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ウディ・アレンのワイルドな挑戦と失敗 Vol.1 観るほどに味わい深いベスト作品!~ラジカル鈴木~

 僕には Top of Top のヒーローが二人います。一人は今年4月に57歳という若さで、まさかの急逝をしたプリンス。もう一人が、もうすぐ81歳になる今も旺盛に新作を撮り続けている、ウディ・アレン。80年代から、彼の作品はリアルタイムでロードショーで観てきました。それ以前の作品はさかのぼってレンタルビデオや名画座で全て観ました。長いキャリアと膨大な作品数を誇る世界的映画監督だから研究書もたくさんありますが、魅力と共に、一般的にいまだ誤解されているのでは? という部分を語りたい。彼が嫌いという人はイメージや先入観が邪魔しているのではないかと思いますが、それは非常にもったいないです。(文・イラスト:ラジカル鈴木)

ウディ・アレン
ウディ作品は、観るほどに味わいが深まる

●僕の選ぶギャグ・ベスト4

 「家では僕がボスだよ。妻には決定権があるけどね」
 「裁判官が離婚届に署名したときこそ、僕と妻が同時に絶頂に達した唯一の瞬間だった」
 「僕はセックスがうまい。長い間一人で練習したからさ」
 「みんな死ぬなんて、そんなバカな! 有機米を食べているのに」

 彼自身が演じてきた主人公は、いつもこんなことばかり言ってます。笑えると同時に悲哀がにじむ。あと死の恐怖。生きる意味を知ろうとしてもがいている。ウディは「なぜ人間は存在し、苦しみながら生きるのか。人は自分の存在や孤独とどう向き合っていくのか。答えの出ない問題をいつも考えてる。だから僕の映画にはそれが忍び込む」と言っています。それでは、僕の好きな作品。

●ベスト13本(10にはとても絞れませんでした)

 『アニー・ホール』(1977年)、『インテリア』(1978年)、『スターダスト・メモリー』(1980年)、『カメレオンマン』(1983年)、『ブロードウェイのダニー・ローズ』(1984年)、『ハンナとその姉妹』(1986年)、『セプテンバー』(1987年)、『私の中のもうひとりの私』(1988年)、『ウディ・アレンの 重罪と軽罪』(1989年)、『メリンダとメリンダ』(2004年)、『マッチポイント』(2005年) 、『ウディ・アレンの 夢と犯罪』(2007年)、『教授のおかしな妄想殺人』(2015年)

 ジャンルを超えてなんと多彩なんでしょう。ファンタジー、軽いミステリー、近年はサスペンスタッチのドラマも多く、バラエティーさに驚きます。次点で選んでないけど『世界中がアイ・ラヴ・ユー』(1996年)はミュージカルだし。彼いわく「自分のスタイルってよく分からない。もしクレジットを入れなかったら僕の作品て分からないかも」。うん、でも独特のリズムやクセ、撮影スタイルなど、頑固なまでに一貫してる部分で分かっちゃう。脚本と監督の腕に魅了されてるので、彼自身が出てなくてもOK。

 ライトなコメディーよりもシリアスな作品、またはおかしさとシリアスさが融合したようなのが好き。この傾向は年々強く、自己分析すると今年50歳になりますけども、なんぼ僕が精神年齢低くても、アレやら、コレやらが十分理解できる年になったということでしょうか(例えば『クレイマー、クレイマー』(1979年、ロバート・ベントン監督)は公開当時、中学生にはよく分からなかったけど今は分かる(笑))。矛盾に満ちたこの世の探究、愚かでも愛しい人間の姿が垣間見れるウディ作品は、何度も観るほどに味わいが深まります。

●悲喜劇

 ウディは「悲劇の中に笑いがあって、おかしいものが悲劇的だったりする。だから僕はコメディーを作り続ける」と言いました。コメディアンから監督になったチャップリン北野武さんも同じです。いわく「自分が手掛ける映画は、コメディーだろうと必ず悲哀を織り込んでる」。象徴的に描いているのが、同じキャラクターと設定を悲劇的視点と喜劇的・楽天的視点2通りから語る『メリンダとメリンダ』。一つの事実をどう見るかでこんなにも変わっちゃうのか、と目からウロコ。主演のラダ・ミッチェル他の熱演。

 そうそうたるスターたちが出演したがるのは、これほど巧みに人間を描ける監督が少ないからでしょう。「僕の作品は、内面から不安をさらけ出して書いているから100年経っても古くならないと思う」と言っている。本人は「『マッチポイント』、『カイロの紫のバラ』(1985年)、『夫たち、妻たち』(1992年)、『ブロードウェイと銃弾』(1994年)、『カメレオンマン』、『それでも恋するバルセロナ』(2008年)がマシだと思う」と語ってますが、僕の好きな『マッチポイント』、『カメレオンマン』も入ってる。「『スターダスト・メモリー』、『セプテンバー』、『私の中のもうひとりの私』、『インテリア』は、万人受けしないと分かっていた」とも。でも僕はこれら全部好きで、どれも傑作だと思ってます。

 特に失敗作と言われてる『スターダスト・メモリー』に関して彼は、「みんなこの映画に腹を立てたけど、今でも自分の作った中で最高の一つだと思っている」と。激同意、何度観ても面白いし、その深さに感動します。同じ頃のスタイリッシュなモノクロ作品『マンハッタン』(1979年)ももちろん好きだけど、もっとアバンギャルド。確かにフェリーニ『8 1/2』(1963年)からインスピレーションは受けてるかもだけど、まったく別の作品です。批評に左右されずに自分の目で確かめてくださいね。キャストも華やか、シャーロット・ランプリング(最高にきれいに撮られてます)、『サスぺリア』(1977年)のジェシカ・ハーパー、売れる前のシャロン・ストーンも出てるんです。

ウディ・アレン
ウディ・アレンによるSFコメディー『スリーパー』(1973年)

●神はともかく、女性は存在する

 神は存在するのか? 彼の大きなテーマの一つですが、答えを見つけるのはなかなか大変。一方、男にとって永遠の謎・神秘なる女性。至上の喜びと安らぎ、めくるめく快楽も与えてくれるけれども、一方、下手をすれば一転、あっと言う間に奈落の底、地獄のような苦しみももたらしてくれる、女性。こちらは確実に存在します。

 留守がちな父親を除いて女ばかりの家族の中で育ったウディ。女性の心理描写の上手さは、育ちながらにして養われたのでしょう。女からの視点。劇中に出てくる、無邪気で純粋で、愚かで、気丈で、恋し、魅惑的で、悩み、苦しみ、時に計算高く、そしてたくましく立ち上がっていく、そこら辺にいそうな女たち。

 ダイアン・キートンから始まって最近のエマ・ストーンまで、がっちりとタッグを組んで傑作を生み出した歴代のミューズのような女優が何人もいるのはご存じの通りですが、ミレニアム以降のウディ再生のミューズ、スカーレット・ヨハンソン、最高ですね! 僕も彼同様に『ゴーストワールド』(2001年)以前から注目していましたから、『マッチポイント』でウディ作品に出ると知って狂喜しましたっけ。しかもニューヨークを飛び出して舞台はロンドン! サスペンス! 他作品でのコメディー演技も上手だし。エマも良いですねえ、若ければ若いほど、老いたウディとのコントラストが際立つ。

 80~90年代初頭、私的パートナーだったミア・ファローと作った12本は、キラ星のごとき傑作郡。彼女が演じたのはどれも違ったタイプのヒロインで、実力はいかんなく発揮され、これだけ才能を開花させてくれたウディでも、隠れて未成年だった娘(養子)に手を出したのは許せなかった……。女としてのプライドを傷つけられたんでしょうか。破局が近付くにつれ「浮気されていても気がついていない妻」みたいな役柄が多かったのは、シャレにならない? 当時のウディ個人の「ミア感」がにじみ出ている気がします。彼は本能に従う奔放なアーティストですからねえ。ミアがただの一女優であれば、ここまで関係がこじれることはなかったのでしょうが……。ウディの人生最大のピンチと苦しみだったのは想像に難しくありません。

 この破局が以降のキャスティングに新たな扉を開いた思えば、結果オーライ、これも運のうち? たぶん自身を喜劇的視点で見ることによって乗り切ったのでしょう。お笑いをやっている人間は逆境に強い。

●名演の数々

 1作品にしか出ていないけれど、どう見ても名演であって僕個人的にこりゃアカデミー賞あげたい! と思う、代表的女優“以外”の出演作品を挙げてみたいと思います。

 『マンハッタン』のマリエル・ヘミングウェイ、当時40代のウディと17才の彼女の年の差カップル。今なら問題になりそうだけど、70年代はそこらへんおおらかだった? 少女の垢抜けない一途さ、純真さが素晴らしかった。18年後、ウディ作品『地球は女で回ってる』(1997年)に再び出演してたけど、すっかりゴツイおばさんになっててがっかりしたなあ。

 『ハンナとその姉妹』のバーバラ・ハーシー。嫁のセクシーな妹によろめいてしまうマイケル・ケインふんするエリオット。その情熱を戸惑いながらも受け入れ情事を重ねちゃう、三姉妹の末っ子リーを、文字通りホットに熱演。アクションやホラー映画に出演が多かった彼女がここから演技派として認められた、それまでの最高の演技ではないかと思います。そのリーの年上の同棲相手を演じるのはなんとウディが敬愛するイングマール・ベルイマン監督作品で主演を演じてきた名優マックス・フォン・シドー。これがやはり最高の演技!

 アカデミー賞を受賞してないのがおかしい真の名優、『グロリア』(1980年、ジョン・カサヴェテス監督)のジーナ・ローランズ。『私の中のもうひとりの私』の主人公はハマリ役。表面は成功を手にし非の打ちどころのないように見える大学教授、その内面を探る旅のような作品。あまりヒットしなかったせいもあって、この名演も埋もれがちなのが大変残念。あのジーン・ハックマンもドンピシャの役で出ています。

 90年代、むっちゃ売れっ子だったジュリエット・ルイス『夫たち、妻たち』(1992年)ではウディふんする大学教授のセクシーな教え子で、先生を誘惑しちゃって翻弄(ほんろう)。『マンハッタン』同様、ウディの現実の年下愛好傾向がにじみ出ているような役でしたな。これもはまり役。

 『僕のニューヨークライフ』(2003年)のクリスティナ・リッチ。主人公を振り回すヒロイン、自然でキュートで等身大な演技。僕は初期から彼女が大好きなんだけれども、ホラーやカルト傾向の作品が多く傑作といえるのが少ない。この頃から女優としての進路に迷いが生じたのか、拒食症、乳房縮小手術と、それまでのまん丸な容姿を変えようとしてしまい、いまや痩せすぎのガリガリ、あの個性はすっかり消滅してしまったのが何とも残念。

 ウディいわく「男は虜になった女を愛することで何かを学ぶ。女は虜になってくれた男を愛することで何かを学ぶ」。どのキャラクターも最後は皆、何らかのカタチで成長して終わっている? というワケでウディ作品での女優の名演(男優も枚挙にいとまがありません)、挙げたらキリなく、脇役までクローズアップしたら本当に際限ない!

 そんな彼自身の人生最後(かどうかは分かりませんけれども)に行き着いたのが、皮肉にも、おそらく彼も夢にも思わない女性像だった現在の妻、スン=イー・プレヴィン、30歳以上年下の韓国の元孤児。あの養女スキャンダルの当事者と、ちゃんとケジメをつけたワケですが、おそらく映画やショービジネス界とは無縁な資質が良いのか、いまでも結婚生活は良好なようです。養子も2人いるそうで。この数奇な運命に、自身も内心大笑い? 苦笑しているのではないでしょうか。

ラジカル鈴木 イラストレーター。

ラジカル鈴木
ウディと筆者(注:この写真はアイコラです)

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