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サイレント映画の魅力と話題の映画『アーティスト』

今週のクローズアップ

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今週のクローズアップ サイレント映画の魅力と話題の映画『アーティスト』

 2012年の世に彗星(すいせい)のごとく現れたサイレント映画『アーティスト』第84回アカデミー賞では、最多5部門を制覇したほか、フランス映画初の作品賞受賞、フランス人初の主演男優賞受賞の快挙を成し遂げた。そもそもサイレント映画が作品賞を受賞したのは、第1回アカデミー賞で映画『つばさ』が受賞して以来、83年ぶりのことだった。83年もの間沈黙を守ってきたサイレント映画とは一体? その歴史と魅力に迫りたい。

“サイレント”、“音がない”ってどういうこと?

 その昔、「活動写真」と呼ばれていた「映画」。その名のとおり、映画は動く写真だった。動く写真に、声を付ける技術などまだなく、映画が誕生した1888年から世界初のトーキー『ジャズ・シンガー』が公開される1927年までの約40年間、すべての映画はサイレント映画だった。





 映画館内に音楽を流したり、フルオーケストラの伴奏付きで上映が行われたり、日本では活動弁士という職業が誕生し、饒舌(じょうぜつ)に映画の内容を解説することもあったが、基本的にサイレント映画から発せられる情報は、視覚からの情報のみ。登場人物のセリフや思いを直接伝える手段としては、挿入字幕(インタータイトル)があったが、それも物語の進行を中断してしまうため、そう頻繁に入れられるわけではなかった。音声を使わずに登場人物の思いをどう伝えるか、いかにして観客を飽きさせないようにするか、そうしたことを突き詰めていくことで、サイレント映画は成熟し芸術的に優れたものへと進化を遂げていった。

 

世界で初めて物語構成を持ったサイレント映画『月世界旅行』
Time Life Pictures / Getty Images

世界初のトーキー『ジャズ・シンガー』
Michael Ochs Archives / Getty Images

サイレント映画に入れられた字幕
David McNew / Getty Images

“動きだけで伝える”サイレント映画俳優の演技

 パントマイム(マイム)と称されるセリフを使わずに身振り、手振り、表情で表現する演技。旅芸人一座によって上演され、1550年ごろにイタリアで誕生した即興仮面劇コンメディア・デッラルテを起源とするというこの演技形態は、サイレント映画の時代に脚光を浴び、発展を遂げた。喜劇王として名をはせるチャールズ・チャップリンは、後に「パントマイム芸こそが世界共通語」と語ったといわれているが、“音がない”サイレント映画と“身振り手振りだけで表現する”パントマイムが結び付いたのは当然至極で、サイレント映画にパントマイムは、必要不可欠なものだった。




 サイレント映画で使われるパントマイムには、映画監督のこだわりが感じられ、芸術的にも優れたものが多いが、『アーティスト』にも、サイレント映画のパントマイムの芸術性の高さが感じられるシーンがある。駆け出しの女優ペピー・ミラーが、あこがれのスター、ジョージ・ヴァレンティンのタキシードの片袖に腕を通し、自らを抱きしめるようにタキシードに寄り添うシーンだ。このシーンにはまったく挿入字幕が入らないのだが、ペピーがジョージに思いを寄せていることは一目瞭然(りょうぜん)で、ペピーの思いは、美しく、観客の心に伝わってくる。

 

コンメディア・デッラルテのイラスト
Imagno / Getty Images

チャールズ・チャップリン
Edward Gooch / Getty Images

ペピーがジョージに思いをはせるシーン
(C) La Petite Reine - Studio 37 - La Classe Americaine - JD Prod - France 3 Cinema - Jouror Productions - uFilm

“サウンド版”音楽の付いたサイレント映画

 『アーティスト』は、正式にはサイレント映画ではなく、“サウンド版”と呼ばれる作品群に属するといえる。“サウンド版”とは、無声映画からトーキーへの過渡期にあって、あくまでもトーキーにこだわった映画制作者や、トーキーを作る資金的バックボーンのない映画制作者たちによって作られた音楽付きのサイレント映画で、過去にサイレント映画として作られたものを、“サウンド版”として作り直したケースもあった。




 チャップリンは、音楽家への夢も持っていたというが、彼が作曲した映画『モダン・タイムス』の「スマイル」、『ライムライト』の「テリーのテーマ」など“サウンド版”のために作曲された楽曲に残る名曲からも、当時の音楽へのこだわりが伝わってくる。そして、現代に誕生した“サウンド版”『アーティスト』も、音楽へのこだわりに満ちている。しかもそれは、過去の名作への愛にも満ちている。ジョージのテーマ音楽として使用されている楽曲は、チャップリンへのオマージュだし、ジョージが撮影所に到着するシーンでは、小津安二郎監督の映画に登場する楽曲「サセレシア」、そのほかにアルフレッド・ヒッチコックの映画『サイコ』『めまい』のバーナード・ハーマンへのオマージュとして使用されている楽曲もある。

チャップリンが制作したサウンド版『街の灯』
Imagno / Getty Images

楽曲「スマイル」が使用された映画『モダン・タイムス』
Imagno / Getty Images

2012年の世に彗星(すいせい)のごとく現れたサイレント映画『アーティスト』

 サイレント映画からトーキーへの転換期を、トーキーの象徴といえるミュージカル映画として描いたのが映画『雨に唄えば』だとすれば、映画『アーティスト』は、その時代をサイレント映画として描いた作品だといえるだろう。『雨に唄えば』でサイレント映画のスターとして登場するリーナは、聞くに堪えない甲高い声の持ち主だったため、トーキーの流れに負け、ジーン・ケリー演じる主人公ドンとの恋にも破れていくが、果たして『アーティスト』でトーキーを受け入れられない主人公ジョージは、トーキーの流れにどう立ち向かっていくのか?




 「サイレント映画には、セリフがない。観客は、生きた感情を心で感じる。そんな経験を2012年に贈りたかった」。そう語るのは、『アーティスト』でメガホンを取ったミシェル・アザナヴィシウス監督。今の時代には、サイレント映画の存在を知ってはいても、観たことのない人が多いはず。本作に描かれるサイレント映画界のスター、ジョージとトーキーの台頭によって一躍スターとなった若き女優ペピーの恋物語を通して、サイレント映画の魅力に触れてみてはいかがだろうか?

映画『雨に唄えば』おなじみの名シーン
Michael Ochs Archives / Getty Images

映画『アーティスト』のジョージ
(C) La Petite Reine - Studio 37 - La Classe Americaine - JD Prod - France 3 Cinema - Jouror Productions - uFilm

現代のサイレント映画!『アーティスト』
(C) La Petite Reine - Studio 37 - La Classe Americaine - JD Prod - France 3 Cinema - Jouror Productions - uFilm

文・構成:シネマトゥデイ編集部 島村幸恵

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