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殺され続ける男…香川照之主演『宮松と山下』のただならぬ衝撃

宮松と山下

 主人公は「殺され続ける男」。いったいどんな映画なのか……。未知数の魅力を予感させる作品として、注目を集めているのが『宮松と山下』だ。このところニュースで話題になっている香川照之の14年ぶりの単独主演映画だが、作品の設定自体がユニークなうえに、意外なベクトルの驚きと衝撃が用意されている。作り手も気鋭の才能で、観る人を虜(とりこ)にする不思議な魔力が備わっているのだ。

真面目に殺される日々…エキストラをフィーチャー

宮松と山下

 『宮松と山下』に主人公として登場するのは、宮松という名の男。職業はエキストラ専門の俳優。映画やドラマなどで、メインキャラクターのバックに映りながら、さりげなく芝居をしている。そんなエキストラ俳優が、映画の“主人公”としてスクリーンの中心にいるという点が大胆かつ斬新だ。

 映画は時代劇のシーンから始まる。登場するなり侍に数秒で斬られ倒れた男は、時代劇の主人公らしき人物たちが立ち去ったあとにおもむろに立ち上がり、あわててセットの陰へ駆け込み、衣装を変えると再びカメラの前に戻って、また斬られる……。こうした撮影現場と、宮松の日常風景がテンポよく展開していき、たちまち物語に引き込むのが『宮松と山下』のマジック。エキストラの俳優というのは、同じ作品の中に何度も、しかも別の役で出てきても、観ている人には気づかれない。そんなエキストラ“あるある”エピソードが、時代劇からサスペンス、ラブストーリーまでさまざまな作品の撮影舞台裏とともに描かれ、観ているうちに前のめりになっていく。

香川照之がさすがの演技力を魅せる!

宮松と山下

 主人公の宮松はほぼ全編、出ずっぱり。演じる俳優の力量も試されることになる。言い換えれば、誰もが簡単に演じられる役ではなく、その点で、香川照之は最高のキャスティングとなった。香川といえば、ドラマ「半沢直樹」での大和田常務役の強烈なインパクトが有名だが、あらゆる役に“憑依する”ことを得意とする稀有な才能の持ち主。今回は、さまざまな撮影現場での多種多様なエキストラ役として、カメレオンのごとく雰囲気を変貌させる。しかも目立ってはいけないので、さりげなく背景に溶け込むうえで、名俳優なのに“存在感を消す”という高いハードルに挑み、見事にこなしているのだ。

宮松と山下

 この香川の淡々とした佇まいが、主人公・宮松の運命に不穏な予感も漂わせていく。微妙な動きまで操る表情筋、瞳の奥にたたえた深い闇、まばたきで表現する揺れる感情……。さりげない彼の演技テクニックは観客の心を何度も激しくざわめかし、一連の騒動はあったものの、改めて香川照之の俳優としての実力を思い知らせるはずだ。

日常と映画の撮影、その境界はどこに?

 香川の名演技を堪能させながら、『宮松と山下』は不思議な世界へと観客を導く。いまスクリーンで目にしているのは、映画やドラマの撮影風景なのか? それとも宮松の日常なのか? 非日常と現実のボーダーが曖昧になるのだが、その感覚こそ本作の最大の面白さと言っていい。

宮松と山下

 エキストラだけでは食べていけず、ロープウェイの駅でも働いている宮松はひとつ大きな問題を抱えていた。記憶を失って、自分が過去に何をしていたのか覚えていないのだ。タイトルにあるもうひとつの名前「山下」の意味、さらに宮松の妹らの登場とともに、その過去が静かに明らかになっていくとき、ただならぬ衝撃がもたらされる。

 撮影現場での宮松の演技が、実は現在や過去の彼の心情を表現していたり、前半の謎めいたシーンが後半でその意図を明らかにしたりと、構成や演出の妙に思わず感動して唸るのも、『宮松と山下』が映画ファンに強くアピールする点だろう。

監督は3人。世界注目の気鋭ユニット

宮松と山下

 そして注目なのは、この『宮松と山下』が3人の監督によって完成されたこと。東京藝術大学大学院の映像研究科、佐藤雅彦研究室を母体にした、監督集団「5月」というユニットだ。佐藤雅彦といえば、大ヒット曲「だんご3兄弟」の作詞と企画を務め、NHKの人気番組「ピタゴラスイッチ」を手掛けた気鋭のクリエイター。その教え子の2人で、メディアデザインや『百花』の脚本にも参加した平瀬謙太朗、NHKのドラマ演出に携わってきた関友太郎で結成された5月は、これまで短編映画がカンヌ国際映画祭などで上映され、本作もサンセバスチャン国際映画祭の New Directors 部門に正式招待されるなど、世界的に高い評価を受けている。

 監督3人というスタイルが独特なうえに、「常に新しい表現を開拓する」ことが彼らのポリシー。そんな「5月」の初の長編作品であり、これまでの映画の常識を軽々と超える“新しいセンス”が充満する『宮松と山下』。観る前の予感が、観終わった後、どのような余韻に変わっているか。まったく新しい映画体験となるのは間違いない。(文・斉藤博昭)

映画『宮松と山下』は11月18日より新宿武蔵野館、渋谷シネクイント、シネスイッチ銀座ほか全国公開
公式サイトはコチラ
(C) 2022『宮松と山下』製作委員会

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