、アメリカ当局に捕らえられたアベルの弁護を引き受け、思いもよらぬ事態に巻き込まれるジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)。

ブリッジ・オブ・スパイ
舞台出身のベテラン、マーク・ライランスがソ連のスパイ役でオスカー初ノミネート!(C) Twentieth Century Fox Film Corporation and DreamWorks II Distribution Co., LLC. Not for sale or duplication.

 世論、国民的な感情は「敵国の“犬”を即刻吊るせ!」である。しかしドノヴァンは、それをよしとはしない。といっても単なるヒューマニズムではなく、保険専門の弁護士だからまず、原理原則を基盤に物事を考え、法のもとでの手続きを重んじる。つまり、「どんな人間にも等しく公平な裁判を受ける権利がある」と、たとえ憎むべき相手であっても本来有している尊厳は最低限守ろうとするのだ。

 面白いのはこのドノヴァンのキャラクターだ。完全無欠、高潔なヒーローではない。繰り返すがあくまで一人の“保険専門の弁護士”で、裁判では負けぬために、「アベルを死刑にせず、生かしていくことで将来、自国のスパイが捕まってしまったときの保険になる」と詭弁すれすれの論法も用いる。のちに、その言葉の代償を払わなければならなくなり、ベルリンでの「スパイ交換」交渉にカラダを張ることになるのだが、ここでのアクロバティックな駆け引きも、自分の普段の仕事がベースになっている。

ブリッジ・オブ・スパイ
弁護士ドノヴァンの丁々発止の法廷シーンも見もの (C) Twentieth Century Fox Film Corporation and DreamWorks II Distribution Co., LLC. Not for sale or duplication.

 一方、ドノヴァンの周りには、四方八方から得体の知れない、世の水面下で暗躍する人々が現れる。彼ら彼女らは、命令に沿って動き、法よりも国を守ることの方が大事な“愛国者”だ。だが身辺を嗅ぎ回るCIA工作員にドノヴァンは言う。「君はドイツ系、僕はアイルランド系、僕らは合衆国憲法のおかげで“アメリカ人”だと名乗れているんだぜ」。果たして、これも詭弁なのか?

ブリッジ・オブ・スパイ
いつしか絆が芽生えていく2人の男が迎えるそれぞれの結末は、苦い余韻をもたらす(C) Twentieth Century Fox Film Corporation and DreamWorks II Distribution Co., LLC. Not for sale or duplication.

 国のためにアイデンティティーを捨て、顔のない存在と化すスパイ。が、(われわれ)一般市民も、気がつけば暴走するヒステリックな“顔のない集団”へと、しばしばなってしまうものだ。だからこそ、アベルが描いたドノヴァンの肖像画がひときわ際立つ。そうしてトリックスター、饒舌なドノヴァンによって、寡黙なアベルの肖像もまた浮き上がってくることに! すなわち本作は、コーエン兄弟の卓抜な脚本を手にした、監督スティーヴン・スピルバーグによる新たな“ミッション:インポッシブル”なのである。

映画『ブリッジ・オブ・スパイ』は上映中

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