伊藤健太郎主演作も!年末年始はショートフィルムの傑作選
10分の極上無料短編映画体験
ブリリア ショートショートシアター オンライン × シネマトゥデイコラボ企画
【最終回】
早いもので2022年も残りわずか。年末年始をみなさんはどう過ごされるだろうか?ショートフィルム専門のオンライン映画館「Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE(BSSTO)」では、過去に配信した作品の中から、海外の傑作をアンコール配信。さらに特別配信作品として、米国アカデミー賞公認アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2022(SSFF & ASIA 2022)で上映された日本作品『お帰りなさい』(主演:伊藤健太郎)を配信する。いずれも、12月28日から2023年1月9日の期間限定、無料で鑑賞できる。
※ご注意 この記事は作品についてのネタバレが含まれる内容となります。
人生の足踏み、そんな時は休んでみたら?『エモーショナル・ヒューズボックス / Emotional Fusebox』
『エモーショナル・ヒューズボックス / Emotional Fusebox』
監督 レイチェル・タナード
製作年 2014年
製作国 イギリス
上映時間 約15分
配信期間 12月28日~2023年1月9日
アナは母親の家の庭の片隅に住み、自身の親指で動画を作っている。そんな彼女を見かねた母親は、彼女に外に出るよう説得するが……。
イギリスの田舎で祖母と母と暮らす主人公アナは、いわゆる引きこもりのパラサイトシングル。冬のある日、家の前でイケメン男性の車が立ち往生。ここぞとばかりに母親はアナに男性と話をするように促すが、なかなかうまく進まない。終盤でアナの家族が抱える深い喪失と悲しみが明らかにされるが、暗いテイストで終わらず未来へと希望を残すラストが描かれている。長い人生の中では、いい時もあれば、落ち込む時もやってくる。立ち止まる時には立ち止まってもいい。困難にある人を包み込むような優しい映画だ。アナを演じるのは、BBC制作のドラマシリーズ「ドクター・フー」などの出演で知られる英女優ジョディ・ウィッテカー。
スタッフが選ぶエモい映画No.1!留学生カップルの淡くてビターな物語『ある夏の始まりに / An Early Summer』
『ある夏の始まりに / An Early Summer』
監督 ルル
製作年 2012年
製作国 アメリカ
上映時間 約17分
配信期間 12月28日~2023年1月9日
中国出身のミンはロサンゼルスで就職活動に励む。そんな中、旧知の女性アンが建築家という夢をかなえるために中国から渡米してきて……。中国からの留学生同士の、切ない数日間。
ただただ美しくて切ない作品。ストーリー、柔らかなギターの劇伴と弾むような中国語の響き、光を取り込んだ柔らかな映像。さまざまな要素が統合されて生み出される「エモい」感情。まさに映画は総合芸術だと実感する。監督自身が留学生としてアメリカに渡り、映画を勉強した経歴を持つ。監督の周りには、本作で描かれる二人のような留学生が数多くいて、いわば自分たちを代表する存在として主人公たちを描いたそうだ。対立関係として描かれがちな米中関係だが、個人の視点で見てみるとひたむきな努力を重ねる人間の姿がある。彼らの人生にエールを送りたい。
そしてこの映画、料理映画としても見どころがある。最初のシーンはミンが自分が食べるために粉から麺を打つし、アンが合流して一緒にキッチンに立つシーンでは魚料理やエビチリなどを作る。自己と向き合うのも「食」であるし、人間と人間をつなぐのも「食」だといえる。
伊藤健太郎主演、青年の挫折と再出発を描く物語『お帰りなさい』
『お帰りなさい』
監督 千村利光
製作年 2022年
製作国 日本
上映時間 約28分
配信期間 12月28日~2023年1月9日
プロバスケットボール選手を目指していた加藤雄大(伊藤健太郎)は「夢」に破れ、青森県つがる市で一人暮らしの祖母キク(大方緋紗子)の家を訪れる……。「しょうがない」とクソのような言葉で夢をあきらめてしまった。津軽の冬の厳しい寒さとは反する、キクや近所の人々の暖かさにふれ、心がほぐれていく雄大。そんな時、キクの目がほとんど見えていないことに雄大は気が付いてしまう……。
全編を真冬の寒風吹きすさぶ青森県でロケが行われたショートフィルム。挫折した主人公の心情を表すような寒々しい景色と、それと対比されるような暖かい人情が描かれる。主演の伊藤自身が企画をし、脚本コンペの中から千村監督の案が採用され本作が実現した。ラストシーン、キクから「やりたいこと言ってごらん、大きな声で」と促された雄大が口にする一言「俺まだ終わっていない」。俳優・伊藤健太郎自身の体重がのった重い一言のように感じられた。
観る人と作る人との心情がクロスして、勇気が生まれるのが映画の魅力。主人公や主人公を取り巻く登場人物たちに感情移入をして、自分自身の挫折体験や夢について自然と結びつけてしまう。主人公と同じように、夢をあきらめそうになっている人に観てもらいたい作品だ。
2019年12月から続けてきた本連載は今回が最終回。世相をシニカルに切り取るコメディー作品、夢と妄想のファンタジー、人間の本質を描くヒューマンドラマなど、世界では毎年数多くのショートフィルムが製作され、その中にはきらりと光る傑作がある。長編でなく短編だからこそ面白い映画の魅力を、本連載を通して知っていただけたなら、とてもうれしく思う。
BSSTOでは、今後も世界のショートフィルムを日本のみなさんにご覧いただく機会を提供していく。暮らしの中に、ちょっとした文化の「風」を取り入れる生活を、ショートフィルムで続けてみてはいかがだろうか?(大竹悠介)
今回紹介した各作品は「Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE」で配信中。