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第71回エミー賞の光と闇 米テレビ界の深刻な問題点

ゲーム・オブ・スローンズ
ドラマシリーズ部門作品賞受賞を受賞し、有終の美を飾った「ゲーム・オブ・スローンズ」では壇上にキャストが勢ぞろい!

 現地時間9月22日に開催された第71回プライムタイム・エミー賞については、すでに多くの記事が出ており、当サイトでも速報総評的なレポートなどで、いかに授賞式が豪華な顔ぶれであり、意義深いものであったのかがわかると思います。事実、これほどの質の高い作品が競合するさまには、毎年のことながら圧倒されています(候補から漏れた作品だって受賞に値する作品は少なくないはず)。エミー賞をチェックせずして現代の映像作品を語ることなかれ! ということは大前提。一方で、授賞式そのものは先進的な候補作に比べると、えらく時代遅れな感じが、いよいよ強まってきたなあとも。そこで本稿ではエミー賞授賞式から見えてきた問題点や課題などについて、つらつらと考えてみたいと思います。(文:今祥枝)

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なぜ?授賞式の視聴率が過去最低

 まず、授賞式自体の視聴者数。米調査会社ニールセンによると最終的な数字は698万人。昨年から約32%減少して、過去最低を更新と報じられました。ニールセンと生中継したFOXのデータによればTwitter、Facebook、Instagramなどのソーシャルメディア上の言及は昨年から11%増加したそうです。これは、いずれの数字も想定内といったところでしょうか。そもそもテレビ離れが進んでいるというのは周知の事実で、今に始まったことではありません。地上波の特にCBSなどは盤石すぎる作品群により“高齢者向け”などと揶揄されたりもしていますが、今や地上波全体に高齢者向け感があるのは日本だけではないのです。

マッドメン
2008年に『MAD MEN マッドメン』がドラマシリーズ部門作品賞を受賞したときの模様 Photo by Kevin Winter/Getty Images

 では、エミー賞で脚光を浴びている番組はといえば、HBO、Netflix、Amazonといったプレミアム・ケーブル局や動画配信サービスのオリジナル作品が完全に主流。動画配信サービスの台頭はここ5年ぐらいだとしても、2000年代も後半以降からは、長らく主要アワードはケーブル局の番組が君臨し続けてきました。2008年にベーシック・ケーブル局としてAMCの『MAD MEN マッドメン』がドラマシリーズ部門の作品賞を初めて受賞した際には、「こんなに視聴者数の少ない番組が作品賞を受賞するから、授賞式の視聴者数が下がるんだ」といったジャーナリストや批評家の声も一定数存在しました。この年も視聴率が激減したと報じられていましたが、そもそも質は高くともケーブル局の作品なので、地上波のヒット作と比べれば必然的に数字は小さくなります。

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たかが視聴率、されど視聴率

 しかし、視聴者数が少なくともエミー賞で評価され注目を集めることが、志が高く質の高い番組を生み出すことにも繋がるわけで。実際にこの後は、ますますこの傾向が強まるわけですが、これは2000年代に新たにカテゴリーが創設されるほどの人気を博したリアリティー番組の台頭も少なからず影響しています。地上波の視聴者数ランキングは、上位はほぼリアリティー番組であることが通常となり、業界内では「ばかばかしい」とか「まっとうな番組の視聴者数を奪われた」といった不満を漏らす関係者も少なくありませんでした。今思い出すと隔世の感がありますが、リアリティー番組に対してはアンチも多かったことは確かです。しかし勝てば官軍なのがエンターテインメントの世界。何でもかんでも視聴率で語ることの虚しさは、日本の芸能記事などを見ても明白ですが、数字を無視することもまたできないのでした。翻って、ますます候補作は、質は高く視聴数が少ない非地上波の作品に寄っていったという現実は、授賞式の注目度と比例するものでしょう。アカデミー賞なども長年このジレンマに苦しんできたと思われます。

授賞式をテレビ局が中継する慣習はいつまで?

 いずれにしろエミー賞の中心にあるのは視聴料を払って契約するプラットフォームの作品群で、もはや地上波作品の存在感は決定的に希薄なわけです。去年ぐらいまでは、NBCの「サタデー・ナイト・ライブ」の関係者の受賞スピーチやプレゼンターなどのジョークでは、負け惜しみとも取れる自虐的なものも含め、Netflixを揶揄するものが少なからずあった。しかし今や、そういうジョークもシャレにならないほどに時代は変わったのだということを、本当の意味で痛感させられるものがありました。

 ということを背景に考えると、授賞式は4大ネットワークの持ち回りで生中継する習わしですが、それ自体に無理があるとも言えるのでは。授賞式のあり方もまた時代に合わせたアップデートが必要と思われますが、来年はどうなるでしょうか。

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司会者不在の授賞式はアリ?ナシ?

ジミー・キンメル
大物ホスト、スティーヴン・コルベアとジミー・キンメルも登場。しかし司会者はナシ…… Photo by Kevin Winter/Getty Images

 一方で授賞式自体の完成度が高く、翌年のエミー賞の候補になったり受賞することもあるわけですが、司会者不在の今年は完全にそうしたショーアップは手薄で残念な印象もありました。ブロードウェイなどの舞台、特にミュージカル作品で活躍する俳優もテレビの人気番組には多く、またバラエティー番組などの芸達者たちが集うのがテレビ業界の面白さ。そうした人材を授賞式で生かしてくれたらいいのにと、長年授賞式を見続けてきたファンとしては思ってしまいます。もっとも、今年は受賞者のスピーチがいずれも素晴らしく、それだけでも十分に司会者不在の気まずさやスベったネタなどを補って余りあるパワーがあったことは確かでしょう。もう余計なショーアップは要らない? いやいや、お祭りなんだから派手にやって楽しませて欲しい。個人的にはニール・パトリック・ハリスが司会だった年などの記憶が鮮明だったりするので、やはり楽しませて欲しいなという気持ちはあります。

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大番狂わせだった「Fleabag」の作品賞受賞

Fleabag
クリエイター、女優として活躍目覚ましいフィービー・ウォーラー=ブリッジが、「Fleabag フリーバッグ」(Amazon)で高評価! Photo by Jeff Kravitz/FilmMagic

 ここからは、さらっと受賞結果の感想を。これは全体的にうまくバラけて、結果として概ね納得という感じでした。米有力紙の多くが事前に出していた予想でも、大体「本命」か「対抗」が受賞した感じなのでは思います。「キリング・イブ/Killing Eve」はサンドラ・オーが本命でしたが、惚れ惚れするほどの怪演を見せたジョディ・カマーはまさにはまり役で、そもそも二番手につけていたのでそこまで意外ではなかったような。波乱があったとすればコメディシリーズ部門の作品賞で、さすがにここは「Veep/ヴィープ」が本命と多くが予想しており、「マーベラス・ミセス・メイゼル」に次いで「Fleabag フリーバッグ」は3番手だったのでサプライズだったかもしれない。でも、「Fleabag」は多くの媒体が受賞するべき作品として挙げていたので、終わってみれば「Fleabag」祭りも順当だったと言えるかもしれません。

 「ゲーム・オブ・スローンズ」のドラマシリーズ部門作品賞受賞に関しては、全8シーズンに対する作品賞ということで、これも良かったと思います。ものすごく個人的な感想ですが、心残りといえば無冠に終わった助演女優賞候補のレナ・へディ(サーセイ役)でしょうか。シーズン5あたりで受賞して欲しかったなとは思ってしまいますね。それでも10人ものキャストがノミネートされ、勢ぞろいした瞬間こそが彼らにとって最も誇らしい瞬間であり、賞以上のものを生涯の宝として心の中に持ち続けるのでしょう。というわけで、結果論ですが個人的には心底意外な受賞というのはありませんでした。

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技術部門にあたるクリエイティブ・アーツ・エミー賞は…

 最後に9月14日、15日と二夜にわたって開催されたクリエイティブ・アーツ・エミー賞の中から、プライムタイム・エミー賞に関わる受賞を見ていきたいと思います。

相変わらず強いジェーン・リンチ!注目のゲスト俳優部門

ジェーン・リンチ
「Glee」のスー先生役でもおなじみのジェーン・リンチが「マーベラス・ミセス・メイゼル」でゲスト女優賞を受賞 Photo by JC Olivera/WireImage

 ゲストスター部門は、個人的には結構楽しみにしているカテゴリー。ドラマシリーズ部門は『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』のブラッドリー・ウィットフォード(男優賞)とチェリー・ジョーンズ(女優賞)、コメディシリーズ部門は「マーベラス・ミセス・メイゼル」からルーク・カービー(男優賞)とジェーン・リンチ(女優賞)が受賞しました。後者は俳優部門では本当に強いですね。来年はまた「メイゼル」祭りとなるのかも?

 ドラマシリーズ、コメディシリーズ、リミテッドシリーズ/テレビ映画部門、リアリティー番組の各カテゴリーのキャスティング賞は、「Fleabag」「ゲーム・オブ・スローンズ』「ボクらを見る目」「クィア・アイ」が受賞。アカデミー賞ではSAG(全米映画俳優組合賞)の最高賞であるアンサンブルキャスト賞にあたるようなイメージがありますが、この中では「ボクらを見る目」だけが作品賞を逃しました。しかしながら本作に非常に勢いがあったことは事前記事に書いた通りです。

ジェーン・リンチ
音楽部門で受賞した「チェルノブイリ」のヒドゥル・ドゥナドッティル Photo by JC Olivera/WireImage

 もちろん映像作品には多くの評価軸があるわけで、細かく分類されているのでここでは注目しながら作品を見たい部門について、ざっくり紹介しますね。撮影部門は「ザ・ランチ」のドナルド・A・モーガン(マルチ・カメラ・シリーズ)、「ロシアン・ドール」のクリス・ティーグ(シングル・カメラ・シリーズ)、「チェルノブイリ」のヤコブ・イーレ(リミテッド・テレビ映画)、「マーベラス・ミセス・メイゼル」のM・ディッド・マレン(シングル・カメラ・シリーズ)が受賞。音楽部門では「ゲーム・オブ・スローンズ」のラミン・ジャワディ(シリーズ)、「チェルノブイリ」のヒドゥル・ドゥナドッティル(リミテッド・テレビ映画)、「フォッシー/ヴァードン(原題)」のアレックス・ラカモワール(音楽監督)らが受賞しています。

 ほかにも編集、サウンド、プロダクションデザイン、視覚効果など、実に多くのカテゴリーがあるクリエイティブアーツ・エミー賞。「技術部門」と一言ですまされてしまいがちですが、じっくり見ていくと面白い発見があるだろうなと思う一方で、もう作品数もカテゴリー数も多すぎて収拾がつかない感じもあります。正直なところ、米テレビ業界ウォッチャーである筆者でも全体を俯瞰できているかどうかさえ、もはやあやしいと思ってしまう時代。一方で映画の定義をめぐる議論もある昨今ですが、これだけ配信系が台頭してくると、テレビという言葉の定義もまた難しくなっている、再定義が必要なのではとも思います。諸々変化に応じたアップデートの必要性が急務であることを、例年以上に強く感じる授賞式でもありました。

今祥枝(いま・さちえ)ライター/編集者。「日経エンタテインメント!」で「海外ドラマはやめられない!」、「小説すばる」で「ピークTV最前線」、「yom yom」で「海外エンタメ考 意識高いとかじゃなくて」を連載中。本サイトでは間違いなしの神配信映画を担当。Twitter @SachieIma

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