79歳のワイズマン監督、マイケル・ムーアにダメだし!手法がまるで対極?

第66回ヴェネチア国際映画祭

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フレデリック・ワイズマン監督 - (C)Kazuko Wakayama

 第66回ヴェネチア国際映画祭の第2コンペ、オリゾンティ部門でイベント上映された映画『パリ・オペラ座のすべて』のフレデリック・ワイズマン監督が現地時間10日、インタビューに応じた。

 同作品はドキュメンタリー界の巨匠・ワイズマン監督が、348年の歴史を持つパリ・オペラ座バレエ団に84日間密着し、160分にまとめた記録だ。ワイズマン監督は50年にわたるバレエファンであり「ダンスにおける肉体と精神の関係性を学びたい」と自ら企画を申し出たという。ワイズマン監督がバレエ団にスポットを当てるのは、『BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界』に続き、2度目だ。

 ワイズマン監督は「私が見たパリ・オペラ座バレエ団の新たな発見や感じたことのすべてが、この映画に詰まっています。『オペラ座の怪人』のモチーフになった劇場の地下水路もそうですし、屋上で養蜂していることもすべてね。中でも、長年の努力と献身、そして鍛練を重ねているダンサーたちと、彼らを支えるカンパニーの在り方そのものが私にとっての発見でした」と言う。

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 一括りにドキュメンタリーと言えども、その手法はさまざまだ。ワイズマン監督のスタイルは、コンセプトも先入観も持たず、定点観測のように被写体を撮影し、集めた素材で編集という名の演出を加えていく。本作でも淡々と稽古風景や食事といったダンサーの日常から、彼らを支える美術・衣装スタッフら裏方、そして国家公務員である彼らが年金問題でミーティングしている超現実的な姿まで見せている。取材対象者にカメラで強引に斬り込んでいくマイケル・ムーア監督とは対極的だ。

 ワイズマン監督は「別に自分のスタイルが一番良いとは思ってないけど、私はこの手法が好きなんです。ムーア? 私は彼の大ファンというワケじゃありませんね。ムーア監督の映画は、(取材対象者ではなく)ムーア監督自身についての映画だと思う。特に面白いとは思わないな」とバッサリ斬り捨てた。

 巨匠の場合はしたたかに、相手の本音を写し出す。劇中の舞台稽古シーンで、振付師たちがダンサーにダメ出しする音声がまるでDVD特典の副音声のように入っている場面がある。ワイズマン監督は彼らにしっかりマイクを付けさせて声を拾っている。「芸術監督たちはハンドマイクを持っていて、時にはステージ上のダンサーに指示が届くようにマイクをオンにし、時にはオフにして演出側だけで話す時がある。そのオフで会話している内容が結構笑えるんだよ。あれは面白いだろ」と笑った。

 2007年秋に撮影したのも意味がある。パリ・オペラ座は、伝統ある劇団として「くるみ割り人形」や「ロミオとジュリエット」といった古典を上演する一方で、先頃亡くなったドイツのピナ・バウシュやスウェーデンの鬼才マッツ・エックなど気鋭振付師たちのダンスも積極的に取り入れている。その両者の演目がバランス良く上演される時期を選んだという。

 ワイズマン監督は「劇中で芸術監督のブリジット・ルフェーブルがバレエ団の生徒たちに『コンテンポラリー・ダンスを学ぶクラスもあるのに、ダンサーたちが受講に来ない』と嘆く場面があったと思う。でもその一方で、現代的なダンスを見事に踊りこなしているダンサーたちもいるんだよ。パリ・オペラ座が古典と現代の両方を大事にしているカンパニーであることを表現したんだ。彼らは6、7歳のころから踊りを始め、古典を小さいときから学んで肉体がそれを記憶し、さらに自分でその肉体をどのようにコントロールすべきかを熟知している。その鍛練のたまもので、驚くほど短時間で新しいステップを身につけることができるんです。わたし個人としては、古典も現代も、両方好きですけどね」と言う。

 79歳にして精力的に作品を発表しているワイズマン監督は先ごろ、新作映画『ボクシング・ジム』を撮り終えたばかり。宇宙旅行へ個人で行こうとするVIPから不法移民まで集まるボクシング・ジムに約2か月密着したという。どうやら今度は、移民国家であり、経済格差も激しいアメリカの縮図を見せてくれそうだ。それにしても、ボクシングもお好きとは? と伝えると、ワイズマン監督は「わたしについてまだ知らないことが、いっぱいあると思いますよ」とニヤリと笑った。

 『パリ・オペラ座のすべて』は10月10日公開。その公開を記念し、9月12日から25日、東京・ユーロスペースで「ワイズマンを見る/アメリカを観る-アメリカ社会の偉大なる観察者、フレデリック・ワイズマンの世界」と題した特集上映が行われ、日本初公開の『エッセネ派』も上映される。(取材・文:中山治美)

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