『大洗にも星はふるなり』妄想族のススメ!?

　物語の大部分は男たちの妄想で展開されていくという本作。その中でも先陣を切って、大妄想劇を繰り広げるのが、山田孝之演じる超ド級のナルシスト男・杉本です。黒のタキシードに身を包み、ルパンばりのもみ上げになぜかポニーテール、ポマードで黒光りした頭と、胸には一輪の真っ赤なバラ。この見た目だけでも、「こんな山田孝之見たことない！」と思ってしまいますが、これはまだまだ序の口。

　ナルシストだけにプライドが高く、自分は特別というふてぶてしい態度で登場するものの、弁護士の関口（安田顕）によって、ストーカー癖を暴露されるや一転、初めの姿はどこに行ったの？　と突っ込まずにはいられないほどに、見た目も中身も音を立てて大崩壊していきます！　その見事なまでの崩壊っぷりに、やっぱり「こんな山田孝之見たことない！」と声を大にして言わずにはいられないことでしょう。

　この振り切れた演技、新たなファンの獲得も間違いなさそうな勢いです！

　野郎ばっかりが集まった映画といえば、やっぱりイケメンが重要アイテム！　しかし、コメディーの世界では、真っ当なイケメンは必要ありません!!　本作でも、注目の若手イケメンたちが、コメディーの洗礼を受け、イケてないキャラクターとして大奮闘しています。

　とにかくサメが大好きでたまらないガリ勉のサメマニア・松山を、今やテレビに舞台にと大活躍の山本裕典が演じ、さかなクンも「ギョギョーッ！」とビックリのさかなクンコスプレを披露。ルックスとは裏腹に、語り出したら止まらないウザさと、ガリ勉らしい策士ぶりを発揮し、見事にイケてない男に……。

　常にハイテンションなお調子者・仁科には、父親（ブラザー・トム）譲りのモデルばりの長身と端正な顔立ちという申し分のないルックスで注目を集める小柳友。どんなボケでも拾って突っ込むという、どこか憎めない愛くるしいキャラクターで一見モテそうなのに、姑息（こそく）な手段にまで出てしまうほどのチキンぶりで、やっぱりイケているわけがなく……。

　そして、フレッシュな最年少・白石隼也も当然ながら……ありえない天然ぶりで、とにかく空回りしまくる林という終始残念な役どころに大抜てき。

　加えて、テレビドラマ『33分探偵』でおなじみの「あのメイク」も、もちろん体験させられているのです！

　本作の魅力を語る上で、なくてはならないものと言えるのが、安田顕、佐藤二朗、ムロツヨシら個性派俳優陣の存在！　彼らなしでは、この作品の「笑い」は成立しないと断言できるでしょう。

　ヘタレ5人衆の勝手な妄想劇をバッサバサと切り捨てる華麗なる名推理を連発する弁護士・関口を演じた安田顕は、バラエティーや舞台での豊富な経験を生かし、とにかく大まじめに関口を好演。真顔であればあるほどに、面白くなるのがコメディー作品の鉄則！　確実に笑いのレベルを高めてくれています。

　また、妄想好きな海の家従業員の中でも、ピカイチのヘタレっぷりを見せる浮気願望の塊・猫田を見事なまでの自然体で演じたムロツヨシは、コメディーの命である「絶妙な間の取り方」で確かな腕を見せ付け、安定した笑いを提供してくれています。

　そして、この『大洗にも星はふるなり』において、最も強烈な印象を与えていると言っても過言ではない存在感をなのが、海の家のマスターを演じた佐藤二朗。海の家という限られた空間で演技バトルを繰り広げていく役者陣が、よく芝居を続行できたなと感心してしまうほどの暴走ぶり！　たとえセリフがない時でも、間違いなく目が離せない存在として異彩を放ちまくっています。

　舞台となる海の家での一連の出来事の発端ともいえるのが、マドンナ・江里子ちゃんの存在。そのかわいさゆえ、妄想が大好きな6人の男たちを骨抜きにし、魅惑の妄想ワールドへといざなってしまった、何とも罪作りな女の子ではありますが、今をときめく戸田恵梨香ならば、それも許されてしまうでしょう！

　劇中ではそれぞれが作り上げる妄想ワールドでの江里子ちゃんが展開されるため、キャラクターは七変化し、かつ本当の彼女は最後までなかなかしっぽをつかめません。が、それゆえ状況に応じて、コスプレから「戸田恵梨香的にそれは大丈夫？」と思わず心配せずにはいられなくなるようなスゴメイクまで、コメディーならではの体を張った芝居を見せており、女優としての潔さを見せ付けてくれています。
　野郎映画の中で、ひときわ輝く紅一点にも注目です！

　映画『大洗にも星はふるなり』は、11月7日よりシネセゾン渋谷、シネリーブル池袋ほかにて全国公開