移民が抱く希望と厳しい現実のずれ…エイドリアン・ブロディ、ホロコーストを生き延びた建築家を描く『ブルータリスト』に込めた思い

第2次世界大戦時、ホロコーストを生き延びてアメリカに渡った、ハンガリー系ユダヤ人建築家の半生を描く、ブラディ・コーベット監督の『ブルータリスト』(全国公開中)。主演は、『戦場のピアニスト』(2002)で第2次世界大戦時にナチスから逃れて生き延びたユダヤ人ピアニストを演じ、最年少の29歳でアカデミー賞主演男優賞を受賞したエイドリアン・ブロディ。今作の主人公も、彼以外には考えられないハマり役で、主演男優賞の最有力候補と見られている。全米公開前、ブロディが、合同インタビューで今作にかけた思いを語った。
強制収容所に入れられていたユダヤ人建築家、ラースロー(ブロディ)は、戦後、従兄弟が家具屋を営むフィラデルフィアに移住するが、仕事は見つからず、肉体労働で生活を凌いでいた。ある時、大富豪ハリソン(ガイ・ピアース)邸のライブラリーを改装したことがきっかけで、ラースローは、ハリソンのために礼拝堂がある巨大なコミュニティセンターを作ることになる。また、戦時中に離れ離れになってしまった妻のエルジェーベト(フェリシティ・ジョーンズ)と姪のジョーフィアも、ようやくアメリカに呼び寄せるのだが、思いがけない苦難が待っていた。
第97回アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、助演女優・男優賞ほか10部門でノミネートされ、第82回ゴールデン・グローブ賞では、作品賞(ドラマ部門)と主演男優賞、監督賞を受賞している本作。ブロディは「脚本が本当に素晴らしく、深く感動しました。僕はとても長い間、こういう役を、そして、このように幅広くニュアンスのあるストーリーを語れる監督を見つけたいと切望していたんです。個人的に共感する類似点がたくさんありました」と語る。
フォトジャーナリストであるブロディの母は、1956年の革命時にハンガリーを逃れ、アメリカに移住したという。「母のジャーニーは僕の役柄とは異なりますが、過去の苦難やトラウマ的な体験が彼女の作品にどんな影響を与えたのか、深く洞察することができました。アーティストとしての彼女の人生と、後世に作品を残すことへの献身は、僕のキャラクターが求めたものによく似ています。また、僕自身の人生やキャリアにおいても、未来の世代が共感できる、他の時代や苦闘の物語を伝える意義深い映画を残したいと思っています」。
上映時間215分という長尺で描く壮大なスケールのドラマで、ビスタビジョンで撮影した映像美が圧倒的な今作。かなりの予算をかけたように見えるが、コーベット監督が「製作費は1,000万ドル(約15億円・1ドル150円計算)で、撮影日数は33日だった」と語るのを聞いて驚いた。
ブロディは「限られた予算、限られた時間しかなかったので、かなり準備をしないといけませんでした。とても少ないテイク数しか撮れなかったんです。また、ストーリーテリングには多くの手の込んだ長いテイクが必要だったので、みんなとても集中しないといけませんでした。でも、僕はインディペンデント映画をたくさん撮ってきたので、そういう重荷は新しいことではなかったし、それは、時には違ったレベルの創造性を生み出すこともあるんです。みんなでお互いを支え合いました」と撮影を振り返り、純粋なビジョンを持ったコーベット監督のストーリーテリングの能力とリーダーシップの功績が大きかったと賞賛した。
さらにブロディは「今作は、弾圧から逃れてアメリカにやってきた移民が抱く希望や夢と、厳しい現実とのずれを描いていると思います。第2次世界大戦中にはとてつもない苦難がありましたが、今も世界中には計り知れない苦難があり、アメリカだけでなく、人々は迫害されることのない故郷を見つけることを非常に必要としています。そういう移民の苦難の体験は、今なお色あせることがありません」と現代にこの映画が作られたことの意義を熱く語っていた。(吉川優子/Yuko Yoshikawa)
映画『ブルータリスト』はTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開中


