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フランス映画祭Special

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文・服部弘一郎

■本国フランスでは上映反対運動が行われた問題作『ロベルト・スッコ』
■ヴェテラン監督の視線と配慮が行き届いた映像エッセイ『落穂拾い』
■「同窓会気分」が嬉しい人情コメディの続編『原色パリ図鑑2』
■前半はフランス版「ダメおやじ」、後半は爆笑の連続!『天国で殺しましょう』


本国フランスでは上映反対運動が行われた問題作
『ロベルト・ズッコ』

 フランス国内だけで少なくとも5人(うち2人は警官)を殺した実在の連続殺人犯、ロベルト・ズッコの半生を描いた実録犯罪映画。ほんの10数年前の事件をリアルに、しかも実名で映画化しているとあって、フランスでは犠牲者の遺族や関係者を中心に猛烈な上映反対運動が行われたという問題作だ。カンヌ映画祭では、警察が上映会場の警備をボイコットするという事件が起きた。監督のセドリック・カーンは、若い女に翻弄される中年男の悲哀をエッチ描写 たっぷりに映画化した『倦怠』を手掛けた人。思い切りソフト路線の前作に比べ、むちゃくちゃハードな映画であることにまずビックリ。実録犯罪映画としても、サイコ・サスペンス映画としても、超A級の作品に仕上がっていることに2度ビックリ!  

 映画にはズッコが行った数々の犯罪が再現されているが、むしろ怖いのは映画に描かれることのない「謎」の部分だ。例えばズッコに誘拐されたまま行方不明になっている女性は、いったいどこに消えてしまったのか? そもそもなぜズッコは行き当たりばったりに次々と凶悪事件を起こさなければならなかったのか? 今も残るこうした謎の数々が、ズッコの事件をいまだ解決されることのない現在進行形のものにしているのだろう。

 最近は日本でも動機不明の凶悪事件が多発している。例えば世田谷の一家四人殺しの犯人は今どこに? ロベルト・ズッコの事件は遠い外国の話ではないように思える。

 

ヴェテラン監督の視線と配慮が行き届いた映像エッセイ
『落穂拾い』

 ミレーの名画「落穂拾い」に描かれている風景は、20世紀初頭にはフランスのどの農村でも見られるものだったという。農作業が機械化されて効率化すると、拾い集めるべき落穂が少なくなって「落穂拾い」の風景は農村から姿を消した。だが大量 消費社会の中では、商品流通の過程で廃棄される大量の品々が発生する。例えば畑に大量 投棄される規格外のジャガイモの山。棚の整理や商品の入れ替えで、賞味期限が切れる前に捨てられてしまう食料品の数々。街のパン屋は売れ残った前日のパンを捨て、青果 市場でも売れ残りの野菜が大量に放棄される。フランスを代表する女流映画監督アニエス・ヴァルダは、こうした品々を拾い集める人を現代の「落穂拾い」になぞらえる。この映画はそんな「落穂拾い」の姿を、ヴァルダ監督がデジカム片手に撮り歩いたドキュメンタリー風の映像エッセイだ。

  大量 生産と大量消費が当たり前になっている現代資本主義社会の隙間を、「落穂拾い」というキーワードで切り取る視線の鋭さ。しかしそれを大所高所から論じることなく、アニエス・ヴァルダという個人の視点から語っている点にこの映画の魅力がある。テーマになっているのは「社会」でも、語り口はあくまでも「個人」なのだ。デジカムでの撮影という手法も含めて、まるで小学生の夏休みの自由研究を思わせる素朴な手作り感覚の作品。だが作品の隅々まで、映画を知りつくしたヴェテラン監督の視線と配慮が行き届いている。

*2002年2月より岩波ホールにて公開予定

「同窓会気分」が嬉しい人情コメディの続編
『原色パリ図鑑2』

 パリ2区のユダヤ人街を舞台にした人情コメディの第2弾。ユダヤ人と非ユダヤ人のカルチャー・ギャップをユーモアたっぷりに描いた前作と打って変わり、今回はいくつかのエピソードが同時進行する盛りだくさんの内容になっている。前作に登場した顔ぶれが、今回もほぼ丸ごと再登場しているのがまずは嬉しい。こうした「同窓会気分」は続編映画に絶対必要なもの。例外はリシャール・ボーランジェが登場しないことだが、今回は前作の主人公エディですら大勢の中のひとりで、その妻サンドラは完全な脇役だ。これではサンドラの父を演じていたボーランジェが登場しなくても仕方がない。

 4年前の前作では活気に満ちていたパリ2区の服飾街も、不況で景気がさっぱりの状態。「生き残るには安売りの量 販店だ!」と発想するあたりは、ユニクロ・ブームの日本と同じようなものだ。ところが起死回生で乗り込んだ量 販店の仕入部長にまんまと騙され、エディたちの会社は倒産してしまう。ここからどうやって復活し、量 販店の部長に復讐するかというのがこの映画の見どころ。このエピソードと併走しているのが、エディたちの仲間セルジュの結婚話。彼が富豪の令嬢のハートを射止め、その両親に気に入られようと見栄を張ったことから生じるドタバタぶりが可笑しい。セルジュを演じているジョセ・ガルシアは、その風貌と芸風が先日亡くなったアメリカの名優ジャック・レモンを思わせる。

前半はフランス版「ダメおやじ」、後半は爆笑の連続!
『天国で殺しましょう』

 今から20年以上前、古谷三敏の「ダメおやじ」という漫画がヒットしてアニメや映画になったことがある。うだつの上がらない中年男が、妻や子供達に徹底的に虐待されるというマゾヒスティックな漫画だった。この映画『天国で殺しましょう』の前半は、まるでフランス版「ダメおやじ」だ。主演は『奇人たちの晩餐会』や『クリクリのいた夏』のチンチクリンのハゲ男、ジャック・ビユレ。監督は『クリクリのいた夏』のジャン・ベッケル。

 舞台はフランスの小さな田舎町。子供の頃からのクサレ縁で夫婦になったジョジョとルルの夫婦には、最初から愛情のかけらもない。田舎町では簡単に離婚もできず、妻ルルは夫ジョジョを虐待することで日頃の鬱憤の憂さ晴らし。ジョジョの困った顔や腹を立てた顔を見るのが、彼女にとっては無上の喜びなのだ。やがて夫婦の衝突は憎悪から殺意へとエスカレート。ジョジョは妻殺しの方法を弁護士に相談し、妻は農薬を使って夫の殺害を企む……。きわめて陰惨な話なのに、全編にちりばめられたギャグやユーモアで思わずニコニコさせられてしまうのがこの映画のミソだ。後半の裁判シーンでは爆笑の連続。

 原案はサッシャ・ギトリ(1885-1957)の映画『我慢ならない女(Le Poison)』('51)。ギトリは長らく忘れられた作家だったが、ここ数年フランスで再評価され、テレビや映画で作品が引っ張りだこの大人気。日本でも『カドリーユ』('97)が劇場公開されている。

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