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今週のクローズアップ ウディ・アレンのミューズとスキャンダル

 最新作『ブルージャスミン』では精神的に不安定な女性を悲しくもおかしみをもって描き、ヒロインに迎えたケイト・ブランシェットに第86回アカデミー賞主演女優賞をもたらしたウディ・アレン。下馬評は高かったが、今年3月の授賞式前に再燃したウディの“養女性的虐待スキャンダル”によって風向きが悪くなりかけていた中での受賞となった。そこで今回は、数々の魅力的な女性キャラクターを生んだウディ・アレン作品を語る上で欠かせない彼の創作のミューズたち、そして輝かしいキャリアの一方でまとわりつく私生活のスキャンダルを改めて振り返ってみたい。

ダイアン・キートン

 ダイアン・キートンがウディと出会ったのは1968年後期、後に映画化もされた彼の舞台「ボギー!俺も男だ」のオーディション時のこと。もともとウディのファンだったというダイアンは「すぐに好きになってしまったの。何とかして彼を落とそうとした。魅力的な女性だと思われたくて努力したわ」と当時を振り返っている。舞台の幕が上がるころにはウディもダイアンに恋して、交際は5年ほど続いた。破局後も『アニー・ホール』(1977)、『インテリア』(1978)、『マンハッタン』(1979)、『ラジオ・デイズ』(1987)、『マンハッタン殺人ミステリー』(1993)などでタッグを組んだ。ウディはダイアンが自身の作品に与えた影響について、「それまではいつも男性の視点で脚本を書いていた。だがダイアン・キートンに出会い、彼女の目を通してさまざまな発見があった。女性のために書き始めたら女性ならではの視点を学ぶことができ、やがてその方が面白く感じるようになったんだ」と公言。ダイアンのおかげでウディの脚本には女性の視点が加わり、魅力的な女性キャラクターが誕生する土壌が出来上がったといえる。

 

映画『アニー・ホール』より
Kobal/UNITED ARTISTS/The Kobal Collection/WireImage.com

映画『マンハッタン殺人ミステリー』より
Tri-Star/Photofest/ゲッティ イメージズ

 そうした変化を象徴しているのが、男女の出会いから別れまでをそれぞれの視点からシニカルに映し出した『アニー・ホール』だ。当時すでに破局していたウディとダイアンの関係に基づいているかのような設定で、ダイアンはただ熱烈に恋する出会ったばかりのころから、ケンカと仲直りを繰り返して倦怠(けんたい)期に陥り、結局ダメだったと見切りをつけて新たなスタートを切るまでを、秀逸なウディの台本の下リアルに演じ、第50回アカデミー賞主演女優賞に輝いた。また、今でもよく取り上げられるのは、ダイアン演じるアニー・ホールがまとうメンズライクなファッションの数々。コスチュームデザイナーは劇中でダイアンの私服を使うことに反対したが、ウディが「彼女の好きにさせて。彼女は天才なんだから」とダイアンに絶対の信頼を寄せたことで、本作はファッション史にも残る名作となった。

 今年1月に行われた第71回ゴールデン・グローブ賞授賞式では、授賞式嫌いで知られるウディの代理として、長年にわたって映画界に貢献した人物に贈られる「セシル・B・デミル賞」を受け取ったダイアン。スピーチでは「世界で最も魅力的な179人の女優がウディ・アレン作品に出演したのは、彼女たちがそうしたいと望んだからです。ウディが描く女性はカテゴリーで分けることなどできないのです」と女優にとってウディとの仕事がいかに魅力的であるかを力説した。その後、ウディの“養女性的虐待スキャンダル”が再燃するが、アメリカのテレビ番組「トゥデイ」でセシル・B・デミル賞を代わりに受け取ったことを悔やんでいるかと問われると「いいえ」ときっぱり。「わたしの人生を見てもらえればわかるけれど、彼はわたしにチャンスを与えてくれた。それはウディ・アレンだからこそできたこと。彼は天才よ」とウディを擁護している。

 

第71回ゴールデン・グローブ賞授賞式でウディ・アレンについてスピーチするダイアン・キートン - 後ろに映っているのは映画『アニー・ホール』での二人のイラスト
Handout / Getty Images

ミア・ファロー

 『ローズマリーの赤ちゃん』(1968)や『華麗なるギャツビー』(1974)などへの出演でスター女優だったミア・ファローは、1980年代から1990年代初期にかけてウディの公私にわたるパートナーに。『サマー・ナイト』(1982)、『カメレオンマン』(1983)、『ブロードウェイのダニー・ローズ』(1984)、『カイロの紫のバラ』(1985)、『ハンナとその姉妹』(1986)、『ラジオ・デイズ』(1987)、『セプテンバー』(1987)、『私の中のもうひとりの私』(1989)、『ウディ・アレンの 重罪と軽罪』(1989)、『アリス』(1990)、『ウディ・アレンの 影と霧』(1992)、『夫たち、妻たち』(1992)とその期間のウディの監督作ほぼ全てに出演。ウディ自身も「ミア・ファローは素晴らしい女優だった。大胆なコメディーもシリアスな演技もこなせる。だが彼女の良さがまだ十分に発揮されていないと感じた。だから彼女にいろんな役を書いたよ」と明かしている。名作ぞろいのラインナップの中でも特筆すべきはミアの演技の幅の広さ。『カイロの紫のバラ』の大の映画好きで夢見がちのウエイトレスから『ハンナとその姉妹』の妹思いで真面目な姉、『セプテンバー』の繊細で傷つきやすい女性から『ウディ・アレンの 重罪と軽罪』の野心的で男を惑わす製作補まで多彩な役柄を演じ、『アリス』ではコメディエンヌとしての素質を遺憾なく発揮しつつ、世間知らずで甘やかされたセレブ妻が自分の足で立つようになるさまをリアルに表現している。約12年に及ぶコラボレーションはお互いにとってプラスになるものだったことは間違いない。

 

左から長女役のミア・ファロー、三女役のバーバラ・ハーシー、次女役のダイアン・ウィースト - 映画『ハンナとその姉妹』より
Orion Pictures/Photofest/ゲッティ イメージズ

映画『夫たち、妻たち』より
TriStar Pictures/Photofest/ゲッティ イメージズ

 プライベートでも籍こそ入れなかったものの、1人の息子(ローナンさん※2013年にミアは、ローナンさんの父親はウディではなく元夫フランク・シナトラの可能性があるとVanity Fair誌に語っているが……)に恵まれ、さらに2人の養子(ディランさん、モーゼさん)も迎えて事実婚状態だった二人だが、『夫たち、妻たち』の撮影中、ミアが自身の養女であるスン=イー・プレヴィンのヌード写真を発見し、ウディとスン=イーがミアに隠れて関係を持っていたことが発覚。ウディとミアの関係は完全に破綻し、さらにウディによるディランさんへの性的虐待疑惑も浮上するなど親権などをめぐる裁判は泥沼化した。

 結局、子どもたちの親権はミアの手に渡り、ウディはスン=イーとそのまま結婚。子供時代に両親のドロドロな関係を目の当たりにしたローナンさんだが、11歳で大学に入学し、16歳で名門イェール大学ロースクールへの入学許可を得て、若くしてユニセフのスポークスマンやアメリカ政府のアドバイザーも務めるなど超まっとうに成長し、今年1月の第71回ゴールデン・グローブ賞授賞式の「ウディ・アレン」トリビュートをミアと共にツイッターなどで批判した。その後、アカデミー賞でウディの新作『ブルージャスミン』が脚本賞など3部門でノミネートされると、今度はディランさん本人が「授賞式で俳優たちが彼をたたえ、テレビが彼を特集し、批評家が雑誌で彼を取り上げるのに耐えきれない」と7歳の時にウディから性的に虐待されたとNYTimes.comに寄せた書簡の中で生々しく告発。こうして“養女性的虐待スキャンダル”が再燃するに至った。

 なお、この件についてウディ側は「当時捜査が行われ、性的虐待の信用に足りる証拠は出ませんでした。ディラン・ファローは空想と現実を区別することができないのです。そしてディラン・ ファローは彼女の母親であるミア・ファローによってそうするように指示されていたのです」と完全否認。もう一人の養子のモーゼさんは「母は僕に父を憎むように教え込んだ。もちろんウディは性的虐待などしていない」とウディの肩を持っている。

 

ローナンさんを抱くミア・ファローとディランさんを抱くウディ・アレン
Time & Life Pictures / Getty Images

ウディ・アレン&ミア・ファロー一家 -一番右がスン=イー・プレヴィン
Time & Life Pictures / Getty Images

スカーレット・ヨハンソン

 『マッチポイント』(2005)へ出演後、『タロットカード殺人事件』(2006)、『それでも恋するバルセロナ』(2008)とウディ監督作で立て続けに役を得たスカーレット・ヨハンソン。特に『マッチポイント』は世界興行収入8,530万6,374 ドル(約85億3,063万7,400円)の大ヒットを記録し、ウディも8年ぶりにアカデミー賞にノミネートされるなど、2000年ごろの低迷期を脱するきっかけとなった。それだけに、スカーレットはウディの新時代のミューズといっても過言ではないだろう。そんな彼女が本作で演じたのは、元テニスプレーヤーの主人公クリス(ジョナサン・リース・マイヤーズ)をとりこにし、不倫関係となる女優志望のノラという物語の鍵を握る重要な役柄。また、サスペンス、コミカルミステリー、ロマンチックドラマと3作のジャンルはさまざまだが、それぞれにふさわしい演技で「奔放だけど根は純真な女性」を体現したスカーレットには見事の一言だ。(数字は全てBox Office Mojo調べ、1ドル100円計算)

 そもそもスカーレットとウディの出会いは偶然が生んだもの。『タイタニック』ケイト・ウィンスレットが撮影直前になって『マッチポイント』から降板したため、ウディら製作陣は急きょ代役を探すことになり、その時たまたまスケジュールが空いていたのがスカーレットだったのだ。ウディはスカーレットについて「彼女に会うと僕らの相性が抜群だということがわかった。彼女はとてもチャーミングで、聡明で、楽しい人。彼女が現場に現れると一気に活気づくんだよ。とても才能のある素晴らしい子なんだ。歌えるし、ドラマもコメディーもどちらもできる。彼女が演じられる役があればいつだって、彼女が僕の第1希望だな」と語るなどぞっこんの様子。一方のスカーレットは、ダイアン、ミアに続くウディのミューズであるかとの問いには「ノー」ときっぱり答えているが、「ウディとわたしはお互いを理解し合っているし、楽しませたり、突っつき合ったり、一緒に仕事をするのはいつだってとても楽しいわ」とそれでも他の女優たちとは少し違った信頼関係があることをうかがわせている。

 
映画『マッチポイント』より
DreamWorks/Photofest/MediaVast Japan
映画『タロットカード殺人事件』より
Focus Features/Photofest/ゲッティ イメージズ
映画『それでも恋するバルセロナ』より
The Weinstein Company/Photofest/ゲッティ イメージズ
番外編:ケイト・ブランシェット

 『ウディ・アレンの 夢と犯罪』(2007)のアメリカ公開時のインタビューですでに、ウディから「いつも一緒に仕事をしたいと思ってきた。彼女にふさわしい作品を見つけたい」と名前を挙げられていたケイト・ブランシェット。ウディの念願かなってケイトを初めてヒロインに迎えた作品が新作『ブルージャスミン』だ。ケイトがふんするのは、過去の栄華が忘れられず、急場しのぎの虚言を繰り返して精神のバランスを崩していくジャスミン。ジャスミンの華麗なる“過去”と悲惨な“現在”を対比させながら彼女の転落人生をあぶり出していくというシリアスになりすぎかねない内容ながら、ウディの卓越した脚本とケイトの名演でほどよく軽くかつシニカルな笑いにも満ちた作品となった。

 
映画『ブルージャスミン』より
Photograph by Jessica Miglio (C) 2013 Gravier Productions, Inc.

 ウディはそんなケイトの演技について「なぜかはわからないが、ケイトはスクリーンに深みをもたらして、観ている者を吸い込んでしまう。彼女がどれだけその役柄を深く演じているかをただ感じてしまうんだ。これはケイトの天賦の才能だね」と賛辞を惜しまない。ケイトも第86回アカデミー賞主演女優賞受賞時のスピーチで「ウディ・アレンの脚本のおかげです」とその深い洞察力で破滅的ながらえも言われぬ魅力を持つ、複雑なヒロインを生み出したウディに感謝の言葉を贈っている。本作を観れば、私生活ではスキャンダルにまみれながらも、ウディが名だたる女優たちから愛されるわけは明らかだといえる。

映画『ブルージャスミン』は5月10日より全国公開

 
第86回アカデミー賞授賞式でオスカーを受け取るケイト・ブランシェット
Kevin Winter / Getty Images

文・構成:シネマトゥデイ編集部・市川遥


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