Q:
この『バリー・リンドン』の無類の映像美に関して映画界でよく触れられますが、あまり演技に関して話されることがありません。個人的には素晴らしい演技だと思うのですが、どういった経緯であなたはキャスティングされたのでしょうか?
(レオン・ヴィタリ)恐らくスタンリーは、最も早くビデオ・テープでキャスティングを始めた監督の1人だと思うが、キャスティング・セッションの場所には現れなかったんだ。わたしがそれまで参加してきたキャスティング・セッションでは、写真(プロフィール)を持っていって、プロデューサーや監督に演技を見てもらい「後で電話するから」といういつものお決まりパターン。しかしこの映画のキャスティング・セッションでは、2日前に、スタンリーのオフィスから2ページ分の台本が送られてきて、それを覚えてくるように指示されたよ。従ってキャスティング・セッションの際には、フリーに演じていたわけではなかったから、与えられたせりふでどれだけ演技できるかの勝負だったね。その場にスタンリーは居なかったけれど、わたしがそれまで経験したキャスティングの中で一番心地良い環境だったと思う。それから4か月後にキャストに決まったとの電話を受け、6か月後にようやく撮影のセットに入ったんだ。
Q:あなたのセットでの撮影期間と、スタンリー監督との仕事について教えて下さい
(レオン・ヴィタリ)最初の契約は、8週間で30日間の撮影だった。それは、ダンス場で開かれたコンサートに関連した撮影でね。スタンリーは、撮影前に僕を呼んで座らせ「これからストーリーを大幅に変更し、君が出演するシーンをもっと書き加えるから、クランク・アップまで居ることになる」と言ったんだ。当時26歳だったわたしにとって、とんでもない出来事だったよ。本当に素晴らしことだった。
もうひとつ素晴らしことは、スタンリーがわたしに信頼をおいてくれていると感じたときだね。仕事の際に、もしスタンリーが意図していたものと違っていたら「それは違う」と言ってくれたりして、励ましながら演技を盛り立てるんだが、「こうしてくれ」と指示してくることはなかったんだ。恐らく唯一指示らしき言葉を受けたのは、弟役の子どもを連れて歩いているシーンで、スタンリーに呼び止められ「このシーンを君はどうやるんだい?」と聞かれ、わたしが「ドアを開けて子どもを連れて入ってくる」と答えたら、「よし! ただそこでフランケンシュタインのように突っ立ているわけじゃないよね」と交わした言葉だけだったね。
Q:映画を観ている限りでは、すべて計算し尽くされているように見えるのですが、どこか即興でやったように見える個所も結構ありました。そういったことはあったのですか?
(レオン・ヴィタリ)スタンリーはセットに来る前は、決してこれからどうやってシーン撮るか決めていなかったんだ。だからいつでもレンズを変えられるようにしていたよ。最初は35ミリから始めて、俳優たちに「このシーンで何をすべきか演じてみなさい、ただリアルじゃなきゃ駄目だ。その演技によって、どうやってわたしがシーンを撮るか決めるから」と言ってくる。当然、自分が思い付いた発想を順番に演じてみて、その間スタンリーは、カメラの回りを動き回って、レンズを変えたりしている。そして最後に「これがこのシーンのファースト・ショットだ」と言ってくるんだよ。でも、撮り始めたシーンに俳優たちが何か気に入らなかったり、うまくいかなかったりすると「このシーンに問題があるみたいだが、ほかの言い方もできるかい?」と問いかけてくる。俳優たちが難色を示したときには、俳優たちとともにシーンを考えるんだ。例えば、バリー・リンドン(ライアン・オニール)との決闘シーンで、スタンリーは15冊分はありそうな決闘に関しての書物を座って読みながら、決闘の仕方、一番人を惹(ひ)き付ける手段を書物から調べていて、その中で俳優たちと話し合いながら、一緒にシーンを徐々に作り上げていった。そして一度決断すると、その時点で誰もがその場で何をしなければならないか、しっかり把握しているんだ。どのシーンにおいても、スタンリーは、このシーンに必要な感情の起伏のさじ加減を知っていた。だからわたしにとっては、彼が映画監督というより、舞台監督に感じたほどなんだよ。
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