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第37回 塚本晋也監督が日本人最後の参加者!8年の歴史に終止符を打ったアブダビ映画祭

第37回 塚本晋也監督が日本人最後の参加者!8年の歴史に終止符を打ったアブダビ映画祭(アラブ首長国連邦)

2007年にスタートしたばかりのアブダビ映画祭が今年5月、映画祭終了を発表して映画界を驚かせました。新作映画『野火』(7月25日より公開中)を引っ提げて、第8回大会(2014年10月23日~11月1日)に参加した塚本晋也監督が、くしくも“見届け人”となりました。貴重なアブダビ映画祭最後のレポートをお送りします。(取材・文:中山治美 写真:塚本晋也)

アブダビ映画祭」ホームページ→

日本映画も多数紹介

セレモニー会場
オープニングやクロージングは、エミレーツ・パレス内のオーディトリアムにて。最大1,100人を収容できる。
映画祭グッズ
映画祭オリジナルグッズ。これも貴重な品になってしまった。

 2007年に中東国際映画祭として創設。海外の優れた作品を紹介することで自国の新鋭作家の育成と映画産業に刺激を与えることが目的だった。2009年にアブダビ映画祭に名称を変更。海外の気鋭作家を集めた「ナラティブ・コンペティション」、新人監督を対象とした「ニュー・ホリゾンズ」、ほかドキュメンタリー、短編、エミレーツ(首長国作品のみ)と五つのコンペティション部門があり、第8回は37か国から計53作品がコンペに選ばれた。高額賞金も話題で、2014年の「ナラティブ・コンペティション」の最高賞(ブラック・パール賞)の賞金は、10万米ドル(約1,200万円。1ドル=120円換算)。日本作品では第7回大会で、是枝裕和監督『そして父になる』(2013)が、子供の人権保護を目的とした団体から贈られるチャイルド・プロテクション賞脚本賞を受賞している。

塚本監督、初の中東へ

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せっかくなのでサファリツアーにも参加。ラクダと戯れる塚本監督。赤ちゃんラクダがかわいい。
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アブダビ映画祭のフォトセッションスペースで記念撮影。

 塚本監督の『野火』は、ナラティブ・コンペティション部門での参加。プログラムディレクターのテレサ・カビーナがベネチア国際映画祭で『野火』を観賞しラインナップに加えた。選出理由について、テレサは「ベネチアで最初に観た後、わたしたちは長い間、沈黙してしまいました。そして決断しました。たとえ自分たちの映画祭の観客が、この映画を最後まで見続けるのはつらいことになるだろうとわかっていても、それでも絶対に上映しなければならないのだと。戦争は、メディアによってあまりにも簡単なもの、キレイなものに作り上げられています。実際に爆弾が落ちたとき、そこで何が起こっているかを避けて通っている。それを見せてくれる本作を招待することに、わたしたちは誇りを感じます」と語った。

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映画祭のプログラムディレクターであるイタリア人のテレサ・カビーナと一緒に。彼女が『野火』を選んでくれた。

 国際映画祭の常連である塚本監督にとっても、中東の映画祭は初参戦。『KOTOKO』(2012年日本公開)で同じアラブ首長国連邦で開催されるドバイ国際映画祭に参加できる機会があったが、当時は両親の介護もあり渡航を見送った。「後日、アラブの映画祭はすごく豪華だと聞き、行かなかったことを残念に思ったことがあります。今回は特に、ようやく製作にこぎ着けた『野火』に込めた思いを自分で直接観客に伝えたいと考え、参加を決めました」(塚本監督)。渡航前には映画祭側から、飲酒や服装などイスラム圏を訪れる際の注意事項が書かれた書類がメールで送られてきたという。

ウワサ以上の豪華さ

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親しくなった台湾映画『EXIT -エグジット-』のチェン・シアン監督(写真右端)と一緒に。チェン監督は新人監督部門「ニュー・ホリゾンズ」部門に参加していた。
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エディハド航空のビジネスに乗って、東京からダイレクトでアブダビへ。「ここまでストレスなく移動ができたのは初めて」(塚本監督)。

 アブダビ映画祭のゴージャスさは、東京発のフライトから始まった。当時、塚本監督は『野火』と共にベネチア、トロント、モントリオール、釜山と映画祭ツアーの日々で、持病の腰痛が限界に来ていた。その旨を映画祭側に伝えると、エディハド航空のビジネスクラスを用意。そして宿泊先は、映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』のロケでも使用されたアブダビの最高級ホテル、エミレーツ・パレス。映画祭のメイン会場の一つでもあるが、もちろん全て招待である。

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宿泊先は、映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』でも使用されたエミレーツ・パレス。もちろん五つ星。

「ホテルのロビーから部屋まで1キロメートルあるような広大さでした。国際映画祭に参加する際のフライトやホテルでは、普段は多忙でなかなか読み進めることのできない資料に目を通したり、次回作の脚本やアイデアを書き留めるなど、良いアドレナリンが出るのか、結構仕事が進むのです。ただ同じ中東内には、戦火の絶えない場所もあります。戦争のにおいが近いはずなのに、このホテルでは毎夜ライブやパーティーで大騒ぎ。そのギャップをどう捉えたらいいのか、現実をつかめないまま4泊5日を過ごしたというのが正直なところです」(塚本監督)。

地元の観客は10%

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映画『野火』はユーロスペース、立川シネマシティなど全国順次公開中
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映画祭側の記録として、世界に数台しかない巨大ポラロイドでも記念撮影。日本人らしく正座。

 上映会場は、アイススケート場も入っている巨大ショッピングモール内のシネコン「VOX cinemas」。『野火』の日本での公開はほぼミニシアターだけに、観客にとっては映画祭ならではの貴重なひとときである。その観客のほとんどが欧米人で、民族衣装を着用している人はごくわずか。現地コーディネーターいわく、アブダビは他国から移住してきた外国人が90%、地元出身者が10%という割合。ゆえに上映後のQ & Aもこれまで参加した映画祭同様の内容で、中東らしい視点の質問を期待していたが、残念ながらなかったという。「しかもコーディネーターいわく『その10%の人も、ロマンスやアクション映画しか観ないからね』と。明るく言われてガクッとしました(苦笑)。でも、とにかく毎日暑い日が続くわけで、そういう気分にしかならないのかなぁと、納得もしました」(塚本監督)。それでも上映後、多くの観客が塚本監督に「感動したよ」と握手を求めてきたという。
 そして最高賞のブラック・パール賞は、アンドレイ・ズビャギンツェフ監督『裁かれるは善人のみ』(10月31日より日本公開)に贈られた。

人材育成はこれから

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観光名所でもあるシェイク・ザイード・グランド・モスクを見学。世界最大級のシャンデリアが自慢。

 今回、Q & Aやインタビューは、日本語→英語、英語→アラビア 語と、通訳を2人介してコミュニケーションをとることになった。これがネックとなり、自分の思いをきちんと伝えたいという塚本監督を困惑させることになった。「訳されるたびに、だいぶ言葉がシンプルになっていったという印象です。さらに、それまでの映画祭では通訳者が『野火』を観賞するのはもちろんのこと、自分の旧作や映画そのものをよくご存じな方ばかりでした。リッチな映画祭なので、その点も大丈夫だろうと油断をしていました。もっともそろそろ、英語で自分の思いを責任持って直接伝えるようにならなければいけませんね」(塚本監督)。
 ほか、エンドロールが流れている最中に音楽が切られて、場内が明るくなるなど、国際映画祭ではまずあり得ない上映環境でもあった。ハードの部分は整っていたが、ソフト面の充実・育成には、まだまだ時間が必要だったようだ。

アラブ地域サポートに集中

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絵になる風景。
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イスラム圏なので女性はアバヤを着用。カメラを向けると怒られると聞いていたので、塚本監督は遠慮しながら写真を撮ったらしい。モスクでは、観光で訪れた女性でも肌の露出はご法度。

 アラブ首長国連邦ではドバイ国際映画祭も昨年からアジア・アフリカ部門を廃止し、コンペティション部門はアラブ作品のみとするなど内向き傾向にある。今回の映画祭終了の理由もそこにあるようで、その分、アラブの映画製作をサポートするSanad基金を立ち上げたり、外国映画のロケ地誘致などアラブ地域の映画産業活性化に尽力するという。第86回アカデミー賞外国語映画賞にパレスチナ映画『オマール、最後の選択』(2013)がノミネートされるなど、中東は今、最も勢いのある地域である。豊富な財源を武器にどんな作品を世に放つのか。次なる戦略に注目だ。

写真:塚本晋也

取材・文:中山治美

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