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『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』来日記者会見

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ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔

 取材・文 佐野 晶

ファンタジー小説の最高傑作『指輪物語』を壮大で巧みなヴィジュアル・センスで見事に映像化して世界的な大ヒットを記録した『ロード・オブ・ザ・リング』の続編でシリーズ第二部となる『ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔』。そのプロモーションのために前作に引き続きゴンドール王国の末裔アラゴルンを演じるヴィゴ・モーテンセンとローハン国の騎士エオメルを演じるカール・アーバンが来日した。アメリカ軍がイラクに攻め入る事が懸念される中、強い反戦のメッセージを引っ提げて登場したモーテンセンとアーバン。特にモーテンセンの熱い語りには会場から賛同の大きな拍手が起きた。


D司会:それではお2人にご挨拶をお願いします。


モーテンセン(以下VM):今日は集まってくれてありがとう。僕はこの作品をとても誇りに思っているんだ。今回はカールと僕だけで、他の皆が来られないのが残念だけど、皆のかわりに、できるだけ沢山の質問に答えたいと思っている。


アーバン(以下KU):コンバンハ。ミナサントアエテコウエイデス。コンニチハ。アリガトウ(日本語で)。ここまでしか日本語は分からないんだ(笑)。日本に来られてすごく名誉に思ってるよ。僕は日本の文化や国を心から尊敬してるからね。もう少し長く日本にいられたら良かったんだけど……。(会見場を見回して)こんなに多くのマスコミの人々がこの作品をサポートしてくれているんだなぁ。アリガトウ(日本語で)。


Q:原作を片手に撮影をされていたそうですが、どのような影響を原作から受けて役を演じましたか?


VM:撮影の最初から最後まで原作はガイドのような役割をしてくれた。つまり撮影現場では原作者のJ・R・Rトールキンとピーター・ジャクソンという監督が2人のいるようなものだったんだ。登場人物たちは、戦いの中でどの道を選べばいいのか、また、意見の対立があった時にどうすればよいのか、と様々な迷いを抱いている。彼らが抱く迷いは、僕のプライベートな生活の中でも存在するものだ。何かを選択する時には、一個人としての信念に忠実であるべきか、それともグループの一員として全員の利益を優先するべきか、この2つをどのように折り合いをつけるかって悩むんだ。そんな時「トールキンは小説の中でどう決断していたのだろう」と原作を読んだよ。ピーター・ジャクソンが僕をアラゴルンにキャスティングしてくれたのは、僕がそのようにアプローチして演じる俳優だと見抜いてくれたからだと思う。もちろん隣にいるカールを始めとした他の俳優陣も、同じくそのような資質を持った俳優たちだと思っているよ。


KU:撮影現場ではクルーの1人1人、全員が原作を持っていたんだ。食事の用意をする人たちまで持ってるんだよ。だから全員が現在自分たちがどんなシーンを撮影しているのかを理解していたんだ。全員にそれだけの情熱がなければ、あれだけの作品は生まれなかったと思う。トールキンの原作は、何か迷いが生じたり、問題が発生した場合に、必ずそこに戻るというバイブルのような存在だったね。この作品に限らず、文学を映画化すると全てを映像する事はできないので、凝縮されていくことになるんだ。映画は言葉で説明しなくても、表情で瞬間的に感情を表現することができる。そういうシーンでは、僕は原作を読んで、その時の気持ちをつかむんだ。それでその感情をどんな表情をすればいいかって分かるんだ。原作はぼくにとっては、ある種のサプリメントを飲んでいるようなものだったよ。


Q:ヴィゴさんのTシャツの文字と、カールさんの背中の文字は、何か意味がおありでしょうか? (ヴィゴは大きく「和」と書かれた帽子をかぶり、Tシャツの胸にも「石油の為に血はいらない」と日本語で記され、カールも背中に「平和」と書かれた布を縫い付けている)


VM:僕は、映画のことは映画であって、政治的な道具に使うべきではないという考えを持っている。だが、あまりにも第1部、第2部ともが、アメリカのみならず世界のマスコミで、現実に起きている事と“比較”されている。トールキン自身も、原作を書いた時、第2次世界大戦のこととは一切関係ない、これはあくまで小説であると、繰り返し言ったにも関わらず、“比較”されてしまったんだ。

映画化に当っても、ヘルム渓谷で紛争があって、そこに様々な種族の人々が助けにきてくれる……という設定が現在のアメリカと“悪の枢軸国”との対立、そしてアメリカをサポートする“連合軍”を投影しているようなところがある、と分析する人々がいるんだ。私はそういう“比較”は望んでいない。だがそういう“比較”が必要であるならば、是非とも的確な比較をしていただきたい。映画が意図していない事が無理に現在の国際情勢と比較されてしまうのは僕の本意ではない。だから、自分の意思を表明しているんだ。僕は今、日本にいるので、日本語でこのように自分の意見を表明している。アメリカは本来、自由の国で何でも好きなことを言うことができるはずだ。それが建国の意思でもある。だからどんな状況でも対話があってしかるべきだと思う。ところが実際には、アメリカの爆撃でアフガニスタンやイラクの多くの人たちが亡くなっている。その数は残念ながら9月11日のニューヨークで亡くなった人たちの数以上なんだ。なのにさらに、アメリカ政府は国の人々の気持ちに耳を傾けることなく、イラクとの対話もなしに、一方的に戦争を起こすかもしれないという状況にある。

その現状と、この作品の“戦い”が比較されるのは違うんだ、と言いたい。私はアメリカ市民として発言する権利がある。それをきちっと表明していきたいと思ったので、このTシャツを着て現れたんだ。


Q:ちなみにそこに書かれている文字はどなたが書かれたのでしょうか?


VM:飛行機の中でスチュワーデスさんが紙に書いてくれたのを、自分で書き写したんだ。


KU:僕のほうは、ヴィゴが的確に表現してくれたので、何も付け足すことはない。全く同じ思いだよ。


VM:僕は皆さんに対して、こうするべきだと意見を強要するつもりは全くない。それだけはわかってもらいたい。ただ、現在の国際情勢とこの映画を比較するのなら、的確にしてもらいたいと思う。それから、このまま話し合いもなしに戦争に突入していくことが、危険なことであり、倫理的にも正しいことではないと思うことを表明したかった。大事なのは、ある事実に対してどう反応するかという事なんだと思う。


Q:ヴィゴさんは戦闘シーンの撮影時に前歯を折ってしまったというエピソードを聞きましたが、撮影中大変だったことはなんでしょうか? それからカールさんは、このような世界的な大作にキャスティングされたとき、どのように思われたのかお聞かせください。


VM:歯だけではなく、他にもいろいろと怪我はしたよ。この作品は戦闘シーンが多い。戦闘シーンではなくても、戦闘の準備をしているか、戦いが終わってホッとしているという状態で、戦場でばかり撮影していた。だから、どうしても怪我が多かった。

さらにヘルム渓谷の撮影には3ヶ月半もかかった上に、ずっと夜間の撮影だった。そうなると当然、疲労も溜まる。俳優だけでなくスタッフも、ほとんどの人々が大なり小なりの怪我や傷を経験したと思うよ。だけど、あれだけ素晴らしいシーンが出来上がったんだからね。それなりの代償が必要だったんだよ。

KU:この作品に参加することができて、信じがたいくらい素晴らしい経験ができたよ。それとロケでニュージランドを回ってみて今までニュージーランドで生まれ暮らしてきたのに、全然ニュージーランドのことを知らなかったのだと感じたよ。逆にスタッフに、こんなところもあるんだよと教えられて、改めてニュージーランドの美しさを知ったな。原作の「指輪物語」は12歳の頃に読んだことがあって、ピーター・ジャクソンが映画化するという話を聞いたときに、もう一回読み返したんだ。だけどその時には既に第一部の撮影が始まって7ヶ月も経っていたので、チャンスを逃したと知ってがっかりしたよ。


僕はハリー・シンクレア監督の『ミルクのお値段』という小さな映画に出ているんだけど、そのラッシュをシンクレア監督が友人であるピーター・ジャクソンに見せていたそうなんだ。ある日、突然ピーター・ジャクソンから電話がかかってきて「やる気ある?」と聞かれ、「それはもちろんですよ」と二つ返事したよ。まさに青天の霹靂だったけど、ヴィゴを含め素晴らしい才能のスタッフ、キャストの方々と出会えて、本当に素晴らしいものをたくさん学べたんだ。さらにこの映画がこのように大ヒットして、ホントに幸せだよ。ありがとう。


Q:私は映画を教材に使って英語を教えている者です。お2人は、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」という非常に有名なテーブルトークゲームがあるのですが、やったことがありますか?


VM:僕はやったことはないな。


KU:僕もすぐに外に遊びにいってしまう性格なので、やったことはないよ。


VM:この映画はもちろん違うけれどね。映画を教材にして英語を教えるということは、とてもやばいんじゃないかな(笑)。




Q:ヴィゴさんにお聞きします。あなたがこの映画を引き受けるきっかけになった息子さんは、あなたの役についてどう評価されていましたか?


VM:彼は「指輪物語」のファンで厳しい批評家なんだけど、非常に幸運なことに、今回に限ってはとても好評を得たね。「お父さん、大丈夫だったよ。ちゃんとやってたから、家族に恥をかかせないですんだね」とね(笑)。


Q:ヘルム渓谷の合戦シーンは、日本の時代劇を思い起こさせますが、黒澤明監督の映画など、日本の映画を参考にしたことなどはありますか?


VM:初めて原作を読んだときに、僕は両親がスカンジナビア地方出身ということもあって、まず北方の神話や民話を思い出したな。

それらは、歌や詩でなぜ戦うのかを朗々と歌い、そして戦ったあとに、いかにして我々は生き延びたのかを朗々と歌うんだよ。だから多くを語らずに寡黙に戦うアラゴルンやエオメルとはスタイルは似てはいないね。

内容に関してはとても似ていると思ったけどね。一方で、表情や体の動きで気持ちを説明するアラゴルンたちは、確かに侍同士のコミュニケーションにすごく似ていると思う。そういう意味で私は、稲垣浩監督の『宮本武蔵』や黒澤明監督の一連の作品など、日本の侍映画を思い起こしたね。さらに第3部になると更に素晴らしい騎馬戦があるので、それを観ると、日本の皆さんは『乱』を思い起こすかもしれないね。


KU:僕は剣を使って戦う訓練のために、ボブ・アンダーソンという人に会ったんだ。ボブには基本だけを教わり、残りは彼のアシスタントに教えてもらったんだけど、そのアシスタントが、私があまり感動していないのを見て「あの人が誰だかわかってるの? ボブ・アンダーソンだよ」と言うんだ。「あのエロール・フリンを振付けた人だよ?」って。それでも私があまり反応を示さなかったから彼は「彼はダースベイダーの中に入ってたんだよ」と言ったんだ。「ああ、そうか。ダースベイダーに教えてもらったんだ」と、エロール・フリンには何も感じなかったのに、ぼくは急に目が覚めて「すごい、オレはダースベイダーと戦ったんだ!」って感激したんだよ(笑)。

Q:とても楽しそうな現場ですね。


KU:楽しかったよ。あともうひとつ言い忘れてたけど、普通、撮影の間のランチというのは楽しみなものだけど、この作品の撮影中には食べれなかったんだ。食べちゃうと身体の動きが悪くなっちゃうからね。そこは苦労したな。

Q:第1部のDVD「スペシャル・エクステンデッド・エディション」の特典ディスクは、非常に優れたドキュメンタリーで、あれだけでひとつの作品として出来あがっていると思います。キャストの方々がとても積極的に協力されていますが、ピーター・ジャクソン監督からどのような指示があって撮影の合間に協力していたのですか? また、カールさんは同じように第2部の「スペシャル・エクステンデッド・エディション」の特典ディスクにお出になるのでしょうか?


VM:あれはとてもユニークなドキュメンタリーで、私も非常によくできていると思う。第2部、第3部でも、カールも含め、皆が出演してそういうものがまた出ると思うよ。あの特典ディスクは、あれを作っている製作会社からリクエストがあってやったもので、ピーター・ジャクソンは関わっていないんだ。撮影中は、苦労もあったし厳しいこともあったが、すごく良い経験で、撮影に参加した皆とは、あれからずいぶん時の経った今でも、家族のような気がする。そういう思いがあったので、ああいうものを作るということに協力したんだ。「スペシャル・エクステンデッド・エディション」は、特典ディスクとは別に、映画本編もとても気に入っているんだ。

確かに時間的には劇場公開版より長くなっているけれども、流れはよりスムーズで、のめりこんでしまうので劇場版より長いとは感じないんだ。これからまたピーター・ジャクソンは第2部、第3部と「スペシャル・エクステンデッド・エディション」を作るだろうと思う。皆さんが色々な形で見られるものが出来上がればいいなって思っている。


Q:最後に、出演なさったお2人から「二つの塔」の個人的にここを観て欲しいというところを教えてください。


KU:今回、話の中心となっているのは、勇気ある素晴らしい戦士であるアラゴルンだよね。彼は様々な恐怖や自分の中の葛藤を乗り越えて戦っていくんだけど、そんな中で非常に静かな、フッと心が安らぐアルウェンとの美しい愛のシーンがあるんだ。そんなシーンが見所だと思うよ。


VM:特に「ここ」という特定のシーンはないけれど、この話で訴えようとしているのは、今カールが言っていた「愛」であるとか、自己犠牲であるとか、ひとつのことのためにみんなで力を合わせるといったことだと思う。

僕はそこを一番観てもらいたい。愛と希望は自分の人生においても大事なことで、演技する上でも大事なことだと思っているんだ。愛と希望がなければ、皆と仕事をして得た素晴らしい体験はあり得なかったと思う。人は何かをすることによって何かを学ぶ。それは、自分のことについてかもしれないし、人生についてかもしれないし、他の人のことについてかもしれない。とにかく体験するということは、全て学ぶということなんだと思う。

今回、この映画に出演した体験というのは、これまでのあらゆる体験を超えた以上の素晴らしい経験だった。これが愛と希望そのものだったんだ。だからこの作品は素晴らしいラブストーリーなんだと思う。


KU:この作品のテーマは友情だと思うよ。それも一時的な友情ではなく、お互いに対する気持ちがどれだけ長く続くかということにあるんだ。「二つの塔」は、メリーとピピンを探して皆が走っているところから始まるんだけど、彼らはどんな困難にあっても決してあきらめず、「必ず探し出すんだ」と信念を抱き、友達に対する愛を持ち続けるんだ。その愛の強さが、世界でヒットした理由なんじゃないかなって思ってる。

1月23日 都内帝国ホテルにて

 

 

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