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『311』で遺体にカメラを向けた森達也監督、クソ映画と言われ、物を投げられ…なぜ撮ったのか?

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森達也監督
森達也監督 - Photo:Harumi Nakayama

 森達也綿井健陽松林要樹安岡卓治のドキュメンタリスト4人が東日本大震災の被災地へ赴いたドキュメンタリー『311』が話題となっているが、その舞台裏をつづった「311を撮る」が岩波書店から出版された。取材に応じた森は「完成した作品について作品以外の場で語るべきではないと思っているので本当は本を出したくなかった。でも『311』については説明が必要だと思った」と重い口を開いた。映画は4人による共同監督だが、著書は取材当時の心境を四人四様の言葉でつづっているのが特徴だ。

映画『311』写真ギャラリー

 当初は被災地を現認するだけで映画制作の予定はなかったが、次第に3人のカメラが、能動的に取材を始めた森に向けられていったようだ。森は「使命ではなく“表現欲”。現場に行くと、(興味のある方へ向かって)前に出て行ってしまう自分がいる。戦場取材している綿井さんには『森さんは戦場に行かない方がいい。一発で殺されます』と注意されました」と苦笑いする。

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 結果、3.11関連作品では異色の被災者ではなく、取材する側の戸惑いを映したセルフドキュメンタリーとなった。しかし初めて試写を行った夜に一悶着あったという。最年少の松林が、酔った勢いで「こんな森さんの自傷映画を誰が楽しむんだよ!(中略)楽屋落ちのクソ映画じゃねえかよ!」と暴言を吐いた。怒った森がプロレス技のスリーパーホールドをしかけ、松林を秒殺したエピソードが本の中で明かされている。森は「僕も酔っていたこともあるが、クソ映画と言ったことに腹が立った。でも確かにこの映画は僕らの排泄物ですよね。安岡とは現地にいる時にすでに映画にするなら『僕らの後ろめたさがテーマ』だねと話していた」と説明する。

 また同書では、物議を醸し出している遺体にカメラを向けたために被災者に木片を投げられたときの詳細と、その後の顛末についても触れられている。森は「ドキュメンタリストだから何でも撮るのは当たり前。不都合がある人の映像だけを切るのは違うと思う。ただ今回は、遺体そのものを撮ろうとは最初から思わなかった。遺体を映すことが復興に繋がるのであれば撮るがそうとは思わない」と持論を語った。

 映画撮影後、松林は再び福島に入りドキュメンタリー『相馬看花 ‐第一部 奪われた土地の記憶‐』(初夏公開)を制作し、綿井も福島第一原発事故の取材を続けている。しかし森は3.11について「これ以上語ることはない」と断言している。ただ、図らずしも『A2』以来、10年ぶりに映像の世界に戻ってきたことは刺激になったようで、「映像はやっぱりいいですね。今度は劇映画を撮ってみたい」と監督業に意欲を見せていた。(取材・文:中山治美)

映画『311』はユーロスペースほか全国順次公開中。また、書籍「311を撮る」は岩波書店から発売中

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