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『オッペンハイマー』は本当に広島・長崎を描かなかったのか…原田眞人監督&森達也監督が激論

画像は映画『オッペンハイマー』より
画像は映画『オッペンハイマー』より - (C) Universal Pictures. All Rights Reserved.

 第96回アカデミー賞で作品賞を含む最多7部門に輝いたクリストファー・ノーラン監督最新作『オッペンハイマー』の公開記念トークイベントが6日、丸ノ内ピカデリーで行われ、映画監督の原田眞人森達也が出席。本作で賛否を呼んでいる、“広島・長崎の惨状を直接描かなかったこと”について語り合った。この日は、フリーアナウンサーの武田真一がMCを務めた。

【画像】『オッペンハイマー』の役づくりで額を剃り上げたロバート・ダウニー・Jr

 ピュリツァー賞を受賞したカイ・バードマーティン・J・シャーウィンによる伝記を基に、“原爆の父”と呼ばれたアメリカの物理学者J・ロバート・オッペンハイマーの栄光と没落を描く本作。日本では3月29日より全国343館403スクリーンで初日を迎え、初週3日間で観客動員数23万1,015人、興行収入3億7,927万620円を記録。IMAX版は、ノーラン監督作品史上最高の数字となった。

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 ノーラン監督渾身(こんしん)の作品を鑑賞した両監督は、ともに「すばらしかった」と称賛。映画史において『市民ケーン』から『アラビアのロレンス』『レッズ』『ラストエンペラー』『アビエイター』などに連なる1本と指摘する原田監督が「これらの映画は全部、歴史上に名を残した人物の栄光と挫折を描いて、一大スペクタクルにした映画ですが、本作はその最高峰の1本だなと、興奮しながら作品を観ていました」と語り、「『市民ケーン』には“ローズバッド”というキーワードが出てきて。その意味は最後に明かされるわけですが、この『オッペンハイマー』でもキーになる言葉があって、それが最後に出てくる。そこまで完璧に描いたことに胸を打たれました」と舌を巻く。

『市民ケーン』を例に挙げた原田監督

 一方の森監督も「広島や長崎が描かれていないと言われてきたわけですが、映画を観て、しっかりと描いていると思いましたよ。間接話法と直接話法というものがあるわけで、直接的に描けばいいというものではない。その意味で、僕はものすごい反戦映画であり、反核映画だと思いました。おそらくノーラン監督には、それほど強烈なイデオロギーはないと思うんですが、オッペンハイマーを描くことで必然的にそういう映画になってしまった。だからそういう意味で、今の世界にとって大事な映画になったと思います」と持論を展開する。

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 さらに「テレビは足し算なんです。情報だけでなく、テロップ、効果音をつけたり、タレントの顔をくりぬいて出したり、足し算をしないと不安でしょうがない。だけど映画は、料金を払っているからこっちのもの。過剰に説明する必要がない。だから間接話法でいいんです。その方が絶対に届きます。そういう意味でもノーランは、オッペンハイマーの苦悩、広島長崎の惨状、被爆国のつらさを間接話法で描いた。これはテレビでは描けないですね」と指摘した。

『オッペンハイマー』の間接話法について言及した森監督

 『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督が、『オッペンハイマー』に対するアンサー映画をつくりたいと語ったコメントは大きな反響を呼んだが、実は原田監督自身もそう感じていたという。「僕自身は三部作にするべきだと思うんです。一つはつくった側のロスアラモス研究所を中心にしたもの。それから被災地である広島、長崎の惨状。これは今のVFXの技術だったら再現できると思うんです。そしてもう一つが(イギリス、アメリカ、ソ連の首脳が集まり、第二次世界大戦後の戦後処理を話し合った)ポツダム会談ですよね」と語る原田監督。2015年の『日本のいちばん長い日』で原爆投下の描写をワンカットしか入れられなかったことに、広島市民から「原爆を描く気はないんですか」と言われたことが引っかかっていたという。

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 その後、コロナ禍となり、資料を読み込む時間が多くあったということで、広島の原爆投下を中心とした一か月を描いた脚本も完成させているという。かつ『オッペンハイマー』で広島・長崎の直接的描写がなかったことで、原田監督の決意はさらに強固なものとなった。「これはぜひ実現させたいんですが、日本人のお金だけじゃできないんで。実は広島で被ばくしたのは日本人だけでなく、米軍側にもいたわけで。(爆撃機)ロンサムレディーの搭乗員たちや、朝鮮人、東南アジアの留学生、そしてスペイン人のペドロ・アルペ神父という方もいた。そういう人たちをタペストリーのように描きたい」と説明する原田監督は、「これは30億、40億というお金がかかるんですが、この『オッペンハイマー』が道を開いてくれた。いつかつくりたいという気持ちになりました」と意気込んだ。

左から森監督、原田監督、MCの武田真一

 そして最後に「プーチンが核兵器の使用をほのめかしたときに、核抑止理論は崩壊したと思っています」と指摘した森監督は、「以前から核抑止なんてあり得ないだろうと思っていましたけど、それが眼前で証明されている。抑止にならないんですよ。それが分かりながら、なぜ日本は核兵器禁止条約に批准すらできないのか。だって50か国も加盟しているんですよ。核保有国ならば矛盾なので、批准はできないかもしれないですが、唯一の被爆国である日本がなぜ調印できないのか。この映画で広島・長崎の描写が足りないと怒るなら、むしろそちらに怒るべきじゃないかと思いました」とメッセージ。

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 さらに「これからも続くということです」と続けた原田監督も、「この映画を受けて、僕は日本の映画人としてまずは広島だけでもとにかく描きたいと思っています。核の惨状を描く中で人々がどう生きたか。今はそういう人たちのドキュメントがたくさん残っているわけですから。そして、そういうものをつくることによって、プーチンや金正恩などに観せて、しっかりとこの惨状を胸に刻んでもらいたいという警告の意味でも『オッペンハイマー』が切り開いた道を、広島の映画なり、ポツダムの映画なり、世界の映画人が次々とここから影響を受けた映画をつくるべきだと思います」と観客に呼びかけた。(取材・文:壬生智裕)

映画『オッペンハイマー』は全国公開中

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