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第25回 高級B級映画『マチェーテ』のすべてに迫る!

LA発! ハリウッド・コンフィデンシャル

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『マチェーテ』ってどんなお話?

「マチェーテ」とは日本語で言う「鉈(なた)」のこと。拳銃よりもマチェーテを自分の武器として好む、主人公の名前でもあります。

メキシコで保安官だったマチェーテは、麻薬を取り締まりに行った先で地元に巣食う麻薬キングのワナにはまり、妻子を目の前で殺害された揚げ句、自分も半殺しという地獄のさたに遭遇します。誰も信じられなくなったマチェーテは復讐(ふくしゅう)を誓いつつも、やむなく渡米。地続きの国境を越えてテキサス州に入り不法移民の一人として生活を始めます。
そんなある日、不法移民たちの手助けをする「ネットワーク」を先導する女性ルースと知り合い、彼女もメキシコの腐敗に憤る仲間だということを知ります。やがてマチェーテは、ひょんなことから請け負うことになった殺しの仕事を通じて、故郷の麻薬問題はテキサス州の腐った政治家たちが悪化させているのだという事実を知り、ルースの仲間たちと共に、大鉈(マチェーテ)を相棒に悪を倒すべくヒーローとして立ち上がる……というのが映画のあらすじです。

マチェーテが次々に悪人を血祭りに上げていく様は、まさにB級映画の真骨頂なのですが、実はこの映画、そんじょそこらのB級映画とは大違いなんです!

主役のダニー・トレホって!?

この映画が高級B級映画になれた理由は、主役マチェーテを演じているダニー・トレホなしには語れません。ダニーさんの名前に聞き覚えがない方でも、彼のイカツイ顔と入れ墨だらけの体を見たら、「あぁ、あの人か!」と気付かれるのではないでしょうか。

ダニーさんは今年で御歳66歳(わぉ!!)。これまで端役・悪役として出演したテレビ・映画作品は約200本と、「ハリウッドでダニーを知らない人はモグリだ!」と言われるほど有名性格俳優で、悪役をやらせたらこの人の右に出る者はいないといわれるほどの方です。

実はダニーさん、若かりしころは悪役を地で行く生活を送っており、窃盗・強盗に麻薬と、とんでもない非行少年だったらしく、逮捕された回数は数知れず……。カリフォルニア中の刑務所を出たり入ったりを繰り返す生活が約11年ほど続いたそうです。ボクサーになりたかったものの、刑務所暮らしがそんなに長くてはプロになることなどもちろんムリ。「人生お先真っ暗か?」……と思われた矢先、州立刑務所が主催する服役者のためのボクシング・トーナメントが開催され、出場。ライトウエイト級のみならずウェルターウエイト級も制覇し、Wチャンピオンに! このトーナメントでの勝利をきっかけに自分の人生を見直す決心をしたダニーさん。麻薬・アルコール中毒者たちのサポート・グループに入り、同じ問題を抱えているほかの人たちと共に、社会復帰への努力を始めたのでした。

そんなある日、グループで知り合った人から「映画のエキストラをやらないか?」と誘われ、初めて映画の撮影現場へ。たまたま行ったその撮影現場は、映画『暴走機関車』(故・黒澤明監督の原案作品)のセットだったのですが、同作の脚本家エドワード・バンカーも元服役者だったという偶然が待ち受けていました。バンカー氏は当時、自分の経験を生かして(!?)犯罪小説を書き始め大成功し、人気作家として活躍していたのです。 エキストラとして働いていたダニーを見かけたバンカー氏は自分が服役していた刑務所でダニーがボクシング・チャンピオンだったことを知り、元・ムショ仲間のダニーとすぐに意気投合。やがて映画に出てくるファイトシーンのために、主役のエリック・ロバーツをトレーニングしてくれないか、と彼にオファーするのです。これが転機となり、ダニーは監督アンドレイ・コンチャロフスキーの目にも留まり、エキストラからセリフのある役へと大抜てき! 俳優としてのキャリアをスタートさせることになったのでした。

何ともすごい偶然の連続ですが、更生しようと頑張っていたダニーさんに、幸運の女神がほほ笑んでくれたのでしょう。

映画『マチェーテ』へのなが~い道のり……

時は流れて1993年。そのころ、ロバート・ロドリゲス監督は映画『デスペラード』の撮影を始めようとしていました。と同時に、当時ハリウッドで一番ホットだといわれていたロドリゲス監督は、次にどんな作品を撮影しようかと頭を悩ませている時期でもありました。そんなある日、たまたま役者の一人として現場に来ていたダニーさんと出会います。同じメキシコ系ということもあり意気投合し、話も弾んでいたところ、驚いたことに何とお互いがいとこの間柄であることが判明したのです(メキシコ系ファミリーは人数が多いのでこういうこともよくあるわけです・笑)! ますますダニーとの仲を深めたロドリゲス監督は、彼を主役にした映画を作りたいとアイデアを膨らませ始めます。そして、間もなく『マチェーテ』という脚本を書き終えたのでした。

しかし、いくらロドリゲス監督が書いたものでも、すぐには売れないのが脚本です。ましてや、主演に悪役では有名だけど一般的にはマイナーな俳優が決定している……となると、なおさらです。主演俳優は映画をしょって興行収入を稼ぎ出さなければいけない存在。出資側にとってはかなりメジャーな俳優が主演しない限り、元が取れないことが多々なため、製作費を出そうとはしてくれないのです。

時がたつのは早いもの。そうこうしているうちに10年以上が経過し、『グラインドハウス』を監督することになったロドリゲス監督。温め続けていた『マチェーテ』のことを忘れるわけもなく、ことあるごとに製作のとっかかりを探していたところに、同作の共作パートナーであるクエンティン・タランティーノ監督が、「昔の映画館で観たようなクサ~イ予告編特集みたいのを劇中でやろうぜ!」と提案してきました。ロドリゲス監督は待ってましたとばかりに、『マチェーテ』を架空の予告編として作ることに!

そして2007年、『グラインドハウス』のお披露目会場で、ロドリゲス監督は『マチェーテ』の架空予告編を公開すると共に、ついに、同作品の劇場用映画の製作開始も発表したのでした。

友達の輪でできた「高級B級映画」

『暴走機関車』でデビュー以来、ダニーさんがそれまでに共演した有名俳優は数知れず。『マチェーテ』製作の話を聞きつけた昔の共演仲間たちが、「ダニーが初主演するらしいぜ!」ということで、お祝いも兼ねた友情出演に駆け付けてくれたのです。その顔ぶれは、まさに映画ファンが泣いて喜ぶ驚きの豪華さ!

例えば、ダニーさんと映画『ヒート』で共演したロバート・デ・ニーロは、人種差別丸出しの上院議員役で友情出演しています。これは天下のロバート・デ・ニーロにとってはかなり大胆な役です! そのほかにも、かなり驚きのセクシーショットを披露したジェシカ・アルバや、役柄を地で行っている感アリアリ(苦笑)のリンジー・ローハンスティーヴン・セガールドン・ジョンソンミシェル・ロドリゲスなどなど。どの俳優も普段の役とは異なる大胆奔放な演技をしていて新鮮です。これも、ロドリゲス監督への信頼と主役のダニーさんへの尊敬があるからといえるでしょう。

というわけで、ロドリゲス監督が長年温め続けてきたアイデアが、架空の予告編を経て、いよいよ映画として日の目を見た『マチェーテ』。この秋イチオシの高級B級映画を、皆さんもぜひ劇場で楽しんでくださいね~!
(取材・文 アケミ・トスト/Akemi Tosto)

About Addie

高校留学以来ロサンゼルスに在住し、CMやハリウッド映画の製作助手を経て現在に至る。アカデミー賞のレポートや全米ボックスオフィス考など、Yahoo! Japan、シネマトゥデイなどの媒体で執筆中。全米映画協会(MPAA)公認のフォト・ジャーナリスト。

悪役ほどいい人が多いというが、ダニーさんはそれを絵に描いたような人らしい。あのイカツイ顔で心は錦。カッコ良すぎる……。

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